MSX研究所長の日常

80年代を駆け抜けたオールドパソコンMSXの研究の日々を綴ります。

2005年におけるMSXの話(3)

2005年02月10日 22時06分26秒 | MSX
(MSX研究所・所員日記からの転載)

さて第3回。ここまで読んだ方なら「そもそも、なんで新しいMSXを考えねばならんのか?」という疑問が沸いてきているはずである。沸いてこないのならそれはもう老化現象だ。
確かに、古いゲームのコレクションなんかをしている分には別に新しいMSXなど不要である。かと言って、ただ新しく作ったというだけのMSXではいけない。区別が難しいが、単なるMSXハード/ソフトの復刻版とか、既存のユーザー相手しか見ていない商売ではいけない。

ここで言う「新しい」とは、新しいユーザーを獲得する可能性があるという意味での新しさである。
というのをそれなりの人数がいる場で言うと、「そんなもんいらない」「別にMSXじゃなくてもいいんじゃないの」という人が必ずいて話が終わってしまう。前回言ったようにMSXユーザーというのはその目的とするところが各人それぞれ違うのであるが、そういう人の多くはどうやら自分たちのコミュニティに新しい人が入ってくるのがイヤというのがホンネのようだ。MSXのユーザー活動はかつては常に外を意識していたものだったのが、みんな20代から30代になるに従って閉鎖的になっていった人が(全体からすれば少数だが)増えたように思う。ある程度友達ができたからいいや、ということだろうか。

こういう後ろ向きな人たちの言うことを聞いていたら、単純にそのまま消えて終わるので無視することにする。「消えてしまう」ことを自覚していない人が大半だが、「僕らのものにしたまま消えるのがいい」とハッキリ言う人もいる。そこまで分かってるなら、どうして自分の考えが老人臭いことに気がつかないのだろう(この手の末期的な思考はMSX以外のホビーでもよく見られる状態だが、そういう場所の平均年齢はかなり高い)。

これはあくまで僕の考えだが、MSXを消してしまうのは惜しいと考える理由は3つある。

1.システムの規模が小さくてゲームなどの作品が作りやすい
2.市販/個人を問わず、ソフトウェアが大量に存在している(特に個人製作のゲームソフトが多い)
3.個人製作のソフトウェアを評価する風潮がユーザー間に存在する


1番についてはもしかしたらこれからでも作れるかもしれないが、2番のソフトの蓄積ばかりはどうしようもない。特にプロが作ったお手本がたくさんあるというのは、今からでは絶対にマネできない。ソフトそのものの保存と共に、個人レベルでソフトを作るための環境としてMSXを残したい、というのが僕の思うところだ。(さらに「そんなもんいるの?」という疑問もあると思うが、それはまた後に回す)

では、そこで「新しさ」がなぜ必要か?という結論は、人間とはトシをとる一方だからである。だから、生き残らせるためには若い人を引き入れる必要がある。仮に引き入れられなくても、新しさの追求は常に続けなければならない。実機は中古でしか手に入らないし、単にエミュレータがあるだけでは新しい人は入りようがないだろう。

かつてMSXにもオープンにすればいいとかフリーにしてほしいという意見もよくあった。確かにLinuxはそれなりに話題になっている。フリーでありオープンであることがその理由であることは確かだが、MSXがそれを真似して活性化につながるか?というのが非常に疑わしい。

オープンとかフリーと言う人の大半はカネにしたくない(=カネにからむことを考えたくない)という技術者志向の人である。そのこと自体は責められるべきではない、一つの思想だとは思う。しかし世間的には「タダのもの=価値がないもの」とみなされる危険が往々にしてある。近年、Linuxが成功していると言われているのはカネになりだしたからであり、それも使う人はあくまで技術者に限られている。一般の、特にかつてのMSXのように小中学生向けではないことに注意しなくてはならない。オープンだからと言って入りやすいわけではないのだ。

BIOSなどのソフトウェアが公開されたハードウェアとしてはX68000がある。エミュレータそのものはフリーで公開されている。というわけで誰でも手に入れられることになったX68000がその後どうなったかというと別にどうにもならなかった。新規のユーザーは獲得できず、むしろ衰退してしまったと言い切って問題ないと思う(MSXのフリー化に対する議論があった当時はまだ公開されていなかったけど)。

MSXの場合はBIOS-ROMの権利を持っているマイクロソフトというかゲイツがタダにするなんて考えられないという分かりやすい事情があったから、フリー化の議論は立ち消えにならざるを得なかった。また、「タダ=価値がない」をひっくり返せば「有料=価値がある」と判断されるわけだから、エミュレータを売るという方向に行ったわけである。


さてこれまでMSXアソシエーションはMSXPLAYerという形で復刻してきたわけだが、ここには常に新規性があったことにお気づきであろうか。もっとさかのぼると、まだMSXPLAYerがなく公式エミュレータの予告の時点からあった、というか常に新しさがあるように細工してたとも言える。

以下年度順に書き出す。カッコの中が新規性にあたる。

1999年8月:「MSX電遊ランド」で公式エミュレータの予告(公式のエミュレータという概念そのもの)
2000年8月:「MSX電遊ランド2000」で公式エミュレータの開発予告(予告だけだが、一応正式となる)
2001年8月:「MSX電遊ランド2001」で公式エミュレータ・ベータ版の配布(限定だが公開)
2002年12月:「MSXマガジン永久保存版」発売(公式エミュレータを商品として大量に販売、かつ初心者でも扱いやすインタフェースを搭載。でもまだMSX2+まで)
2003年12月:「MSXマガジン永久保存版2」発売(公式エミュレータがMSXturboRに対応)

見れば分かる通りかなり苦しいフレーズもあるが、一応毎年新しいことを盛り込みつつやってきた。
最初の頃はとても新しいユーザーを取り込むような話じゃないが、2002年の「MSXマガジン永久保存版」でまずMSX2+対応版を、続く「MSXマガジン永久保存版2」でturboR対応も含めたバージョンを世間に発表することができた。


さて、ここで難しいのが商売と理想のバランスである。2500円(税抜、保存版1)や2800円(税抜、保存版2)という高価な本としてはかなり売れた。アスキー的に見てもMSXアソシエーション的に見ても成功には違いないが、書店の注文に対して初期の出荷数が少なかったためほとんどの書店では速攻で売り切れてしまい、新規ユーザーの目に止まる間もなかったと思われる。だから、アスキー的には成功でもアソシエーション的には不満が残るのであった。

アソシエーションは自力で(大量生産を伴うような)商売はできない。理由は多岐に渡るが、ともかく「よそに企画を提案して作ってもらう」という形をとらなくてはならないために、相手が商売であるということは意識しなくてはならない(逆に、商売抜きでなどと言ってくるところはどうかしているので避けなければならない)。

ここまで書いた新規性うんぬんのポイントと、実際に出たMSXマガジン永久保存版1号/2号との内容にギャップがあると感じるかもしれない。それは要するに「新しい可能性も持たせつつMSXを提案したい」というのと「既存のユーザー相手の固い商売をしたい」という理念の違いとも言える。将来を見据えるのと、一回一回の商売として完結させなくてはならないポジションの違いでもある。

出荷数についても、店頭で早く消化されてしまえばアスキーとしては返本のリスクがなくなるので有り難いのは分かるのだが、アソシエーションとしてはもっと店頭残留時間が長くあって欲しい。何においても最終的にどっちに決まる、ということはなくてアソシエーションとアスキー双方の妥協点を見いだした結果なのである。これは今後の1チップMSXにしても同じように相手の存在を意識しないと提案にならないことを忘れないで欲しい。

次回から新MSXの具体的な話。

(つづく)

近況メモ

2005年02月10日 21時58分33秒 | 近況
・偶然、ゲームボーイ版「F1スピリット」(1991年)を入手。ちょっと触るが全然スピード感がない。同名のMSX版(1987年)にあったコンマ一秒を争うバトル感はまるっきりスポイルされている様子。見た目は初代MSX版だがプレイ感覚はMSX2+用「F1スピリット3Dスペシャル」(1988年)の方に似ている。なぜ?

・mixiに誘われる、というか誘わせる。世間では「誘われたけど面倒くさいのでしばし放置、でも見だしたらすぐハマった」系の物言いが多い中微妙に恥ずかしいデビュー。ちょっぴり懐かしい名前をいくつか発見。個人的にはmixiの内側向けのコンテンツを置く気は全くないので、とりあえず研究所blog(ここ)をmixi内から見えるようにしておく。ていうか、30万人もいたらいつかは望まない誰かに見られてしまうんじゃなかろうか。

・僕の中ではイマイチだった「メタルギアソリッド3」、世間ではかなり評判がいいらしい。あらゆる要素がめんどくさいばかりに感じられたのは、忙しさの中急いで遊んでしまったのが良くなかったか。ゲームの印象は初プレイ時が全てなのでもう楽しめないかと思うと残念。

ピーチアップの貴重な証言

2005年02月10日 00時31分19秒 | MSX
サナトリウムオブロマンス

MSX独自の名作として割と知られている「サナトリウムオブロマンス」についての情報を見つけました。1991年に発売された「ピーチアップ6」に収録されたもので、後に「ピーチアップ総集編II(笑)」に「サナトリウムオブロマンス2」も収録されています。どちらも音楽やグラフィックが良かったことを覚えています。「2」の評価は前作に比べるとやや低いようですが、シナリオに救いがなさすぎたせいでしょうか。

これらシリーズは「ぷよぷよ」「バロック(プレイステーション)」などで知られる米光一成氏の作品です。「3」も予定はあったようですがMSX市場の衰退により結局製作されなかったのが残念な限りです。

さて、この証言で極めて貴重なのがここ。

>当時の友人がこのゲームのおまけであった女物のパンツをはいて
>登校したという伝説があります(?)

「ピーチアップ総集編」「ピーチアップ総集編II(笑)」には「桃子のカワイイプレゼント」と称して女物のパンツがついていました。ここはオヤジっぽく「パンティ」と言うとより当時らしいかと思います。これは中古ではほぼ100%欠品しているのが昔から謎でしたが、まさか履かれていたとは思いませんでした。ううん、ボク知らなかったよマザー!

どうして履いていることを知り得たのか、あるいは自分で言っちゃったのか謎ですが、登校までしちゃったあたりが背徳的な感じがします。かつて聞いた中では「イースの女神の黒い真珠(タイトル画面でちょうど胸の位置を隠している)を手作業で消した」人と同じくらいの衝撃です。

ちなみに、パンツ付きの「ピーチアップ総集編」/「II(笑)」はいまでは定価以上の値がつくこともあるプレミア品です。もっとも、ソフト自体は後期の発売のせいか珍しくはありませんけども。