トーキング・マイノリティ

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美容整形について

2009-07-01 21:20:33 | 世相(外国)
 先月死去したマイケル・ジャクソンについて、TVでは彼の全盛期はもちろん少年時代から晩年までの映像を繰り返し放送していた。その容貌の激変に改めて驚かされるが、愛くるしい少年時代の彼を見て、家人と共に「何も整形など、しなくてもいいじゃないか」と言い合っていた。容姿端麗が重視される芸能界なのでプチ整形ならともかく、あれだけ派手に整形し続けたのは凡人の理解を超える。

 日本ではマイケルの整形の動機は、強烈な白人化願望の結果と盛んに憶測された。死の直前は白人よりも色白になったのは、肌を脱色したためと云う噂まである。そのような化学的療法が現代あるのか不明だが、美白に憧れぬ日本女性もいない。マイケルならずとも怪しげな美白を試みる女もいるだろう。
 美容整形についてネット検索すると、人気サイト「きっこのブログ」の2月13日の記事「美容整形の落とし穴」がヒットした。この記事にはマイケルの他に美容整形を受けたミュージシャンにピート・バーンズの名が挙がっていた。ピート・バーンズとは懐かしい。イギリスのバンド「デッド・オア・アライブ」のボーカリストで'84年の「You Spin Me Round」は日本でも大ヒット、ディスコではこの曲がよくかけられていた。

「You Spin Me Round」の曲だけで終わった感のある「デッド・オア・アライブ」だが、ピートが整形マニアとなったことを、このブログで初めて知った。男ながら妖艶ともいえる美貌なのに、その彼が何故それほど整形を繰り返したのか、これまた不可解。しかもマイケルと違い白人なのだ。手術に失敗、化け物のような顔になった画像まで載っており、現代彼はミュージシャンよりも、美容整形に失敗した有名人として知られているとの記事には言葉もなかった。'80年代半ばのFM雑誌にピートのインタビューが載っており、「音楽業界で特に女性は実際の実力より見てくれが重視される」と語っていた。

 私は美容整形を特にしたいと思ったことはない。容貌に自信がある訳でも、それに恵まれているのでも決してない。自分の顔で気に入らない箇所はもちろんあるが、整形を必要とするほどの酷い顔なのか、と考えているからだ。既に中年に入り、これ以降シワも増えてくるだろうが、芸能人ではないし、元からファッションに無頓着ということもある。強いて言うなら、4mmくらいの大きさの口の脇にあるほくろが気に食わない。若い頃はそれほどでもなかったが、年を経てから大きくなり、しかも色が黒々としている。出来るなら手術で取りたいとは思うが、仮に国立大の皮膚科で手術を受けたとしても保険は利かないし、痕が残るのも怖い。別に生活面に支障を来たすものでもないし…などと小心者は美容整形を避ける口実にする。

 十年以上も前、民放で映画監督・大島渚氏は美容整形を厳しく批判、「整形を受けようとする男や女は大嫌いだ」と発言していたのを憶えている。見ていた家族と共に、「奥さんは美人だし、いい男の監督には不要だろう」と笑っていたが、日本の芸能人にも公言こそしないものの、美容整形を受けている者は少なくないはずだ。
 数年ほど前の民放番組「ビューティー・コロシアム」を何度か見たことがあるが、あまりいいとは思えず、美容整形の宣伝番組としか思えなかった。番組の最後に「この番組は美容整形の番組ではない」との説明がテロップで流れるにせよ、欺瞞に感じる。有名な全国チェーンの美容クリニック院長も登場しており、巧妙な宣伝番組と見る人は私だけでないだろう。

 不老不死は人間の永遠の理想であり、「永久に美しく」ありたいのは女性に限らない。美容整形はその欲望に応える巨大ビジネスでもあり、化学の進歩がそれを可能にした。私は美容整形を否定する気もないが、擁護するつもりもない。医療事故にはワイワイ騒ぐマスコミが、こと美容整形の失敗には殆ど報道しないだけでも、その姿勢が問われるではないか。全ては受けた側の自己責任であり、美容整形クリニックは商売無罪といったところか。CMでより美しくありたいという欲望をさらにかき立て、容貌に劣等感を持つ者を心理的に追い込む作戦が透けて見える。「顔より心が大切」のきれい事より、こちら方がより現実的で訴えるものがある。

 学生時代、フランスの小説『醜女(しこめ)の日記』を立ち読みしたことがある。著者はシャルル・プリニエ(1894-1952)。内容は殆ど憶えていないが、題名どおり自分を醜いと悩んでいる女が主人公。しかし、ヒロインには美男の彼氏がいた。彼氏に嫌われたくない主人公が美容整形を受け美しくなるが、彼はそれを嫌い、女の元を去る。絶望した彼女は自殺する…といった物語だった。
 不況下でも美容整形だけは廃れることはないだろうし、技術の向上で今後より安全で失敗の少ない手術も可能となると思う。美容整形に成功、見違えるように美しくなった人のその後の人生が幸福となる保証はないし、心の美容整形だけは実現しないのだ。

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2 コメント

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そういえば・・・ (チュロス)
2009-07-02 02:48:55
カーペンターズのシンガー、カレン・カーペンター・・・
彼女は整形まではしていなかったと思いますが、自分の容姿(特に体型)に極端なコンプレックスがあり、それが故に拒食症になり若くして亡くなってしまいました。
体格が骨太な感じだったので、実際より太って見られたようです。
日本の週刊誌も少しふっくらしたタレントの写真を掲載し『激太り』の見出しが派手に躍っている事を考えると、アメリカでも同じ様に面白おかしく扱われたのでしょう。
彼女は元々ドラマーで、人前で目立つ事をして満足するタイプの女性ではなかったのですが、
そのあまりの美しい声から、次第に歌う(歌わされる)ようになったそうです。

「音楽業界で特に女性は実際の実力より見てくれが重視される」
・・・ピートが語った通りでカレンの心理的負担は相当なものだったのでしょうね。

彼女はアメリカの理想的な家庭に育ったごく普通の少女だったのですが、彼女の兄(リチャード・カーペンター)はハンサムでピアノが上手く作曲の才能もあり、周囲からちやほやされる存在で、母親が兄の方にばかり目が行ってしまっていたので、兄に比べて・・・と皮肉にも自己評価を下げる原因になってしまったようです。
実際の彼女はもっと母親から注目されたかったようです。

マイケル・ジャクソンの父親は芸事に非常に厳しく、芸事以外でマイケルを評価することはなかったので、その後の人格形成に悪影響があった事は容易に想像できます。


結局異常なまで整形を繰り返したり、拒食過食症になってしまうのは、自信のなさの表れなんだと思います。
少々ブサイクでも、内面が充実していれば、整形依存が如く繰り返すことはありえないです。

mugiさんのブログを読んで、何故か突然随分前にNHKでやっていたカーペンターズのドキュメンタリーを思い出してしまい、コメント書かせて頂いています。
かなり前に見た番組なので、記憶も曖昧ですが、番組の最後にカレンの家のキッチンが映し出され、食器棚には美しい高級な食器類が並べられていたのですが、その食器は一度も使われる事はなかったそうです。
あまりに悲しい結末が衝撃だったのはよく覚えています。
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Re:そういえば・・・ (mugi)
2009-07-02 23:38:13
>チュロスさん

 カーペンターズ、懐かしいですね。この兄妹デュオがかつて日本でも大人気で、初めて聞いた時、その美しい歌声に子供心にも強い印象を受けました。カレン・カーペンターが32歳の若さで拒食症で死亡したというニュースもショッキングでした。外見は陽気なアメリカンガールの印象でしたが、繊細なところがあったのかもしれませんね。
 東西問わず芸能界は複雑な世界ですが、カーペンターズは同業者からも批判を受けたことがありました。米大統領ニクソンの前で歌ったことで、反戦平和主義寄りの同業者からも叩かれた。彼らはニクソン支持でもなんでもなかったはずなのに、政治に利用されたのです。

 マイケルもカレンも親との関係がうまくいっていなかったようですが、そのような場合、人格形成に与える影響は少なくないのでしょうね。傍目からみれば、2人とも才能に恵まれ、マイケルやピートなどルックスも恵まれているにも係らず、内面は自信がなかったのでしょうか。それにつけいり、美容整形業界はホクホクでしょう。
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