昨年末、ナポレオンが登場するТVドラマやDVDを続けて見た。TVドラマはBBC制作ドラマ『戦争と平和』、NHKが8回シリーズで放送している。タイトル通り原作はトルストイの同名の小説で、このドラマのあらすじやキャストを紹介したサイトもある。
そしてDVDのほうは『ワーテルロー』。これも文字通り、ナポレオン最後の戦闘となったワーテルローの戦い(1815年6月18日)の映画化。
どちらのドラマも秀作だったが、登場したナポレオン像は正反対だった。『戦争と平和』では登場回数や台詞もあまりない端役だったが、端正な容姿の役者が演じていた。対照的に『ワーテルロー』のナポレオンは主役でも、晩年ということもあり頭髪も薄く小太りでさえない風貌の将軍として登場する。
実は『戦争と平和』の背景にあるロシア遠征は、ワーテルローの戦の3年前である。同人物なのに、ここまでビジュアルが違っているのは面白い。
『戦争と平和』でのナポレオン役は、Matthieu Kassovitz という俳優。姓から英国人らしくないと思ったが、検索したら案の定父親がハンガリー系ユダヤ人とあった。wikiには彼自身はフランスの映画監督・俳優とあり、端正でも特に特徴のない容貌なので印象は薄かった。但し、このドラマはナポレオン戦争に翻弄される人々を描く群像劇であり、ナポレオン自身は重要ではないのだ。
尤も白馬にまたがりフランス軍特有の秀麗な軍服に身を固めていれば、十人並みの容姿でもサマになるのだ。時代考証が正しいならば、フランス軍の軍服はロシア軍のそれよりデザインでは勝っている。私はオードリー・ヘプバーン主演版『戦争と平和』は未見だが、彼女は共演したアンドレイ役のメル・ファーラーと結婚(後に離婚)したことを友人から聞いた。友人曰く、軍服姿に魅せられたのだろう。
私的にはナポレオンを破ったクトゥーゾフの方が興味深い。クトゥーゾフがタタールの血を引いていることを私が知ったのは、『世界の歴史20 近代イスラームの挑戦』(山内昌之著、中央公論社)を見たため。山内氏はエルミタージュ美術館に陳列されたクトゥーゾフの肖像画を見て、「アジア人と思しき風貌の迫力に思わず息を呑んだ」そうだ。
クトゥーゾフ役はブライアン・コックス。出番は多くはないものの、渋くて強い印象を残している。もちろんドラマでのクトゥーゾフは、非アジア人そのものの風貌の人物だったが。
映画ワーテルローも興味深い。ナポレオンに勝利したウェリントンが準主役なのは書くまでもないが、頭髪も薄く小太りでさえないナポレオンと対照的に、頭髪豊かですらりと引き締まった体格の、いかにも紳士然としたウェリントン。後者の勝ち戦を描いたにせよ、映像面でもナポレオンは完全に准主役に喰われていた。
ウェリントンの方が年少なのだろうと思いきや、wikiで見たら何と同年齢だった!しかも、ウェリントンの方が4か月ちかく早く生まれている。映画では冷静沈着、常に英国紳士たることを心がけている人物として登場する。映画特有の脚色かと思ったが、wikiの人物評価に目を通したら、概ね史実にそっているようだ。尤も学生時代は血気盛ん、よく喧嘩をしていたというのも面白く、好感が持てた。
頭髪も後退、小太りとなった晩年のナポレオンを美化せず、ほぼ史実どおり描いた大作でもある。1970年公開作品ゆえ、CGを全く使わない戦争映画は、映画館で鑑賞すればさぞ迫力があったはず。イタリアとソ連の合作映画というのも苦笑させられた。双方ナポレオンの侵攻を受けた国だし、映像面でも昔の敵を取っているのか?
ナポレオンに扮したのはロッド・スタイガー。好演でも、かつてヨーロッパを震撼させた一代の風雲児の面影は全くない。智将ウェリントンに負けるべくして負けたという印象だった。
歴史ブログにはナポレオンへの記述がよく見られるが、男性と女性ではナポレオンに対する関心の方向がかなり違っているのは興味深い。
総じてナポレオン戦争を中心に記述する男性に対し、彼の人間関係、殊に女性関係を描きたがるのが女性。男は戦争となると地図入りで解説、うんちくを傾けるのを好むが、この方面に殆ど興味が持てない女。やはり男は戦で広大な領土を征した者への関心や憧れが強いようだ。