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ロシアの軍国少年・少女たち

2020-03-03 22:10:19 | 音楽、TV、観劇

 録画していた2月26日(水)放送のBS1世界のドキュメンタリー、「映像詩 不滅のロシア」を見た。原題:Immortal 、制作はVesilind/VFS Films(エストニア・ラトビア 2019年)で、ロシアではないのが興味深い。番組サイトではこう紹介している。

プーチン政権のもとで愛国心がかつてなく高まるロシア極北部。少年は軍事教練、少女はバレエで一糸乱れぬ隊列を組み、石炭貨車が夜の街を往来する情景を、映像詩で描く。
 バルト系の新進ドキュとして、欧州の映画祭で次々と受賞を重ねる話題作。ダイヤモンドダストが街灯の光に舞うムルマンスク近郊の町にカメラを入れ、地方に根づく軍国主義やイデオロギー教育などを、人々の営みの中から象徴的な映像で切り取る。軍事訓練の教官が少年たちを鍛える口上や、愛国心をあおる合唱、少女たちがバレエの訓練中に交わす言葉が音響効果となり、構図や光線にこだわった映像にのって、心象風景を美しく伝える。

 以下は番組冒頭でのテロップ。
ロシア革命後、北極圏にはグラーグと呼ばれる強制労働収容所が数多く作られた。収容者を肉体労働に就かせ、第2次世界大戦の戦費も賄った。スターリンの死後解放が進められたが、人々の多くが土地に残った。

 ムルマンスクという州都を番組で初めて知ったが、wikiには第2次世界大戦直後に街は壊滅状態だったと記されている。しかし戦後まもなく街はモスクワレニングラードと並び復興最優先対象となり、急速に復興する。
 独ソ戦のことをロシアでは“大祖国戦争”と呼んでいる。1985年、この街の住民がドイツ軍に対し勇敢さ、不屈さ、英雄主義を発揮した功績により、「ソ連政府発行の勲章の中では最高章であるレーニン勲章と金星記章の授与と共に、「英雄都市」の称号が与えられた」(wiki)

「英雄都市」の称号を持つだけに街の人々の愛国・軍国主義は半端なものではなく、日本からみればまさに絵に描いた極右そのものだ。軍事訓練の教官が少年たちに言った「悪い平和より良き戦争」は、日本の教育現場とはかけ離れて過ぎている。尤も愛国心を尽く否定する日本の教育界の方が世界的には特殊なケースなのだが。
 ただ、独ソ戦ではドイツ軍相手に戦ったグラーグ収容者もいたのか、少し気になった。収容者の多くはスターリンの死後も土地に残ったそうで、元収容者の子孫が軍国主義教育を行っているとしたら歴史の皮肉に感じる。

 番組サイトだけ見れば、軍事教練を受けるのは少年だけの印象を受けるが、少女もそれを受けており、バレエに専念しているのではない。射撃はもちろん素早いライフルの解体と組み立ての訓練は少年少女共に施されている。教官曰く「青少年の軍事訓練は義務」だから。
 この街の青少年軍が映されたが、十歳に達しないような子供もいたのは驚いた。全ロシア軍事愛国運動の高まりで青少年軍が結成されたようで、「全ロシア軍事愛国運動」を検索したら、ヒットしたクーリエ・ジャポンの記事は興味深い。「「全国民を動員せよ!」これは現代のヒトラーユーゲントか|ロシアで深まる「愛国教育」【前編】」、「まずは制服で誘って…軍国主義的愛国心はこうして培養される|ロシアで強化される「愛国教育」【後編】」だ。

 私にもロシアの青少年軍はヒトラー・ユーゲントのパクリとしか見えなかった。後編にはロシア青少年の愛国運動組織「ユナルミヤ」が、国防大臣の音頭で2016年に創設されたことが載っていて、前編にも国家ぐるみの愛国教育の実態が紹介されている。
ロシアでは、国民の愛国意識を高める政策の一環として、さまざまな“愛国イベント”が実施されている。そのために政府は毎年、およそ5億ルーブル(約9億7000万円)の予算を組んでいる。実際はこれだけでは足りず、年8億7300万ルーブルが「愛国主義」のために費やされている

 欧米に倣い、日本でも取り組むようになってきた性的少数派を配慮する教育とは対極にあるのがロシアなのだ。同じくクーリエ・ジャポンの記事「ロシアのLGBT活動家はなぜ殺されたのか?」だけで、ロシアにおける性的少数派の人権状況が伺える。LGBT迫害という点ではイスラム圏とロシアは酷似しており、同教徒絶対の宗教教育と同民族中心主義の愛国教育には通じる処がある。

 このドキュメントは欧州の映画祭で次々と受賞を重ねたそうだが、映像詩と云われるだけあり映像美が素晴らしい。日本のドキュメンタリーによくある耳障りなBGMやナレーションが一切使われていないのも良かった。国営民法問わずとかく日本のТVドキュメンタリーは情念たっぷりのナレーションが多いため、白けることが度々ある。

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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (鳳山)
2020-03-04 00:22:24
ムルマンスクと言えば第2次大戦中のレンドリース、北極海ルートの拠点ですね。ロシアは軍事で国を保っているんでしょう。

そのドキュメンタリー、見てみたいですね。
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鳳山さんへ (mugi)
2020-03-04 22:08:26
 軍事に疎いためレンドリースという用語を初めて知りました。ロシアでの第2次大戦の戦いといえば、スターリングラード攻防戦しか浮かびませんので、、、

 ロシアの強みは豊富な資源もありますが、何よりも軍事で国を保っているのです。だから青少年に徹底した愛国・軍国主義を施しますが、日本のロシア好きはこの件には一切触れませんね。
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Unknown (牛蒡剣)
2020-03-06 21:22:47
本文でも触れてますがロシアの高校生は男女ともに小銃の分解結合と射撃のカリュキュラムがあるんですよね。ww2の時は女性兵士も第一線の小銃兵として戦列に参加しておりますし、女性の砲兵 戦車
兵 戦闘機乗りとロシアは軍事面の男女平等
は進んでます。日本はようやく去年女性の戦闘機
搭乗員が歴史上はじめて誕生したところですからねえ。

多種多様な民族 宗教を抱える国が国民国家をやっていくには愛国教育をある程度すべきなのをは理解できますし、国民に軍事教育するのは理解できます。
以前話したようにフランスが、国民統合の為の
教育目的の短期徴兵をしようとしてるように。

しかし、ロシアは正規軍だけで90万、内務省
治安部隊でも4,50万。治安部隊といっても
小銃 機関銃 装甲車をもち海上部門の警備艦艇
は大砲もミサイルも魚雷もある、90年代初頭製造
の海自の小型護衛艦と比べても遜色がないような
ものを保有しているような、ほとんど軍隊みたいな
組織。加えて徴兵制もあり。予備役軍人も200万
そんな軍隊経験者が多い国でやる意味ないなあと
思います。
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牛蒡剣さんへ (mugi)
2020-03-07 22:04:51
 高校生が男女ともに小銃の分解結合と射撃のカリュキュラムがある国って、ロシアの他にあるのでしょうか?イスラエルは女性にも兵役がありますが、ここまで徹底している?

 日本の親ロはもちろんフランス通知識人も兵役のことになるや、何故か口をつぐみますよね。サヨクが多い親ロはともかくフランス好きも人権や多様性ばかり強調。武漢ウイルスのお陰であの国の人権の実態が知られるようになりましたがw

 治安部隊と言えば警察の延長上にある組織のイメージがありましたが、ロシアでは完全に軍隊同然で驚きました。さすがおそロシア。
 むしろ軍隊経験者が多い国だから、しっかりと軍国教育を行うのかもしれません。戦勝国でもww2では膨大な犠牲者を出していて、その記憶が軍国主義教育に拍車をかけているのやら。
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Unknown (牛蒡剣)
2020-03-16 22:03:10
>高校生が男女ともに小銃の分解結合と射撃のカリュキュラムがある国って、ロシアの他にあるのでしょうか?

ちゃんと調べたわけではないのですが北朝鮮
は兵役(男女共にある)に加えて「労農赤衛隊」という18歳から60歳までの
(主婦を除く)全男女が加入する民兵制度が
ありますから(小銃射撃から機関銃 大砲 高射砲まで訓練する)否が応でも20歳までに小銃ぐらい
は扱えるようになるのでは?
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牛蒡剣さんへ (mugi)
2020-03-17 22:49:30
 仰る通り北朝鮮には女にも兵役がありましたね。全男女が加入する民兵制度まであり、小銃だけでなく機関銃、大砲。高射砲まで訓練するとは知りませんでした。これでは宗主国以上かも。
 
 北朝鮮に「労農赤衛隊」なる民兵制度があることは日本では一般に知られません。憲法墨守を日本人に命令する北朝鮮国籍者やシンパには知られて困る事実でしょう。
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