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「覇権」で読み解けば世界史がわかる その一

2022-10-22 21:10:11 | 読書/中東史

『「覇権」で読み解けば世界史がわかる』(神野正史 著、祥伝社)を読了した。2年ほど前、河北新報で本書の文庫版が紹介されていたので、何時か読んでみようと思っていた。行きつけの図書館でそのソフトカバー版を見かけたため、借りて読んだが、思った以上に面白かった。本書の表紙裏にはこんな内容説明がある。
ローマ帝国、中華帝国、イスラーム帝国、大英帝国、アメリカ合衆国―歴史上、覇を唱えた「世界帝国」。それらの国々がどのように生まれ、絶頂をきわめ、衰亡したのか。これを検証し、「歴史法則」としてまとめる作業を通して、21世紀の混沌を紐解いていきます。

「はじめに」の中で、特に意味深かったのが次の文章。
企業の平均寿命はおよそ30年と言われますが、国家の平均寿命はだいたい200年です。300年つづけば長期政権、500年以上つづく政権は、人類の歴史を紐解いてもそれこそ数えるほどしかありません。ましてや、覇権を握ったような国は総じて短命です……
 
 本書で取り上げられているイスラーム帝国は、オスマン帝国が中心だったが、それ以前のイスラーム帝国、アッバース朝もおよそ500年は続いた。もちろん600年もの長期政権でありながら、覇を唱えるどころか、常に中華帝国の「覇権」に甘んじた李氏朝鮮のような国もある。以下は本書の目次。

序章 転換期こそ歴史から学べ
第1章 ローマ帝国―民主と独裁の絶妙なバランス
第2章 中華帝国―中華思想を支えてきたもの
第3章 イスラーム帝国―原理主義が生まれたのはなぜか
第4章 大英帝国―ヨーロッパの本来の姿とは
第5章 アメリカ合衆国―「覇権」はいつまで続くか

 中東史に関心があることもあり、私的に最も面白かったのは第3章イスラーム帝国。それに対し、ローマ帝国と中華帝国は既知の内容が多く、特別新しい見解はなかった。
 著者は予備校の世界史講師で、所謂専門のイスラム研究者ではない。wikiにある最終学歴には、立命館大学文学部史学科西洋史学専攻 卒とあり、むしろそんな“門外漢”のイスラム解説が興味深かった。例えば本書では「イスラーム 発展の理由」をこう描く。
ムハンマドが「神の言葉を伝える預言者」としての地位を確立させ、一糸乱れぬ組織作りに成功した。(136頁)
・信者たちは、“宗教的情熱”に燃える命知らずの兵となった。(同上)

 専門の歴史学者なら、このような描き方はまずしない。ネットレビューには著者の持論や私見に批判的な意見も一部見られるが、読みやすさでは学術書は敵わない。
 ムスリムの六信五行は知られているが、シーア派が「五信十行」だったことを本書で初めて知った。改めてwikiで見たら、シーア派の教義として「五信十行」が載っていたが、これまで私が読んだイスラム関連書に「五信十行」はなかった。イスラムと言えば決まって六信五行と解説されているが、これはスンニ派だけの教義だったようだ。

 本書の特徴で全章に「歴史法則」というものがある。著者による史観というよりも私見にせよ、内容の殆どは的を得ている。この「歴史法則」は全部で38あり、第2章にあるものを引用したい。
■歴史法則25■
偉大な指導者によって打ち建てられた政権は、その指導者を失ったとき、崩壊の危機に陥る。(138頁)

 これはムハンマドの突然の死で、ウンマ(イスラム共同体)が崩壊の危機に陥ったことを指し、現にムハンマドの死を知ったアラビア半島の諸部族は一斉に反旗を翻す。しかし、このことがウンマを扶けることになる。そして歴史法則が持ち出されている。
■歴史法則27■
うちなる崩壊は外からの圧力によって止まる。(141頁)

 その例として、著者はロシア革命を挙げる。レーニンがロシア革命を成功させ、ソ連を打ち建てた時、世間の評価は「あんな政権は三日と持たない」というものだった。レーニン自身もそうした危機感を持っていたほどの弱体政権だったのが実態。
 しかし、西側諸国がソ連を潰すべくして起こした対ソ干渉戦争(シベリア出兵)が、バラバラだった国内に結束を与え、逆にソ連を強化されることに繋がった。そのためソ連が生まれたのは日露戦争のおかげ、70年も保ったのは対ソ干渉戦争のおかげ……と囁かれているという。
 ウンマも外からの圧力がかえって組織の結束を生み、崩壊の危機を乗り越えたのは言うまでもない。
その二に続く

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