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新聞のコロナ関連報道 その一

2020-05-08 21:35:27 | マスコミ、ネット

 4月後半はネット不通状態だったため、ТVやラジオ、新聞でニュースを知るしかなかった。我が家でとっているのは河北新報だが、この地方紙も連日大きくコロナ関連記事を載せている。しかし違和感や不快感を覚える記事も少なくなく、いわゆる“識者”からの寄稿も多かったが、中には奇矯な主張もあった。それらへの雑感を書いてみたい。

 4月後半、河北新報は「危機と生きる/新型コロナ考」というタイトルの特集を組み、“識者”からの寄稿を載せていた。この地方紙の特集は違和感や不快感を覚える内容が多いので、暫く前から殆ど見ていない。しかし22日付のコーナーがたまたま目に入ってしまい、つい読んでしまった。この日は2人の“識者”が寄稿、與那覇 潤(よなは じゅん)なる歴史学者は「時間軸の多様化が大切」というタイトルで執筆している。以下は冒頭個所からの引用。

新型コロナウイルスの感染拡大で東京五輪・パラリンピックの延期が決まりました。改めて認識したいのは、五輪が本質的に「新興国型」の催しだということです。
 自国の「外聞」に世界が広がっていると想定して、そこでも通用する「一握り」の代表選手に拍手を送る。ただこれはどこか、自分が「銃後」にいながら前線をあおっているような居心地の悪さがあるんです。だから私は普段、スポーツでしか自国の「活躍する姿」を見られない途上国のチームの方を、日本よりも応援しちゃうんですね。

 ところが2011年にサッカーの女子ワールドカップで日本が優秀すると、東日本大震災で絶望の底にあった国内は大盛り上がり。13年には2度目の東京五輪の招致が決まりました。そうした日本人の内心には「途上国」のままでいたい欲求があるようにも感じます……

 そして件の歴史学者殿はコラムをこう結ぶ。
五輪とセットのパラリンピックは、本来1位を争うものではないと思います。障害の程度が違うのだから、それぞれの基準で全員がたたえられていい。そうした多様性を尊ぶ感覚を養う期間として、これからの1年を捉えてはどうでしょうか

 以上だけで與那覇氏は、歴史学者としてはボンクラというよりも愚物としか思えない。新聞には1979年横浜生まれ、歴史学者と紹介されているが、wikiにはさらに詳しく経歴が載っている。2002年東京大学教養学部卒業、2007年10月、愛知県立大学文学部准教授になったそうだが、2017年、双極性障害Ⅱ型をきっかけとして同大を退職。以後は在野の歴史学者として著書の執筆中とあった。
 與那覇氏は五輪が本質的に「新興国型」の催しと述べており、それは間違いではないが、同時に1984年ロス五輪2012年ロンドン五輪のような「老熟国型」もある。延期された今回の東京五輪も後者なのだ。ロス五輪やロンドン五輪でも自国の「外聞」に世界が広がっていると想定し、「一握り」の代表選手に拍手を送っていたのは書くまでもない。

 特に奇矯だったのは、與那覇氏が普段、スポーツでしか自国の「活躍する姿」を見られない途上国のチームの方を、日本よりも応援するのくだり。もちろん自国よりも途上国を応援するのは自由だが、自国チームを熱心に応援するのは「新興国型」であり、そんな日本人の心理は「途上国」のままと言うのだ。それに対し、一般日本人と一線を画すオレは違う、と。
 たた、自国チームを熱心に応援するのが「新興国型」「途上国」と定義すれば、世界は軒並み「新興国型」「途上国」となってしまう。自国ではなく途上国のチームを応援するハーバード大卒の米国人歴史学者やオックスフォード大卒英国人学者がいたとすれば、同国人から相当なバッシングを受けるのは想像に難くない。

 国際的には五輪よりもワールドカップの方が盛り上がり、先進国、途上国問わず熱狂ぶりは凄まじい。21世紀には聞かれなくなったが、かつて英国はフーリガンで悪名をはせていたものだ。'80年代にはサッカー試合で暴徒化したフーリガンは珍しくなく、死者まで出す始末。フーリガンは英国に留まらず、他の欧州諸国にもいたほど。

 日本の識者が何かと称賛するドイツに至ってはナショナリズムむき出しの、「すべてに優る、優越するドイツ」という歌詞がある国歌を試合前に斉唱していた。2018年には代表戦の試合前にドイツ国歌ではなく、「心の平穏が得られる」としてコーランを心の中で唱えたことが話題になったトルコ系ドイツ人選手メスト・エジルの例もある。「銃後」にいる国民が前線をあおっているのは普通であり、與那覇氏の見解に従えばドイツこそ「途上国」となろう。
その二に続く

◆関連記事:「ドイツ国歌と死刑
勝てばドイツ人、負ければ移民

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16 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (牛蒡剣)
2020-05-08 22:31:27
えええええ さすがMUGIさんのチョイス。なかなかに濃い毒電波さんを見つけてきましたね。

 五輪なんてどう楽しんだっていいじゃないですか?
1位を目指し全力で戦う姿もいいのもだし。そんなことしったことか!と自由にふるまいトンデモナイ記録を出す選手もまた面白いし、途上国とか先進国云々が問われるとはwスポーツ観戦エンタメ視聴
これらは自分で楽しい観方を発見して楽しむものじゃないですかねえ。まあ普通に日本人選手の健闘
があれば喜び、本命の選手が番狂わせで負ければ
がっかりする楽しみ方をしますけど。

逆説的にこの人ほど五輪ナショナリズムにとらわれてません?どんな観戦の仕方をしたところで、どうこう変わるということがあるんですかねえww。

甲子園で地元県の高校が快進撃したらなんとなく
応援してまうように自国を応援することがおかしい
ですかねえ。五輪の自国の応援てその程度のこと
だと思います。
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雑感 (スポンジ頭)
2020-05-09 16:10:08
 與那覇氏は確か呉座勇一氏の著作に引用されていたと思います。その引用文に関しては特段おかしな内容ではありませんでした。もちろん、ある部分でまともでも、他でおかしい発言があるのは当たり前の事です。苗字からすると沖縄県に関わりがあるようですね。

 私個人としてはコロナでいろいろな組織や人物の性格が露わになったのが大きいと思いました。医学的な内容を故意に曲げて報道するテレビ局、政局としか思っていない野党、他者の職業を貶めて政府の援助を要求する演劇界の有名人。しかも通常の主張がリベラルと言う辺りは聞き苦しい要求だとしか思えません。
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牛蒡剣さんへ (mugi)
2020-05-09 22:38:39
 なかなかに濃い毒電波というよりも、河北新報に寄稿する“識者”はこの手合いばかりです。カネを払ってまで毒電波を見たくもないのですが、家族の希望で購読しています(嘆)。
 
 実は私はスポーツ音痴なので、五輪を含めスポーツ観戦はあまりしていません。ТV観戦しても報道がウザいんですよね。解説屋がここぞとばかり喋りまくっているし。マスコミは五輪やワールドカップを過熱報道する一方、“識者”が日本が自国を応援するのを「途上国」と貶すのです。欧米諸国の熱球的サポーターに比べれば、日本は“先進国”ですよ。

 この人も案外スポーツダメで、それゆえ斜に構えた見方をしていたのやら。仰る通りこの歴史学者殿こそ五輪ナショナリズムにとらわれすぎているので、自分が「銃後」にいながら前線をあおっているような居心地の悪さを覚えるのでしょう。
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Unknown (のらくろ)
2020-05-10 10:50:17
>日本の識者が何かと称賛するドイツに至ってはナショナリズムむき出しの、「すべてに優る、優越するドイツ」という歌詞がある国歌を試合前に斉唱していた。

ここは「世界に冠たるドイツ」としてほしかったが、それは我が父が少年期に「ドイツと言えばナチスドイツ」の時代だったからであって、父は10年以上前に世を去り、私も還暦を迎えようとしている令和の今日この頃では、世間には全く通じないのか…(遠い目)
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Re:雑感 (mugi)
2020-05-10 21:37:52
>スポンジ頭さん、

 健常人でも時におかしな発言をすることはありますが、與那覇氏のコラムは牛蒡剣さんのコメントにあるように「なかなかに濃い毒電波さん」そのものです。このコラムだけで氏の著作を読む気がなくなります。仰る通り横浜生まれでも苗字から沖縄風だし、だから日本を応援するのに居心地の悪さがある?と思いました。

 特に持ち出してきたのが「多様性」の文句。米国の教育現場でも多様性にとりつかれた考え方が広まっていて、人文系のみならず医学分野にも及んでいるそうです。
https://togetter.com/li/1502301

「他者の職業を貶めて政府の援助を要求する演劇界の有名人」とは、平田オリザでしょうか?河北新報にも寄稿したことがありますが、平田へのツイートは下手な新聞コラムより遥かに面白い。リベラルほど自腹は切らず、他人にたかるという見本ですね。
https://twitter.com/gerogeroR/status/1259065594873368577
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のらくろ さんへ (mugi)
2020-05-10 21:39:54
 戦争映画などに登場する悪玉のドイツ人将校がよく「世界に冠たるドイツ」というセリフを吐きますが、「すべてに優る、優越するドイツ」という歌詞はあまり知られていないので、こうしました。意味合いは殆ど同じだし、自国がイチバーンと高らかに歌っているのです。

 私の昭和一桁生まれの父も少年期は「ドイツと言えばナチスドイツ」の時代。米英は褒めてもドイツについては殆ど言わなかった。私の父も20年近く前に鬼籍に入りました。
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矛盾 (スポンジ頭)
2020-05-10 23:31:33
 多様性とは不快な価値観が自分と共存することを認める思想だと思います…。少なくとも自然科学を人種や性別で曲げないで欲しいですよ。

 平田氏は時給500円で劇団員を働かせていました。政府には最低賃金を1500円にするよう要求していました。立派な主張をしても、自分は責任を取らない例です。それに、製造業だけでなく、漫画にも喧嘩を売っていました。人の仕事を否定して自分たちを援助する要求は止めていただきたい。しかも、実家は大金持ちだとか。自主努力をされたらどうでしょうか。

 平田氏に関する記事です。このような人物が民主党で政権の中枢にいたのですから景気は悪くなるはずです。
https://news.yahoo.co.jp/byline/dragoner/20200504-00176920/ 

 追加で、例の伯母は第一次世界大戦でドイツが敗北したことも知らないと先日分かりました(驚)。そりゃ、独ソ戦も知らないはずです。
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Re:矛盾 (mugi)
2020-05-11 21:54:37
>スポンジ頭さん、

 日米ともに「多様性」を強調する輩こそ、己と異なる意見を認めない特徴がありますよね。「多様性」に名を借りた言論封じとしか思えません。「文化的配慮のある教育」の行きつく先は洗脳と全体主義でしょう。つまり教育現場の乗っ取り支配。

 別のサイトで平田が民主党で政権の中枢にいたこと、時給500円で劇団員を働かせていたことを知りました。しかも新人は時給300円。2009年当時でも中学生さえお手伝いをすれば時給500円以上はもらうはず。まさにブラック劇団で、劇団員は社畜ならぬ劇畜。
 実家が大金持ちだったことは初めて知りましたが、まったく呆れます。尤も早々にサヨクが論点ずらしをしています。
https://togetter.com/li/1505967

 第一次世界大戦でドイツが敗北したことを知らずとも、教師は務まりますよね。テストに出ませんから。軍事オンチの私より女性教師が知らなかったのは妙に安心しました。
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実はかなり激怒してます。平田オリザ氏に対して (牛蒡剣)
2020-05-11 22:34:55
やっぱり平田オリザ氏の発言は突っ込みどころ満載ですよね。そりゃあ収入が激減してる状態ですから
色々言いたいのは理解できるけど、正直ブチ切れて
「もう演劇なんて一回殺していいんじゃない?」
と思いましたよ。文化はエログロの低俗なものから
高尚なものまで全部意外なところでリンクしてたりするので、(例えば葛飾北斎なんかも春画とかやってますよね。エロ漫画から一流漫画家になったり、一度も見たことありませんが日活ロマンポルノがエロさあればあとはどうでもいいという路線で実験作が多かったように)というわけで演劇に興味のない
平田オリザ氏が嫌いという点を置いても「まあ頑張って存続してほしいですよね」と思ってたら、まあ
医療や農業並みに生活に必要だから保護しないほうが間違ってると言い出して、なかなかに傲慢な乞食ぶりに本当に驚きました。いやーかつてコンクリートから人へと言って、「土建業者はパソコンを覚えて転職したら?」と言っていた人物がこの言葉ですからね。「じゃあんたも転職したら?トラック運転手か介護なら引く手あまたですよwwwよっぽど世のため人のための仕事だぜ」と言ってやりたい。大体土建業者をたくさん殺したことが大災害後の復旧力の低下につながってますからね。

エンタメは産業が機能して経済が動いていて初めて
なりつもの。世界史的に見ても文化が爛熟したときは派遣国家が絶頂の時か、経済で快進撃してるとき。それを殺そうとした人物がこのざまとはほんと民主党の関連者はブーメランの達人ですよw
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一応の弁護 (スポンジ頭)
2020-05-12 06:48:27
>軍事オンチの私より女性教師が知らなかったのは妙に安心しました。

 一応伯母の弁護です。ネットで見た話ですが、東大大学院の院生(?)がアウシュヴィッツを知らなかったとか、テレビ局に勤める地頭の良い青年が「アメリカは核兵器を使ったことがあるのか」、と質問したとか、もはや教育の問題を飛び越えている例もありました。

 核兵器の話に関しては、日本に生きていて何を見てきたのか、と言うレベルですし、それでもテレビ局には入社できるので、世間には様々な穴があるものだと思いました。ネットをやっていると自分の生活範囲では絶対にお目にかかれないような話を知ることができますね。
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