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四大文明と中華思想 その①

2010-07-03 20:44:14 | 歴史諸随想
 ネットの有難さ、便利さは新聞やTVといったマスコミがまず伝えない情報を知ることにある。それは歴史も同じであり、先日、世界四大文明について、実に興味深いブログ記事を発見した。「世界四大文明の起源は中華思想だった」というものであり、恥ずかしながら「世界四大文明」の考えが、実は中国人によって唱えられていたことを、遅まきながら知った。

 おそらく現代も同じと思うが、私が初めて学んだ世界史教科書には「世界四大文明」が冒頭で記載されており、全ての人類の文明の源は大河のある大陸で発生したと教わったものだ。これは世界史の試験で必ず出るのも同じだろう。上記のブログ管理人「政府紙幣を考えるブログ」氏も、「そもそも世界四大文明という呼び名は世界ではそれほどメジャーではない。ウィキペディアを見ても次の様に書かれてある」と、wikiから一部引用されている。

この考え方の原型は梁啓超の『二十世紀太平洋歌』(1900年)にあり、「地球上の古文明の祖国に四つがあり、中国・インド・エジプト・小アジアである」と述べている。この考え方はアジアでは広まったものの、欧米では受け入れられなかった。また、考古学研究が進展した現代では、初期の文明を4つに限定する見方は否定的であり(当の中国でも長江文明など、黄河文明以外の文明が存在したことが確認されている)、四大文明という概念自体が知識に乏しかった過去のものといえる。

 私の習った世界史では、「小アジア」ではなく「メソポタミア」と記されていたが、梁啓超なる中国人も初耳であり、改めて己の無知を知らされる思いだった。「政府紙幣を考えるブログ」氏は梁を次のように紹介している。
ちなみに梁啓超とは、の時代末期に活躍した政治活動家、ジャーナリスト、そして歴史学者であった。1898年に日本に亡命し、そこで日本語を通じて西欧の思想を積極的に取り入れる。彼が『二十世紀太平洋歌』を執筆したのはこの日本に亡命していた時期だ。

 何と梁は日本とも関わりがあり、「彼は明治日本を通じて清末の青年たちに向けて中国以外の思想やものの考え方をわかりやすいことば (新民体)で発信し続けた。現在の中国語にも多くの和製漢語が使用されているが、その端緒を開いたのは実に梁啓超であった」とwikiにもある。和製漢語を梁が広く祖国に紹介したのも興味深いが、「政府紙幣~」ブログ氏の言われるように彼が、「“世界四大文明”の名付け親」だったのだ。「世界四大文明」史観こそ、彼が日本に与えた最大の概念ではないだろうか。これを踏まえ、「政府紙幣~」ブログ氏はある疑問を呈する。

そこで大きな疑問がわく。。。梁啓超は厳密に言うと歴史家ではない。政治活動家もしくはジャーナリストである。彼の『世界四大文明』の主張も、そもそも歴史的仮説とか○○論というものではない。彼個人の極めて政治的な発言の一つに過ぎない。。。
 そんな彼の主張を、21世紀の今日まで歴史の教科書が伝えているのはなぜだろうか。


 これには私も同感である。梁が「“世界四大文明”の名付け親」だったことには触れず、遺跡写真と地図を紹介する教科書記載は不可解だ。欧米で受け入れられなかったのは当然だろうし、これもまた欧米中心史観が背景にある。欧米人が古代ギリシアを讃えるのも、“世界四大文明” 時代の欧州は辺境の後進地帯だったことへの対抗であり、コンプレックス解消のために作られた神話に近い史観と私は思う。その古代ギリシアもエジプト文明の影響をかなり受けていることが、近年は知られるようになっている。
 欧米文明の基礎となったキリスト教もパレスチナ発祥の宗教なのに、日本人キリスト教徒がこの地に思いを馳せるのはユダヤ人のみであり、欧米人のパレスチナ蔑視をそのまま猿真似しているのも滑稽だが。

 欧米人の古代ギリシアに対する思い入れはさておき、梁啓超の名を伏せる日本の世界史教科書に怪しい意図を感じるのは「政府紙幣~」ブログ氏や私だけではないはず。そこで「政府紙幣~」ブログ氏も色々調べ、「ずばり」というブログ記事を発見したという。「世界四大文明の嘘」こそがそれであり、ブログ名は「ねずきちの ひとりごと」。ねずきち氏の記事を読み、私も愕然とさせられた。
「政府紙幣~」ブログ氏も、「このような戦前の中国人政治活動家の発言を、僕たちが世界史の授業の最初に学んでいたというのは驚きだ」と述べているのは当然だろう。「それに、黄河文明や長江文明が中国の文明の発祥であるという考えも、最近では考古学的な発見からすっかり否定されているにもかかわらずだ」と氏は続けて書かれており、またしても自分がいかに無知であるのか、身にしみた。
その②に続く

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3 コメント

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英語検索結果 (室長)
2010-07-06 23:23:39
mugiさん、
グーグルの英文で、Ancient civilizationsと英文検索をかけてみると、次のアドレスが出てきました:
http://archaeology.about.com/od/ancientcivilizations/Ancient_Civilizations.htm
そのHPのトップには、古代文明の定義が次のようになっています:
.Ancient Civilizations
Ancient civilizations are the basis of the world as we know it today, built on the ruins of 10,000 years of advanced cultures such as the Greek, Roman, Mesopotamia, Mayan, Indus, Egyptian, and others that we know primarily through archaeology and some written records.

更に、そのような古代文明として名前が挙がっているのが次のごとく、極めて多数です:
Ancient Egypt (137) Longshan (4) Ancient Greece (80) Maya Civilization (71) Ancient Near East (16) Mesopotamia (41) Aztec Civilization (22) Mississippian and Hopewell (25) Byzantine and Ottoman (12) Moche Civilization (20) Caral Supe Civilization (7) Olmec Civilization (17) Etruscan (11) Persian Empire (37) Hittites (9) Roman Empire (43) Inca Empire (25) Tiahuanaco (9) Indus Civilization (31) Vikings (34) Islamic Civilization (18)

しかるに、残念ながら、縄文文明、弥生文明というような日本における文明・文化は対象となっていないのが、偏った見方に見えます。欧米の研究者が居て、英語の書籍が出版されていないと、国際的な知識の端っこにも掲載され得ない、ということらしい。

それにしても、ローマはともかく、ビザンチン、オスマン帝国、北米インディアン文明まで入っているのに、日本に関しては視野の中にないのですから、やはり欧米の世界観は偏っています。
 中国に関してもロンシャン文明だけと見える(訳の分からない中米文明などは多く入っている模様)。
 世界の常識も、怪しいものです!
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英語検索結果ー2 (室長)
2010-07-06 23:51:44
mugiさん、
 もう一度他の結果を参照すると、子供用のHPでは、7大文明らしいです。

同じくグーグルの英語検索では次のHPもあります。
http://www.socialstudiesforkids.com/subjects/ancientcivilizations.htm

ここで取りあげられているのは、次の7つです:
Ancient America、(以下Ancientの形容詞は省略)China、Egypt、Greece、India、Middle East、Rome。この方が、まとめられていて分かり易いけど、やはり極東の島国日本への理解は低いようです。石造りの都市がないと、世界基準の「文明、文化」ではないのでしょう。偏っていて、欧米の見方もけしからんです。
 特に縄文文化の土器は、紀元前1万年にさかのぼると言うこと(もちろん世界最古)が分かったはずだけど、世界的には何ら注目されていない。無念です。
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RE:英語検索結果 (mugi)
2010-07-07 21:54:33
>室長さん、

 英文サイトのご紹介を有難うございました。
 世界の「古代文明」が様々紹介されていますが、ヴァイキングやイスラム、インカ他が古代文明の範疇に入るだけで、その基準が不可解です。中世の方が相応しいのでは?もし、中世期でも“古代”に含めるなら、中央アフリカ文明も入れてもよいはず。にも拘らずアフリカは未だに古代エジプトだけなのですね。
 
 そして、中国文明がロンシャン文明だけというのも唖然とさせられました。日本の世界史の教科書は8割位が中国史で占められていますが、西欧史の“世界史”では中東が大半だそうです。地政学的なこともあり、世界史の概念が決定的に違うのですね。中近東、極東の呼び名も欧米中心視点そのものです。

 よく「国際基準」「世界基準」なるものが唱えられますが、実態は「欧米基準」であり、欧米学会で承認されなければ、基準外となり、学術調査に値しないとなるのでしょう。これまた、欧米式の“中華思想”ですね。
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