経済社会コラム #11

2005年12月01日 | 経済問題
私はニッポン放送の携帯情報サイトで、毎週その週に起こったことを中心にコラムを書いています。一週間遅れで、その記事を公開しています。世の中の流れが速いので、だいぶずれてしまうこともありますが、ご容赦ください。なお、最新版は携帯電話からニッポン放送のサイトに行ってください(こちらは有料です)。

茶番なのではないか
 今年6月に出された政府税調の所得課税に関する「論点整理」以降、給与所得控除の圧縮、配偶者控除の廃止、特定扶養控除の廃止、定率減税の廃止、酒税の増税など、様々な増税メニューが打ち出されてきた。そして、10月には、政府税調の石弘光会長が個人的な意見としながらも、将来の消費税率について「10%から15%くらいではないか」という発言をして、一気に消費税増税の議論が盛り上がった。
 谷垣財務大臣は、いくら歳出カットをしても、それだけで財政を立て直すことは不可能だとして、2007年度には消費税を含めた税体系を抜本的に改めると、増税路線を鮮明にした。与謝野経済財政担当大臣もこの方針に同調した。
 ところが、これに反旗をひるがえしたのが中川政調会長だった。中川政調会長は、デフレを脱却して3~4%の名目経済成長を続ければ、基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2010年代初頭に黒字化するという政府の目標は達成できると主張し、谷垣財務大臣の増税路線を批判したのだ。経済財政担当大臣を外れた竹中総務大臣もこの中川政調会長の意見に同調した。
 驚いたのは小泉総理の発言だ。「構造改革ではいずれ、谷垣さんも与謝野さんも、私の意図が分かれば、中川政調会長と協力していく。私の意図が分からないから、ちょっと調子外れのことをたまに言うだけだ」と、11月18日に韓国・釜山に同行した記者団に語ったのだ。
 小泉総理は、総理退任後に消費税の引き上げが行われることを容認しているのだと、私は思っていた。ところが、総理は増税を打ち出す谷垣財務大臣を事実上抵抗勢力扱いにしてまで、増税路線を否定したのだ。一体何が起こったのだろうか。
 財政再建のためにさほど大きな増税は要らないとする中川政調会長の意見に、私は基本的に賛成だ。どさくさに紛れて、あらゆる増税メニューが出されてきたが、そもそもそんなに大きな増税が必要でないことは、ちょっとした計算をすれば、すぐに分かることだ。
 財政の基礎的収支を黒字化するためには、16兆円の収支改善が必要とされている。消費税は1%の引き上げで2兆6000億円の税収が入ってくる。つまり、消費税を5%引き上げるだけで、13兆円の税収が入ってくる。これに定率減税廃止による3兆円の増税を加えると、それだけで16兆円になる。つまりこれだけで、2010年初頭とされている基礎的財政収支の黒字化が達成されてしまうのだ。
 実際には歳出カットもあるし、デフレ脱却に伴う経済成長で自然増収もでてくる。歳出カットと自然増収が毎年それぞれ1兆円ずつあれば、2010年代初頭に財政のプライマリーバランスを黒字化することは可能ということになるのだ。
 それでは、なぜ政府税調は大騒ぎをして、さまざまな増税を打ち出したのか。私には、それが茶番であったとしか思えない。そもそも定率減税一つにしても、99年の景気対策として「恒久的減税」として導入されたものだ。法律にも、税制の抜本改革が行われるまでの措置として導入すると書いてある。財務省自身が2007年に税制の抜本改革を行うと言っているのだから、いま定率減税を廃止するのは法律違反なのだ。しかも99年の恒久的減税は法人税率の引き下げとセットになっている。それなのに、法人税の減税をそのままにして、個人所得課税の減税だけを廃止するのは、どう考えても筋が通らないのだ。
 ところが、増税メニューの乱発によって、定率減税廃止に対する批判はどこかに吹き飛んでしまった。それどころか、増税を否定した小泉総理は、ますます国民の人気を集めている。
 結局、今回の増税論議は、必要もない増税を打ち出すことによって、定率減税の廃止という3兆円もの大増税を覆い隠すための茶番劇だったのではないだろうか。
 私も、あまりにひどい増税策に対して、批判の論陣をはってきた。しかし、冷静に考えてみると、私自身も茶番劇にまんまと乗せられてしまったのではないかという気がしてならないのだ。
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