サッカーにはまるで関心がないため、先月終了したW杯ロシア大会は日本選手が出場した試合でも見なかった。日本が健闘したのは予想外だったが、この大会で最も私の関心を引いたのが選手の技や試合結果よりも、ドイツのメスト・エジル選手の発言だった。大会終了後の7月23日、人種差別などを理由にドイツ代表からの引退を発表、タイトルはその時の発言から取っている。
この発言で私はメスト・エジルという選手名と、トルコ系移民3世ながらドイツ代表選手に選ばれていたことを初めて知った。トルコもサッカーが盛んな国であり、トルコ系移民の多いドイツで移民から代表選手が出るのは不思議ない。しかし、エジルの先の発言にはドイツ国内ではサッカー界はもとより、社会さえ揺るがす現象になったようだ。
2014年W杯では優勝したドイツだが今回は韓国にも負け、グループリーグ最下位で敗退したのは日本の健闘よりも予想外だった。エジルも前回と違い上手く結果を出せなかったらしい。名選手でも不調子があるのは無理もないが、wikiのエピソードの記述が事実とすれば。トルコ系と云う出自で少なからぬトラブルが有ったことが伺えた。ここから興味深いと感じた個所を引用したい。
―イスラム教を信仰しており、代表戦の試合前にドイツ国歌ではなく「心の平穏が得られる」としてクルアーンを心の中で唱えたことが話題になった。これに関してフランツ・ベッケンバウアーが「私が現役時代の頃は、皆で国歌を歌って士気を高めたものだ」と批判したが、エジルは「特に必要と感じない」とコメントしている。また、サッカー選手として支障がない範囲でラマダーンも行っている。
―トルコ系ドイツ人として知られているが、本人は「別にイライラしたりはしないけど、不思議に思っている。なぜなら必ずそう呼ばれるからね」と語り、あまりトルコ系ドイツ人と呼ばれる事を好んではいない。一方でサッカー選手として2つの異なるルーツを持つ事はポジティブな面が多いと語り、2つの異なる文化を持つ事を誇りに感じている、と発言している。
サッカーに無知・無関心の私でもベッケンバウアーの名前だけは聞いたことがあり、現代は不明だが、かつてドイツ選手団は試合前には選手皆が国歌を歌って士気を高めていたとは知らなかった。先月も記事にしたが、ドイツ国歌とは「♪ドイツよ、ドイツよ、すべてのものの上にあれ この世のすべてのものの上にあれ」で始まる歌である。日本選手が国歌を歌って士気を高めることなど考えられないではないか!
そして著名選手でも、3世になってさえ必ずトルコ系ドイツ人呼ばわりするドイツ社会も意味深い。在日3世と異なりエジルはドイツ国籍を取っているにも関わらず、単にドイツ人とは呼ばれないのだ。これがハンガリーやチェコの3世なら、どうなのだろう?
サッカーに関心の薄い日本人の間でもエジルの名が知られたのは、人種差別を理由として引退声明を出したことかもしれない。この出来事は河北新報の国際面でも取り上げられ、7月23日電子版では「MFエジルがドイツ代表引退 トルコ系、人種差別を理由に」という見出しで、こう報じている。
【ベルリン共同】サッカーのドイツ代表MFメスト・エジル(アーセナル)が22日、代表引退を表明した。29歳のエジルはトルコ系。ワールドカップ(W杯)ロシア大会前にトルコのエルドアン大統領と一緒に写真を撮ったことで、ドイツ国内で批判を受けていた。
エジルは長文の声明を自身の公式ツイッターで公開し、エルドアン大統領との写真には政治的意図はなかったと説明。一方で、移民としてドイツ社会に受け入れられていないとの心境をつづり「人種差別は受け入れられない。これ以上ドイツ代表のユニホームを着たいとは思わない」とした。エジルは、14年のW杯ブラジル大会優勝に貢献した。
当然wikiのエピソードにも載っており、ドイツ在住の作家・川口マーン惠美氏は「ドイツのサッカー選手が巻き起こした「大スキャンダル」その善悪」というコラムで、ドイツ国内の騒動を取り上げている。5月14日、エジルは同じトルコ系サッカー選手のイルカイ・ギュンドアン、ジェンク・トスンと共にエルドアンとロンドンのホテルで面会しており、これが「大スキャンダル」勃発となったという。
ドイツ生まれでも、プロになってからはドイツチームに所属したことはないトスンと違い、ドイツ人としてドイツのナショナルチームにも参加してきたエジルとギュンドアンは、「悪趣味」「無自覚」「無知」と集中砲火を浴びる。
その②に続く
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試合前にドイツ国歌ではなくクルアーンを心の中で唱えたことが問題に・・・。
日本では『君が代』を歌わない人々は大勢いる。代表なら歌ってもイイのじゃないかとも思うが、代表選手にも口を閉じたままのヒトはいる。ましてや心の中でならコーランの一節を唱えようが光明真言(おんあぼきゃあべいろしゃな・・・)を唱えようが問題にするヒトなどおるまい。
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エルドアン大統領と一緒に写真を撮ったことで、ドイツ国内で批判を・・・。
日本に北朝鮮から移籍した選手がいたとして、キム委員長と写真を撮る・・・日本でなら(たとえミサイルぼんぼん撃ってた時代でも)『両国の溝を埋めるのに貢献した』ぐらいのコメントで終わりそうだ。
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ドイツ人たちって厳密だよな!
皆の面前ならともかく、心の中でクルアーンを唱えたことが問題とされたとは私も驚きました。ドイツも信仰の自由を認めているはずだから、心中で唱えればOKのはずなのに社会の同調圧力が凄まじい。
日本の場合、日教組による『君が代』=右翼の洗脳教育もあり、公然と歌えないようになっていると思います。一方のドイツ国歌はナショナリズムむき出しで、それを歌って士気を高める処に、ナチ精神は未だ衰えず、という印象でしたね。
邪推ですが、トルコ系選手がエルドアン大統領と一緒に写真を撮ったことを批判するのは、どうせトルコに帰らないと見ているのかも。人種差別されてもドイツに住み続けるし、人権状況から見て中東諸国より厳密なドイツの方が居心地は良いはず。
日本のメディアは南北朝鮮に総じて好意的だし、“両国の絆”などのイメージ戦略に勤しむのが仕事です。良くも悪くもドイツ人の厳密さが社会に反映されており、これこそがすべてのものの上にある行為と思っているのでしょう。
サッカーのような試合開始前はテンションが上がらないという意見もちょっとありますが、表彰式での『君が代』は激闘後の静寂さと君の栄誉を千代に讃えると言う感じで非常にいい。
エルドアン大統領に対応するのは、やはり金正恩でしょうね。金正恩と笑顔で握手する朝鮮系選手が日本代表として応援されるのはちょっと厳しいでしょう。というか代表に選出されない。(拉致問題が大きい。)
サッカーは多くの国で国民的スポーツなので、エジルにしろ、ジダンにしろ、メッシにしろ、複数の国にルーツがあるとなかなか難しいですね。
確かに表彰式と違い試合開始前に『君が代』では、テンションが上がりませんよね。対照的にドイツ国歌はテンションが上がります。アップされた動画を見て、試合前に士気を高めるために選手が歌う理由が分りました。
https://www.youtube.com/watch?v=J3VNUjDLUH0
私的にエルドアンに対応するのは、プーチンと見ています。双方とも独裁者ではありますが、一応は選挙で選ばれています。その点は王朝と化している北朝鮮とは決定的に違う。
ベガルタ仙台に朝鮮系選手の梁 勇基(リャン・ヨンギ )がいますが、対抗チームサポーターから罵声を浴びせられたことがあります。地元メディアはやたら彼を持ち上げていますが、仙台っ子には人気がない。その理由は書くまでもないでしょう。
トルコやロシアなら、複数の国にルーツがある者が代表になるのは極めて難しいと思います。複雑な多民族国家が単一民族主義に拘るのは皮肉な現象ですね。