漫画家・青池保子さんの代表作に『Z-ツェット-』がある。主人公はNATO情報部の新米エージェントで、コードネームはZ(ツェット)。Zのドイツ語読みがツェット、若き情報部員Zの活躍を描いている。発表された'80年代初めがちょうど冷戦中だったこともあり、少女漫画には珍しいスパイものの佳作だった。そのZシリーズⅣはノルウェーが舞台となっている。
ツェットの呼び名どおりZはドイツ人。金髪碧眼の美青年になっているのが少女漫画らしい設定だが、上司はあのエーベルバッハ少佐、「鉄は熱いうちに打て」の鬼上司だ。その上司の命を受けZはノルウェーに行く。ノルウェーに潜行していたNATO連絡員マイヤーが死亡したという知らせが入り、その死に不信を抱いた少佐が現地行きを命じたのだ。冷戦当時ノルウェーは東西のスパイが至る所に潜んでおり、死亡したマイヤーもベルゲンの海軍基地を監視しながら連絡員を努めていた。Zが選ばれたのはNATO連絡員と同じくハノーバー出身のドイツ人で、身体的特徴も似ていたからだ。
現地に飛んだZはマイヤーに、アネリーゼというノルウェー女性の恋人がいたことを知る。彼女はベルゲン海軍基地でタイピストを勤めており、英語も出来るので職場で重宝されていた。マイヤーの弟と名乗りアネリーゼに会ったZは、生前この連絡員が彼女を通じ、基地内の情報を探っていたことを突き止める。タイプした書類の内容、基地に出入りする将校の様子、基地で飼っているベットの名まで、恋人から熱心に話を聞きだしていたのだ。アネリーゼ直属の上司は原潜のデータバンクにおり、ソ連の原潜の動向情報を集める重要な部署にいる人物でもあった。
アネリーゼはマイヤーがNATO情報員ということを全く知らず、女扱いの巧い彼に求められるまま基地の情報を話していただけだった。時々行く先も告げず姿を消すことがあり、不審に感じた彼女が聞いても仕事としか答えず、そのうち訊ねなくなった。うるさく詮索して、恋人に嫌われることをアネリーゼは恐れたのだった。
しかし恋人の死後、東側のスパイの手が彼女に伸びてくる。実はマイヤーはMFS(東ドイツ国家保安省)に殺害されており、アネリーゼの職場にもMFSが潜入していた。それを阻止、彼女を必死に守ろうとするZ…
ハニートラップは男にだけ仕掛けられるものではなく、重要情報を握ると見なされた女も対象とされる。恋人のフリをして女から情報を引き出すのだ。さらに若く美しいアネリーゼとなれば、情欲に利用するのも男なら悪い気はしない。だが新米エージェントだけでなく、元来お人よしというスパイ稼業には致命的な欠点を持つZ。ジェームズ・ボンドのような女や腕っ節に強いタフガイには程遠く、そんな若者が情報部に採用されたのは漫画のご都合主義。はじめはマイヤーに利用されたアネリーゼに同情したZだが、彼女に惹かれていく。そんな彼も素性を隠して素人女を騙し利用している点では変わりない。苦悩したZは彼女に正体を打ち明ける。
シリーズ中、例外的にZのラブシーンがあるのはⅣだけなのだ。いくら情報員の世界が非情といえ生身の若者。少女漫画ゆえ激しいラブシーンではなくあっさりしたもので、しかも誘ったのは女の方。「その時、ぼくは全てを忘れたかった…“Z”ではなくただの男として、彼女を抱きたかった」も素朴でよかった。
60年代に東京で活動していた旧ソ連の元KGB(国家保安委員会)要員にミトロヒンという者がいた。彼は所謂ミトロヒン文書の中で、日本の政界やマスコミ界に多数協力者がいたと記しており、外務省の女性職員もいたという。この職員ももしかすると、KGBのイケメンスパイに篭絡されたのだろうか。この女は渡された小型カメラで機密文書の撮影をしていたとか。
現代もハニートラップが駆使されるのは冷戦時代と同じだろう。ノルウェーの事情は不明だが、スパイ天国とありがたくないあだ名のある日本は未だに世界各国のスパイが至る所に潜んでいるに違いない。
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ツェットの呼び名どおりZはドイツ人。金髪碧眼の美青年になっているのが少女漫画らしい設定だが、上司はあのエーベルバッハ少佐、「鉄は熱いうちに打て」の鬼上司だ。その上司の命を受けZはノルウェーに行く。ノルウェーに潜行していたNATO連絡員マイヤーが死亡したという知らせが入り、その死に不信を抱いた少佐が現地行きを命じたのだ。冷戦当時ノルウェーは東西のスパイが至る所に潜んでおり、死亡したマイヤーもベルゲンの海軍基地を監視しながら連絡員を努めていた。Zが選ばれたのはNATO連絡員と同じくハノーバー出身のドイツ人で、身体的特徴も似ていたからだ。
現地に飛んだZはマイヤーに、アネリーゼというノルウェー女性の恋人がいたことを知る。彼女はベルゲン海軍基地でタイピストを勤めており、英語も出来るので職場で重宝されていた。マイヤーの弟と名乗りアネリーゼに会ったZは、生前この連絡員が彼女を通じ、基地内の情報を探っていたことを突き止める。タイプした書類の内容、基地に出入りする将校の様子、基地で飼っているベットの名まで、恋人から熱心に話を聞きだしていたのだ。アネリーゼ直属の上司は原潜のデータバンクにおり、ソ連の原潜の動向情報を集める重要な部署にいる人物でもあった。
アネリーゼはマイヤーがNATO情報員ということを全く知らず、女扱いの巧い彼に求められるまま基地の情報を話していただけだった。時々行く先も告げず姿を消すことがあり、不審に感じた彼女が聞いても仕事としか答えず、そのうち訊ねなくなった。うるさく詮索して、恋人に嫌われることをアネリーゼは恐れたのだった。
しかし恋人の死後、東側のスパイの手が彼女に伸びてくる。実はマイヤーはMFS(東ドイツ国家保安省)に殺害されており、アネリーゼの職場にもMFSが潜入していた。それを阻止、彼女を必死に守ろうとするZ…
ハニートラップは男にだけ仕掛けられるものではなく、重要情報を握ると見なされた女も対象とされる。恋人のフリをして女から情報を引き出すのだ。さらに若く美しいアネリーゼとなれば、情欲に利用するのも男なら悪い気はしない。だが新米エージェントだけでなく、元来お人よしというスパイ稼業には致命的な欠点を持つZ。ジェームズ・ボンドのような女や腕っ節に強いタフガイには程遠く、そんな若者が情報部に採用されたのは漫画のご都合主義。はじめはマイヤーに利用されたアネリーゼに同情したZだが、彼女に惹かれていく。そんな彼も素性を隠して素人女を騙し利用している点では変わりない。苦悩したZは彼女に正体を打ち明ける。
シリーズ中、例外的にZのラブシーンがあるのはⅣだけなのだ。いくら情報員の世界が非情といえ生身の若者。少女漫画ゆえ激しいラブシーンではなくあっさりしたもので、しかも誘ったのは女の方。「その時、ぼくは全てを忘れたかった…“Z”ではなくただの男として、彼女を抱きたかった」も素朴でよかった。
60年代に東京で活動していた旧ソ連の元KGB(国家保安委員会)要員にミトロヒンという者がいた。彼は所謂ミトロヒン文書の中で、日本の政界やマスコミ界に多数協力者がいたと記しており、外務省の女性職員もいたという。この職員ももしかすると、KGBのイケメンスパイに篭絡されたのだろうか。この女は渡された小型カメラで機密文書の撮影をしていたとか。
現代もハニートラップが駆使されるのは冷戦時代と同じだろう。ノルウェーの事情は不明だが、スパイ天国とありがたくないあだ名のある日本は未だに世界各国のスパイが至る所に潜んでいるに違いない。
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私も若い頃から「エロイカ」ファン、全巻取り揃えて楽しんいる程です。青池漫画はほんとにキャラが個性的。あなたが“どけち虫”のファンとは意外でした。誰が一番好きと問われますと、若い頃は少佐でしたが、最近はボーナムさんですね。万年部長や部下Gもお気に入りです。
エントリーではノルウェー関連で「Z」Ⅳを取り上げましたが、一番気に入っているのはⅤの「ブラック・アウト」。“コンピュータ・おばさん”が登場するⅡもよかった。