今日はガレージアンドハウジングエキスポのセミナー講師デビッグサイトにきました。
私はニッポン放送の携帯情報サイトで、毎週その週に起こったことを中心にコラムを書いています。一週間遅れで、その記事を公開しています。世の中の流れが速いので、だいぶずれてしまうこともありますが、ご容赦ください。なお、最新版は携帯電話からニッポン放送のサイトに行ってください(こちらは有料です)。
四重に都合のよい国内発展途上国
26歳未満の若者を理由を明示せずに解雇できるようにすることによって、企業が気軽に若者を採用できるようにしようとフランス政府が導入を決めたCPE(初回雇用契約)。それに反対するフランスのストライキやデモが、国民行動デーに指定された4月4日に再び大規模に展開され、警察発表で94万人のフランス国民が参加した。主催者側は前回3月28日に行われた時の300万人を超える参加者があったとしている。
このデモは、もともと昨年10月から11月にあった移民系の若者の暴動に端を発している。フランスでは、北アフリカを中心とした地域からの移民の2世が厳しい雇用状態に置かれてきた。フランスの若者の失業率は2割だが、移民系の若者の失業率は4割にも達しているのだ。いくら努力しても、まともな仕事にありつけない彼らの不満が暴動を引き起こしたのだ。
しかし、3月以降の国民行動は、そうした移民系の若者だけでなく、老若男女のフランス国民を巻き込む形で広がった。デモの参加者の大部分は普通のフランス国民だったのだ。それは一体何故なのか。
今回のCPEを含む「機会均等法」は、若者向け雇用政策の変更にとどまらない。一度正社員として雇用すると、ほとんど解雇することができないフランスの雇用制度に風穴を開け、米英型の雇用制度に転換していく「改革」の第一歩なのた。フランス国民は、それが分かっているから、強硬に反対しているのだ。
経済が低成長に陥り、雇用が過剰になったとき、それを調整する方法は大きく分けて二つある。ひとつは労働時間を削り、賃金を減らすことで雇用を分かち合う「ワークシェアリング」の方法で、もう一つは過剰になった労働者を解雇する方法だ。前者は大陸ヨーロッパで、後者はアメリカで採用されてきた方法だ。
もちろん大陸ヨーロッパでも、解雇型の雇用調整は事実上行われてきた。それが、移民系の労働者だった。正社員として就職することが困難な彼らは、景気が悪くなると真っ先に職を失った。企業からみれば生産量変動にあわせて調整することができるクッションの役割を果たしてきたのだ。しかし、欧州経済の不振に伴う労働需要の減少は、移民系労働者だけの調整では追いつかなくなった。CPEは、移民系でないフランスの若者も同じ立場に置くことを目的にしているのだ。
実は、そうしたことには手本がある。アメリカ企業で広く採用されているシニョリティ・システム(先任権制度)だ。アメリカの企業には、景気が悪くなって雇用調整が必要になった時に、勤続年数の少ない従業員からレイオフ(一時解雇)をする雇用ルールがある。一見、アメリカの雇用システムは公正な自由競争にみえるが、そうではない。力の強い者が既得権を握り、「自由競争」の敗者と宿命づけられているのは、立場の弱い若者なのだ。
フランスはいま、その既得権型雇用システムへの転換を迫られている。企業が雇用調整を進めることなしに、グローバル競争を生き残っては行けないと言うのだ。しかし、私はフランス政府の本音は、若者層のなかに政府にとって「都合のよい労働層」を作ることなのではないかと考えている。都合のよさは、四重の意味がある。
第一は、フランスの一般国民がやりたがらないキツイ、キタナイ、キケンの3K労働の担い手だ。普通であれば、人の嫌がる仕事には高い賃金を払わなければならない。しかし、そうした職種にしか就けない労働者を作ることによって、低賃金で使うことができる。フランスが高度成長期に大量の移民労働者を受け入れたのは、それが分かっていたからだ。
第二は、雇用の調整弁だ。景気が悪くなった時に移民と若者を斬り捨てることによって、中年以上の普通のフランス国民は、雇用を守ることができるのだ。
第三は、都合のよい労働層を差別し、敵視させることによって、挙国体勢を作りあげることだ。「移民労働者のおかげで失業対策、社会保障対策に財政が苦しくなっている。彼らを追い出すべきだ」とフランスの極右政党は言っている。都合のよい労働層は本来雇用システムの犠牲者なのに、彼らへのイジメ抜くことによって、国がまとまるのだ。
第四は、ひとたび戦争になったら、彼らが最前線に行かされるということだ。イラク戦争で前線に配置されている米軍最下層の兵士が得ている年収は200万円に満たない。それでも何故彼らが命をかけて戦地に赴くのかといえば、彼らの元々の年収が100万円程度にすぎないことが多いからだ。給料は倍増、大学にも通えるというのは、彼らにとって魅力的な条件なのだ。逆に言えば、命をかけなければ「都合のよい労働層」を脱出できないということだ。
日本でも、若者の高失業と非正社員・低賃金化が進んでいる。雇用面のアメリカ化は確実に進展しているのだ。しかし、日本ではフランスのようにストもデモも起こっていない。深刻なのは日本の方かもしれない。
四重に都合のよい国内発展途上国
26歳未満の若者を理由を明示せずに解雇できるようにすることによって、企業が気軽に若者を採用できるようにしようとフランス政府が導入を決めたCPE(初回雇用契約)。それに反対するフランスのストライキやデモが、国民行動デーに指定された4月4日に再び大規模に展開され、警察発表で94万人のフランス国民が参加した。主催者側は前回3月28日に行われた時の300万人を超える参加者があったとしている。
このデモは、もともと昨年10月から11月にあった移民系の若者の暴動に端を発している。フランスでは、北アフリカを中心とした地域からの移民の2世が厳しい雇用状態に置かれてきた。フランスの若者の失業率は2割だが、移民系の若者の失業率は4割にも達しているのだ。いくら努力しても、まともな仕事にありつけない彼らの不満が暴動を引き起こしたのだ。
しかし、3月以降の国民行動は、そうした移民系の若者だけでなく、老若男女のフランス国民を巻き込む形で広がった。デモの参加者の大部分は普通のフランス国民だったのだ。それは一体何故なのか。
今回のCPEを含む「機会均等法」は、若者向け雇用政策の変更にとどまらない。一度正社員として雇用すると、ほとんど解雇することができないフランスの雇用制度に風穴を開け、米英型の雇用制度に転換していく「改革」の第一歩なのた。フランス国民は、それが分かっているから、強硬に反対しているのだ。
経済が低成長に陥り、雇用が過剰になったとき、それを調整する方法は大きく分けて二つある。ひとつは労働時間を削り、賃金を減らすことで雇用を分かち合う「ワークシェアリング」の方法で、もう一つは過剰になった労働者を解雇する方法だ。前者は大陸ヨーロッパで、後者はアメリカで採用されてきた方法だ。
もちろん大陸ヨーロッパでも、解雇型の雇用調整は事実上行われてきた。それが、移民系の労働者だった。正社員として就職することが困難な彼らは、景気が悪くなると真っ先に職を失った。企業からみれば生産量変動にあわせて調整することができるクッションの役割を果たしてきたのだ。しかし、欧州経済の不振に伴う労働需要の減少は、移民系労働者だけの調整では追いつかなくなった。CPEは、移民系でないフランスの若者も同じ立場に置くことを目的にしているのだ。
実は、そうしたことには手本がある。アメリカ企業で広く採用されているシニョリティ・システム(先任権制度)だ。アメリカの企業には、景気が悪くなって雇用調整が必要になった時に、勤続年数の少ない従業員からレイオフ(一時解雇)をする雇用ルールがある。一見、アメリカの雇用システムは公正な自由競争にみえるが、そうではない。力の強い者が既得権を握り、「自由競争」の敗者と宿命づけられているのは、立場の弱い若者なのだ。
フランスはいま、その既得権型雇用システムへの転換を迫られている。企業が雇用調整を進めることなしに、グローバル競争を生き残っては行けないと言うのだ。しかし、私はフランス政府の本音は、若者層のなかに政府にとって「都合のよい労働層」を作ることなのではないかと考えている。都合のよさは、四重の意味がある。
第一は、フランスの一般国民がやりたがらないキツイ、キタナイ、キケンの3K労働の担い手だ。普通であれば、人の嫌がる仕事には高い賃金を払わなければならない。しかし、そうした職種にしか就けない労働者を作ることによって、低賃金で使うことができる。フランスが高度成長期に大量の移民労働者を受け入れたのは、それが分かっていたからだ。
第二は、雇用の調整弁だ。景気が悪くなった時に移民と若者を斬り捨てることによって、中年以上の普通のフランス国民は、雇用を守ることができるのだ。
第三は、都合のよい労働層を差別し、敵視させることによって、挙国体勢を作りあげることだ。「移民労働者のおかげで失業対策、社会保障対策に財政が苦しくなっている。彼らを追い出すべきだ」とフランスの極右政党は言っている。都合のよい労働層は本来雇用システムの犠牲者なのに、彼らへのイジメ抜くことによって、国がまとまるのだ。
第四は、ひとたび戦争になったら、彼らが最前線に行かされるということだ。イラク戦争で前線に配置されている米軍最下層の兵士が得ている年収は200万円に満たない。それでも何故彼らが命をかけて戦地に赴くのかといえば、彼らの元々の年収が100万円程度にすぎないことが多いからだ。給料は倍増、大学にも通えるというのは、彼らにとって魅力的な条件なのだ。逆に言えば、命をかけなければ「都合のよい労働層」を脱出できないということだ。
日本でも、若者の高失業と非正社員・低賃金化が進んでいる。雇用面のアメリカ化は確実に進展しているのだ。しかし、日本ではフランスのようにストもデモも起こっていない。深刻なのは日本の方かもしれない。
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