トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

マリー・アントワネット

2006-01-14 14:37:41 | 読書/欧米史
 世界史に関心のない方でも、フランス革命で処刑された王妃がよく知られているのは、宝塚歌劇『ベルサイユのばら』によるところが大だろう。池田 理代子さ んの劇画を元に舞台化されたが、池田さんはシュテファン・ツワイク(1881-1942)の本『マリー・アントワネット』をヒントにあの劇画を描いたそう だ。この本の副題は(凡人の肖像)となっており、マリー・アントワネットは何時の時代にもいるごく平凡な女性であり、革命の試練を経て変貌し、死の直前に 大いなる人物と成長する伝記となっている。
 しかし、同性特有の辛辣さでマリー・アントワネットを厳しく描いた作家もいる。藤本ひとみさんの『マリー・アントワネットの生涯』だ。

  藤本さんの本は伝記よりも歴史エッセイとなっているが、やはり男性作家とはマリー・アントワネットに対する視点が違う。まず、なぜ偉大なる母マリア・テレ ジアの不肖の娘となったのか、その背景を描いている。マリア・テレジアの夫は常に楽しみを追い求める軽い性格で、くよくよせず享楽的、賭け事や狩り、芝居 に熱中し、美しいものが好き、語学力に恵まれなかったという。その性格は娘のアントワネットにそっくり受け継がれていたのだ。アントワネット個人の能力の 問題より、藤本さんは不幸な遺伝を主張している。
 さらに末っ子のアントワネットには11人もの兄姉があったので、必然的に要領がよくなり、さぞかし甘え上手だったろうと藤本さんは指摘していた。事実アントワネットはウィーンの宮殿にいた頃「人を指に巻く娘」、つまり他人を自分の言いなりにさせると言われていたとか。劇画にも少女時代の彼女がお付の女官たちを煙に巻く場面があった。

 一般にアントワネットが窮屈な宮廷生活に飽き、狩猟と錠前作りに精を出す夫に愛情が持てず贅沢に走ったと言われているが、藤本さんはこれを疑問視する。宮廷生活などどの国も窮屈なものであり、結局は本人の責任だろうと。
 夜遊びに関しても原因に夫の性的不能が挙げられているが、14歳の新妻がはたして毎晩性的に満足させてもらわなければ寂しくてたまらないだろうか?それは結婚生活に性的満足を強く期待している男性側の理論ではないのか、と反論していたのは目からウロコだった。アントワネットの浪費と遊び好きは、誰のせいでもない本人の性格と思慮のなさ、と結論を下す。

 革命が起き、これを潰そうとするオーストリア始め列強諸国がフランス侵攻すると、アントワネットは作戦計画を次々と彼女の生国でもあるオーストリアに通報する。フランスの敗北を祈っていたのだが、この情報漏洩はフランスの連敗と大量の戦死者を出す。藤本さんは売国奴さながらで、 のちに裁判の被告席に立った時、この罪で裁かれるべきだった、と厳しく糾弾している。今でこそ、アントワネットが通報した手紙の内容が明らかになっている が、当時は藪の中で証拠がなかった。そのため、オーストリアに通報した疑惑を裁判では否定し、無実をひたすら訴える厚顔さだった。

 1793年10月、アントワネットへの裁判が始まり、彼女は自分に掛けられた疑惑全てを否定する。
私は国費を浪費したことなどございません」「革命以来、私は外国との連絡を自らに禁じました。また国内の問題に干渉したことは一度もありません」「私はルイ16世の妻に他ならなかったのですし、それゆえ国王の意志通りに行動しなければならなかったのです」・・・
 見に覚えのある一切を否定し、全ての責任を処刑された夫に被せてまで無罪を勝ち取ろうとした理由を、藤本さんはこう推測する。
  自分の名誉を守りたいからで、否認し続ければ全てがなかったことになるかのような錯覚を、幽閉され現実感を欠いていた彼女は抱いたのではないか。自分の汚 点を消し、過去を塗り替え、自分こそが真のフランス王妃であったと思い込むこと。アントワネットはその夢にかけ、多くの作家や歴史家はそれに幻惑されたの ではないか、と。

 義務を果たさず権利のみを主張する万年少女、との印象を禁じえないとシビアに書いた藤本さんだ。彼女の本を読んで、ベルバラ・ドリームから全く違う印象を強く感じた。

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5 コメント

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歴史と物語 (mugi)
2006-01-20 21:12:40
こんばんは、Marsさん。



もう大学入試の季節になりましたね。高校入試でも、特に地方では何年も前から定員割れが起きている惨状です。宮城県では男女共学化推進運動がありますが、男女別学の高校時代を送った私としては無理に共学しなくとも、と思います。



お姫様育ちのマリー・アントワネットが世間知らずだったのは仕方ないかもしれませんが、母のマリア・テレジアも同じくお姫様でありながら偉大なる女帝でした。末娘と長女、軽薄な父と堅実な皇帝の父親の違いはありますが、あの母親からアントワネットが生まれたのは皮肉です。教師を続けながら家事育児もしっかりこなした藤本さんが彼女に手厳しいのも分かります。



史実とお話が違うのもまた面白いし、それが分かっていれば問題ないけど鵜呑みにする方もいますね。

昔見た三国志のアニメでは、曹操は紅毛碧眼、名は忘れましたが(ウキン?)、彼の部将の1人が女戦士となっていたのは笑えました。



吉良上野介は実は地元では名君だったのは知る人ぞ知る、ですね。赤穂の殿様は○鹿殿呼ばわりされても仕方ない。ただ、芝居では悪役が必要なので、上野介を陰険な敵役に仕立て上げた方が面白い。三国志演義で曹操が極悪非道の姦雄とされたように。曹操は確かに悪人ではありますが、実にいい詩も多数書いてます。人材活用では優れてましたし。



私は牡蠣なら断然日本酒を選びますね。
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蛇足ですが (Mars)
2006-01-20 01:37:06
赤穂浪士のお話では、仇討ちされる吉良上野介は、現代まで歌が残る程、名君だったとか。

それに対し、赤穂の殿様は。江戸城内で刀を抜くことは、徳川幕府に弓を引くようなものです。ましてや、お互い、仲が悪かったにせよ、刀を抜いてない者を後ろから切りつけるのでは、「喧嘩両成敗」なんて通用しないと思います(喧嘩でなく、一方的な暴力)。

そんな殿様に、ついていったので仕方がないにしても、忠義の道とは外れている思います。



しかし、少し前までは、年末といえば、よく忠臣蔵を放送していましたが。忠臣蔵では視聴率が取れなくなってきたTV局が仕掛けた罠だった、とは思いすぎなのかもしれません。

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歴史の重み (Mars)
2006-01-20 00:56:41
こんばんは、mugiさん。



今週末はセンター試験だそうですが、あいにくの雪模様だそうです。そういえば、大学入試なんて、何年前だったのだろう。しかし、少子化の影響もあり、募集人数より、受験者数の方が少ない、とのこと。うらやましい反面、そういう時代が到来したのですね。



本題ですが、やはり、マリー・アントワネットの本性は、世間知らずだったのではないでしょうか。出自もよく、全く学がなかったわけではないでしょうけど、時代の流れを読みきれなかったのでしょう。不幸といえば不幸でしょうけど、彼女以上に苦しんだ者もすくなくないでしょう。それも、どこまでが事実で、誇張があるかは、わかりませんが。



私は、「ベルバラ」に興味がないので申し訳ないですが、史実は史実、お話はお話で楽しめればよろしいかと思います。それを一緒くたにすると、無理があります。例えば、中国の三国志ですが、歴史上の事実とお話やゲームなどとは違うのは当り前だと思います。しかし、お話を真に受けるのは危険です。それが分かっていれば、よいのですが、、、。



歴史はどんな者にも無縁でなく、真実を知るものは、ほとんどいない。歴史という言葉の意味の重さを、痛感した、今日この頃です。



追伸、

牡蠣鍋、美味しそうですね。

牡蠣に合うのは、シャブリでなく、日本酒でしょうか?

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重ねてありがとうございました! (mugi)
2006-01-15 21:56:16
こんばんは、super_xさん。



私も「ベルバラ」好きでしたが、藤本さんのエッセイを読んでがっかりしました。

欧州の王侯貴族には誇りだけは高くても一筋縄ではいかない人々が多いそうで、彼女もその典型だったそうです。



ところで、赤穂浪士はまだアニメ化されてませんよね?水戸黄門はされましたが。



super_xさんのおかげでバナーが貼れました。その上クリックして頂いて、ありがとうございます。
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おじゃまします…(笑) (super_x)
2006-01-15 17:47:14
東京ムービーの「ベルバラ」を楽しく見ていたものとしては…

なんか、この藤本ひとみさんのいうことには興ざめですね。

赤穂浪士が、なぜ楽しまれているのか、考えてもらいたい気がしました。



うん?なんで、赤穂浪士なんだろう?(爆)



お~、バナー上手くできましたね。

早速、プチッと押しときました。
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