新連載を始めました

2006年12月23日 | 経済問題
株式会社ビスタニュースのホームページに
毎月19日に経済コラムを連載し始めました。
URLは

http://www.vistanews.co.jp/

です。
goo | コメント ( 6 ) | トラックバック ( 0 )

経済社会コラム #33

2006年08月13日 | 経済問題
私はニッポン放送の携帯情報サイトで、その週に起こったことを中心にコラムを書いています。一週間遅れで、その記事を公開しています。世の中の流れが速いので、だいぶずれてしまうこともありますが、ご容赦ください。なお、最新版は携帯電話からニッポン放送のサイトに行ってください(こちらは有料です)。


ゼロ金利解除の影響

 7月14日に日本銀行が5年4ヶ月続いたゼロ金利政策を解除した。消費者物価指数(生鮮食品を除く)が7カ月連続の上昇となり、6月の日銀短観(企業短期経済観測調査)でも高水準の設備投資と良好な景況感が明らかになったことで、ゼロ金利を解除しても、デフレに逆戻りする恐れがなくなったと日銀政策委員会が判断したからだ。
 ただ、私はゼロ金利解除は、時期尚早で失敗だったのではないかと思う。その理由は、株価が大幅に下落したからだ。1万5千円台半ばで安定していた日経平均株価は7月10日に1万5553円をつけていたが、ゼロ金利解除後の週明けである7月18日には1万4437円まで下落した。8日間で1116円、7.2%の下落だ。もちろん、この株価下落にはイスラエルのレバノン攻撃に伴う中東情勢の不安定化の要因が相当程度含まれている。しかし、金融当局は世界情勢も踏まえて金融政策の判断をしなければならないのだ。また、3月の量的金融緩和解除から振り返れば、日銀が金融引き締めに入ってから株価が下落しているのは、明らかだろう。何しろ量的金融緩和解除の直後には、日経平均株価は1万7000円台に達していたのだ。その後、日銀がゼロ金利解除に向けてマネタリーベース(現金+に地銀当座預金)の伸びを急速に絞るなかで、株価がズルズルと下がっているのだ。
しかも、私はゼロ金利解除が可能とした日本経済の診断も、日銀は誤ったのではないかと思う。第一の理由は、日本経済がデフレを脱却したとは、とても言えないからだ。消費者物価の上昇率は、真の物価上昇率よりも1%から2%程度高めに出る統計上のバイアスがある。最も包括的で正確な物価上昇率を示すのは、GDPデフレータだ。そのGDPデフレータの上昇率は、今年の1~3月期で前年比マイナス1・2%と、デフレが続いているのだ。
 私が時期尚早と考える第二の理由は、原油高等の原材料価格高騰が製品価格に転嫁できていないということだ。日銀が公表している交易条件指数は、製造業の産出物価指数を投入物価指数で割って算出するが、5月の交易条件指数は89.6(2000年=100)と、過去最悪の水準に落ち込んでいる。製造業だけではない。タクシー、トラック、クリーニング業などの非製造業も、原油高を料金に転嫁できていない。
 第三の理由は、中小企業の業況がよくなっていないということだ。6月の日銀短観で業況判断DI(「良い」と答えた企業の割合-「悪い」と答えた企業の割合・%)をみると、大企業製造業こそ21%と好調だが、中小企業非製造業はマイナス6%と、業況がよくないと答えた企業の方が多いのだ。
 中小企業は原材料価格の上昇を製品価格に転嫁できずに苦しんでいる。そこにゼロ金利解除に伴う借入金の金利負担増が加われば、経営は一層厳しくなるだろう。実際、大手銀行は短期プライムレートの引き上げに動き始めた。7月中には、現在1.375%の短期プライムレートは1.625%へと0.25%引き上げられる見込みだ。
 厳しくなるのは、住宅ローンを抱える家庭も同じだ。国土交通省の調査によると平成17年度上半期末で、10年超の金利固定期間を持つ住宅ローンの割合は5.2%に過ぎない。つまり、ゼロ金利解除でローン金利が上昇すると、住宅ローンを抱える世帯の大部分が、ローンの返済額が上昇し、家計が圧迫されていくことになるのだ。なかでも変動金利型の住宅ローンの割合は33.2%だから、3分の1の世帯にはすぐに返済額が増える。現在、大部分の銀行の変動金利ローンの金利は、短期プライムレート+1%だから、短期プライムレートが0.25%引き上げられるのと同時に、住宅ローン金利も引き上げられる。0.25%の金利上昇はローン残高が1000万円の場合で年間2万5千円の負担増、残高が3000万円なら7万5千円の負担増となる。決して小さい金額ではない。
 2000年8月のゼロ金利解除の際には、3ヶ月後に景気が後退過程に突入した。今回も同様の事態が生ずる可能性は否定できないだろう。
 しかし、前言を翻すようだが、私は、もしかすると、今回のゼロ金利解除の逆風を飲み込んで、日本経済が再び成長軌道に戻っていくことが可能なのではないかと考えている。通常、日銀は一度金融引き締めに入ると、ハイペースで金利を引き上げていく。ところが、今回はそうならないのではないかと思うのだ。日銀が政府と「取引」をしたと思われるからだ。
 ゼロ金利解除の行われた7月14日、私の目に奇異に映ったことが二つあった。一つは日銀の福井総裁が辞任をしなかったこと、それどころか「職責を全うしたい」と居座りを宣言したことだ。
 村上ファンドへの投資スキャンダルで、海外メディアは福井総裁に痛烈な批判を浴びせている。読売新聞の世論調査では72%の国民が福井総裁は辞任すべきと答えている。そうしたなか、これ以上総裁を続けても、恥の上塗りをするだけだから、普通の判断力があれば辞任するのが当然だ。それなのに、福井総裁が辞任しないのは、日銀が異常な金融政策と考えるゼロ金利を何としてでも自らの手で解除したいからだと言われていた。だから、私はゼロ金利解除の記者会見で福井総裁が辞任を表明すると考えていた。ところがそうはならなかったのだ。
 もう一つの奇異なことは、ゼロ金利解除後の政府の反応だ。政府は日銀のゼロ金利解除を慎重に行うように一貫して主張してきた。金利の引き上げは、景気失速のリスクを高めるだけでなく、国債の利払いも増やすのだから当然だ。ところが、ゼロ金利解除が行われると、一転して日銀のゼロ金利解除を容認する姿勢をみせたのだ。安部官房長官しかり、小泉総理しかりだ。
 なぜ、そんなおかしなことが起こったのか。私の推理は、政府と日銀が次のような取引をしたのではないかということだ。政府は、日銀のゼロ金利解除と福井総裁の留任を容認する。また、福井総裁をこれ以上国会に呼ばない。それと引き換えに日銀は当分の間、短期金利の誘導目標を0.25%に据え置く。日銀が名とポストを取り、政府が実を取るという取引だ。
 この取引があったことを予想させる間接的な証拠が二つある。一つは、ゼロ金利解除決定後の記者会見での福井総裁の言葉だ。福井総裁は会見で「連続利上げを意図しているわけではない。極めて低い金利による緩和的な金融環境が当面維持される可能性が高い」と述べたのだ。
 もう一つの証拠は、公定歩合だ。銀行は日銀から公定歩合で資金を借り入れることができるから、公定歩合は短期金利の上限金利となる。当初、公定歩合は0.5%と言われていたが、フタを開けてみると、公定歩合は中途半端な0.4%という数字だった。これも、政府の圧力で0.1%引き下げられたのではないだろうか。
 もし、私の分析が正しいとすると、日銀はこれ以上の金融引き締めは当分できない。となると、緩やかな金融引き締めを乗り切って、景気は回復軌道を続けることができるかもしれない。
 そうなれば、これからしばらくは、株を買うのに絶好の環境になると言えるのではないだろうか。
goo | コメント ( 8 ) | トラックバック ( 0 )

経済社会問題 #32

2006年07月23日 | 経済問題
私はニッポン放送の携帯情報サイトで、その週に起こったことを中心にコラムを書いています。一週間遅れで、その記事を公開しています。世の中の流れが速いので、だいぶずれてしまうこともありますが、ご容赦ください。なお、最新版は携帯電話からニッポン放送のサイトに行ってください(こちらは有料です)。
※更新をサボっていたら、1ヶ月近く経ってしまいました。失礼しました。

 6月22日の衆院財務金融委員会に、日銀の福井俊彦総裁が参考人として招致された。野党の要求で閉会中審査が行われたからだ。この席で村上ファンドへの投資契約の詳細な内容を訊ねられた福井総裁は、「本当にど素人で覚えていない」と答弁した。途端に委員席から「それはないだろう」というヤジが飛んだ。
 確かに、金融政策のトップがど素人でよいはずがない。しかし、私は福井総裁は本当に詳しい中身は知らなかったのだと思う。志を共有する村上良彰被告がよきにはからってくれると信じていたのだと思う。
 先週も指摘したが、今週も福井総裁と新自由主義者たちの親密な関係が次々に明らかになった。一つは、福井総裁の村上ファンドへの投資を仲介していたのがオリックスで、しかもオリックスの宮内会長と「個人的に非常に親しい」ことを6月22日の衆院財務金融委員会で福井総裁自らが明らかにしたのだ。
 6月29日付けの『週刊文春』は、もっときな臭い記事を載せている。
(以下引用)
 福井総裁の村上ファンドへの出資が発覚した十三日、なぜか真っ先に「福井総裁擁護論」を展開したのが、ポスト小泉「大本命」の安部晋三官房長官だった。「安部産は福井総裁辞任論の火消しに躍起でした。なぜなら、村上ファンドが原因で福井総裁が辞任すれば自分にも火の粉が降りかかってくる可能性があったからです。安部さんは、村上の逮捕時に「パーティーとか大きな会合で会ったことはある」と“疎遠ぶり”を強調していましたが、実際はかなり親密な関係だったんです」(政府関係者)
(以上引用)
 この後、『週刊文春』は六本木ヒルズの村上被告の自宅でのパーティに安部官房長官がよく顔を出していたことを伝えている。
 また、この『週刊文春』は私のコメントも紹介しているので、それも引用しておこう。
(以下引用)
 堀江や村上が活躍できるような“海賊資本主義”の経済体制を作り上げてきたのが、日銀総裁の福井さんと金融・経済財政担当大臣だった竹中さんのツートップだった。そして村上や木村といった人物が金儲け主義の民間伝道師としてマスコミで言論を振りまいていった。彼ら4人こそが、いかがわしい風潮を創り出し、格差社会を作り上げた悪の枢軸「四人組」といえるでしょう。
(以上引用)
 ちなみに上記で「木村」となっているのは、竹中金融庁で顧問を務めた木村剛氏のことだ。福井総裁は木村剛氏が日銀を受験したときの面接担当で、結婚式の仲人も務めている。
 私は、村上ファンド事件や福井総裁のスキャンダルの背後にあるのは、日銀、政府、評論家、そして投資ファンドのインナーサークルによる暗黙の共謀なのではないかと考えている。
 福井総裁が金融を引き締めることでデフレを継続させる。デフレで生まれた不良債権を、木村剛氏が主導して作った「金融再生プログラム」にしたがって強引に処理していく。それを投資ファンドや新興企業が二束三文で買収する。さらに投資ファンドは、デフレで割安になった優良企業の株式を買い占めて、高額配当の引き出しと高値での売り抜けを狙う。
 四人組の間に明確な共謀はなかったと思う。しかし、志を同じくする人の間には暗黙の共謀が成立する。この暗黙の共謀を破壊しつくさない限り、日本にまともな資本主義は根付かないだろう。
goo | コメント ( 63 ) | トラックバック ( 0 )

環境対策を考える

2006年07月09日 | 経済問題
環境対策って何だろう
 「これからの成長産業は環境産業だ」、「エコロジーはエコノミーを拡大する」。そんなセリフがよく言われます。確かに、兵器を作ったり、要らない公共事業をするのに比べたら、ずっとよいことだと思いますし、私も日本が環境産業の先端国家であって欲しいと願っています。
 ただ、いつもそうした議論を聞いていて、いつも私の心には腑に落ちないものがあるのです。それは、環境問題を声高に叫ぶ人たちが、本当にみな環境のことを考えているのかということです。なぜ環境ビジネスが「成長」産業でないといけないのでしょうか。なぜ「経済成長」を続けなければならないのでしょうか。
 また、環境対策を声高に叫ぶ人たちが、燃費の悪い大型スポーツカーに乗っていたり、美食家だったりすると、ますます私の疑いは強まってしまいます。
 環境対策というのは、何か新しいことをやるとか、技術的に難しいことをやるのではなく、もともとの日本人がやってきた暮らしを取り戻すだけで、大きな進展が見込まれるのではないかと私は思っています。
 昭和30年代から40年代の日本は、経済的にはいまよりずっと貧しい暮らしをしていました。統計でみると、昭和35年(1960年)の実質賃金はいまの5分の1、昭和45年でもいまの半分でした。
 しかし、それで私たちの幸せは5分の1とか半分だったでしょうか。私は、そうは思いません。小学生時代、私は東京・目黒の都営アパートで暮らしていました。決して豊かではなかったけれども、楽しい子供時代でした。
 毎日、原っぱで鬼ごっこをし、林で木に登り、虫網を持って蝶や蝉を追いかけ、ザリガニをスルメで釣り上げ、毎日泥だらけになるまで遊んでいました。
 学校に行けば、教室では鉄人28号、鉄腕アトム、スーパージェッター、宇宙少年ソランなどのテレビアニメの話題で盛り上がり、校庭に出られるチャンスがあれば寸暇を惜しんで走り回りました。
 今のように子供が青白い顔をしてTVゲームの画面に釘付けになっていたり、塾通いで睡眠時間を削らなくてはいけないほど忙しかったり、大人達が無表情で無愛想になるほど疲れ果てていることもありませんでした。家庭にはお母さんがいて、夜と日曜日には一家の団らんがありました。経済的には貧しかったけれども、そうした明るく楽しい想い出が詰まっているからこそ、いま昭和が大きなブームを迎えているのでしょう。
 環境問題が意識されていたわけではありませんが、昭和中期までは環境にやさしい時代でした。確かに公害問題はすでに発生していましたが、私たちの生活は意図せざるエコライフだったのです。
 例えば、私は家にある瓶を抱えて、ソースや醤油を買いに行かされていました。牛乳は牛乳屋さんが瓶に入ったものを毎日届けてくれました。プラスチックのボトルなど、そもそも存在しなかったのです。商店街には必ず買い物かごを抱えていきました。八百屋さんや魚屋さんが包んでくれる包装紙は新聞紙でした。
 農家が使う肥料は堆肥と人糞。農薬も天然の素材から取っていました。
 それだけではありません。昭和の時代は、何よりも、モノが小さかったのです。
 いま私はグリコのおまけをかなり本気で集めています。小学校のときに十分買えなかったものを取り返そうという気持ちがコレクションの情熱の大半を支えているのです。
 記憶が正確かどうか自信がないのですが、グリコは私の子供時代には10円でした。10円というのは、結構大きな金額で、何かの記念日とか、おばあちゃんにもらったとかでないと、普段から使えるお金の単位ではありませんでした。確か駄菓子屋ではビー玉が3個で1円だったと思います。だから普段でかける駄菓子屋にはグリコは置いていなくて、大金を握った時だけ、お菓子屋に出かけてグリコを買うのです。
 もちろんグリコのキャラメルはこの上ないご馳走なのですが、一番の目当ては小箱に入っているグリコのおまけでした。
 期待したロボットや飛行機や鉄人28号がでたときは飛び上がるほど嬉しいし、たまに女の子用のおまけが出てしまったときは、地団駄を踏んで悔しがります。ただ、グリコのおまけを机の引き出しのなかから取り出して、並べて眺めていると、想像の世界が広がって胸のワクワクドキドキが止まらなくなるのです。
 当時集めたグリコのおまけは、残念ながら行方不明になってしまったのですが、いまになって再び当時のおまけを集めてみると、驚くことは、どれもあきれるほど小さいということです。全長は2センチから3センチほどしかありません。逆に言えば、当時はそれだけ小さなおもちゃで子供の夢が買えたと言うことなのです。
 昭和35年の日本のエネルギー消費は、いまの6分の1でした。その大部分は、日本人のライフスタイルがもたらしたものです。
 確かに我々の生活は豊かになりました。コンビニもスーパーも24時間開いていて、何でも手に入ります。でも、その裏側で、商店街の賑わいとか、季節感とか、心のふれあいといったものとともに、大切な環境も失ってしまった気がします。少なくとも環境を犠牲にしてまで、これ以上の経済成長は必要はないと私は思います。

(本稿は、「日経エコロジー」に書いた文章を加筆修正したものです)。
goo | コメント ( 33 ) | トラックバック ( 0 )

経済社会問題 #31

2006年06月25日 | 経済問題
私はニッポン放送の携帯情報サイトで、その週に起こったことを中心にコラムを書いています。一週間遅れで、その記事を公開しています。世の中の流れが速いので、だいぶずれてしまうこともありますが、ご容赦ください。なお、最新版は携帯電話からニッポン放送のサイトに行ってください(こちらは有料です)。


福井俊彦日銀総裁は辞任すべきだ
 6月13日、日銀の福井俊彦総裁が、村上ファンドの設立当初から1千万円の資金拠出をしており、2月に解約を申し入れたものの、解約手続きが完了しておらず、現在も投資を続けていることが明らかになった。
 翌々日の6月15日に参議院予算委員会に参考人として招致された後、福井総裁は記者会見で「自らの職責を果たしていきたい」と語り、辞任の考えが全くないことを強調した。先進各国のメディアで大きく採り上げられ、当然辞任してしかるべき大スキャンダルであるのに、福井総裁は居直ったのだ。
 福井総裁の行為には、多くの問題がある。まず、主なところを整理していこう。
 第一に、福井総裁が村上ファンドへの投資は資金拠出が日銀の内規に抵触しないとしたことだ。これは明らかにおかしい。「日本銀行員の心得」には「過去の職歴や現在の職務上の立場等に照らし、世間から些かなりとも疑念を抱かれることが予想される場合には、そうした個人的利殖行為は慎まなければならない」と書かれている。現に、世界中から疑念を抱かれているのだから、それだけでも内規違反のはずだ。
 第二は、福井総裁が参議院予算委員会で、村上ファンドへの投資で得た運用益を問われて、「清算するまで分からない」、「きちんと計数整理をしたうえでないと、答えられない」と繰り返し、回答を拒んだことだ。
 村上ファンドからは少なくとも四半期ごとに運用成績の通知がきていることが明らかになっており、総裁が答えなかったのは、何か都合の悪いことがあったとしか考えられない。百歩譲って、参議院のときには本当に資料の準備ができていなかったとしても、翌日の衆議院での質疑のときには、資料を用意できたはずだ。それをしないというのは、やはり相当な「作業」をしないと、表に数字を出せないと言うことなのではないだろうか。ただし、いくら儲けているかというのは、すでに明らかな話だ。村上ファンドは20%以上の利回りを誇ってきたのだから、99年に資金拠出してから7年間で1400万円は利益が出ているはずだ。実際には複利で運用されているのだから、利益はもっと大きいと思われる。
 第三は、なぜ2月に解約したのかということだ。福井総裁は「村上代表の当初の志が変化したと感じた」からだとしているが、村上ファンドのビジネスモデルは当初から一貫している。今年2月になって急に変わったわけではない。これはあくまでも推測だが、2月になって突然解約を申し入れた理由は、いくつかの可能性が考えられる。1つは、村上容疑者逮捕の情報を何らかのルートで事前に察知したということだ。しかし、そうだとしたら、インサイダー取引と非難されても仕方がない。2つは、3月9日に量的金融緩和の解除をする意向を固めたことにより、株価が下がるのを予測して解約をしたということだ。量的金融緩和は、金融引き締めだから、株価の下落は当然予測できる。しかし、これも当然インサイダーだ。3つは、これは可能性としては非常に小さいと思うが、福井総裁が解約したのは2月ではなく、参議院で質問があることが分かってからだというものだ。ただ、解約日を2月にさかのぼってもらうという依頼を村上ファンドにしたとすれば、運用益をすぐには公表できなかったということも説明がつく。
 第4の問題は、福井総裁が総裁就任前には、村上ファンドのアドバイザリーボードのメンバーを務めていたことだ。当時の村上ファンドのパンフレットには福井氏の名前が記されており、村上ファンドの広告塔となっていた。しかも、総裁就任後にも資金拠出をしていたことで、村上ファンドが資金を募集する際に「日銀総裁も資金を出していますよ」という営業トークを使った可能性は否定できないだろう。
 第5は、現実問題として福井総裁が株式市場に大きなマイナスの影響を与えてしまったことだ。福井総裁の村上ファンドへの資金拠出が明らかになった6月13日の日経平均株価は、同時多発テロ直後の暴落に次ぐ614円安という大幅安となった。欧米や経済新興国の株安が背景にあるから、すべてが福井総裁の責任とは言えないが、市場に福井ショックが走ったことは間違いない。
 また、福井総裁の行動に問題があっても、本業でしっかりとした業績をあげているのであれば許されるという考え方もありうるかもしれない。しかし、この3ヶ月ほど、日銀の金融政策もまた、適切とは言いがたいのだ。
 ここ数ヶ月の株価下落は、米国株の下落に連動したものだと言われるが、米国株が5月10日の今年最高値から6月12日までで7%下落したのに過ぎないのに対して、日本株は4月7日の今年最高値から6月13日までで19%も下落している。米国株の3倍近い下落率をもたらした最大の原因は、日銀による急速な金融引き締めだ。3月9日の量的金融緩和の解除以降、日銀は当座預金残高を急速に絞ってきた。その結果、マネタリーベース(現金+日銀当座預金)も減少し、5月には前年同月比で15%の減少と、過去一度も経験のない急激な引き締めとなっているのだ。
 つまり、6月13日の株安は、日銀の金融引き締めで、株価が下落基調にあったところに、福井総裁の村上ファンドへの資金拠出問題が重なって生じたと考えられるのだ。言ってみれば、「ダブル福井ショック」で株価が下落したことになる。金融政策のトップとして、この責任は重大だろう。
 ここまで書けば、十分かもしれないが、私が福井総裁が辞任すべきだと考える最大の理由は、福井総裁が海賊型資本主義の信奉者であることが今回明らかになったことだ。
 福井総裁は、2月になって村上良彰容疑者の志に疑問を抱いたと言ったが、逆に言えば、2月まではその姿勢を評価していたことになる。村上ファンドがニッポン放送株を買い占めたときも、福井総裁がファンだと公言する阪神タイガースの親会社、阪神電鉄株を買い占めた時も、福井総裁はそれを支持していたことになるのだ。
 福井総裁は、村上ファンドの顧問をしていただけでなく、総裁就任前にはゴールドマンサックスの顧問も務めた。さらに、日本振興銀行の木村剛会長とも懇意にしている。「株主価値の向上」を旗印に、「会社は株主のもの」という誤った風潮を作り上げることに福井総裁は深く関与してきたのだ。
 格差社会の原因を作った海賊型資本主義に、間接的であるにせよ、お墨付きを与えてきたことの責任は大きい。その福井俊彦氏を日銀総裁に任命した小泉総理の責任はもっと大きい。
 繰り返す。福井俊彦日銀総裁は、即刻辞任し、小泉首相とともに表舞台から姿を消すすべきだ。
goo | コメント ( 75 ) | トラックバック ( 0 )

経済社会問題 #30

2006年06月17日 | 経済問題
私はニッポン放送の携帯情報サイトで、その週に起こったことを中心にコラムを書いています。一週間遅れで、その記事を公開しています。世の中の流れが速いので、だいぶずれてしまうこともありますが、ご容赦ください。なお、最新版は携帯電話からニッポン放送のサイトに行ってください(こちらは有料です)。

※この記事は6月4日に書いたものです。2週間で、ずいぶん事態は変わってしまいましたが、そのまま掲載します。

村上ファンドは何をしたのか
 東京地検は、村上ファンド代表の村上良彰氏から任意で事情を聞き、6月5日の週にも村上ファンドに強制捜査に入ることとなった。昨年2月8日に東京証券取引所の時間外取引でライブドアがニッポン放送の発行済み株式の30%を取得した際に、村上ファンドがその情報を事前に入手したうえで、ニッポン放送株の買い占めていた容疑だという。証券取引法は166条で上場企業の5%以上の株式を買い集める行為を「TOBに準じる行為」と定めており、事前にその情報を知った者に対して株式の取得を禁じている。東京地検は逮捕したライブドア幹部の証言から、村上ファンドにライブドアのニッポン放送株取得の情報が伝わっていたとみているようだ。
 東京地検が描く事件の構図は、ライブドアがニッポン放送株の経営権取得を計画し、それを知った村上ファンドが事前にニッポン放送株を買い占めて、ライブドアが買収方針を公表した後に売り抜けて利益をあげたというものだ。しかし、この構図には、どう考えても無理がある。
 2月8日にライブドアがニッポン放送株を大量取得した際に堀江社長(当時)は、「リーマンブラザーズから800億円の資金調達をしたタイミングで、たまたま時間外市場に大量のニッポン放送株が売りに出ていたから、それを買っただけだ」と強弁した。しかし、常識的に考えて、そんなことがあるはずがない。ライブドアが取得したニッポン放送株は、村上ファンドが事前に買い集めていた株である可能性が極めて高い。それは村上ファンドのニッポン放送株の取得経緯からも推察される。
 村上ファンドは03年6月以降ニッポン放送株を買い集め、2004年2月に保有株式は350万余株となり、保有株が発行済み株式に占める割合は10%を超えた。村上氏はニッポン放送に対して株主価値を高めるための急激な経営改革を求めたが、ニッポン放送ののらりくらりとした対応に交渉は膠着状態に陥っていた。
 そのため、2004年3月以降は村上ファンドは小口の買収にとどめ、再びニッポン放送株を買収を本格的に開始したのは、10月20日に、25万余株を買い増したときだった。その後村上ファンドは激しくニッポン放送株を買い集め、一連の買い付けは05年1月までの約2カ月半に計32回、209万1680株に及んだ。この結果、05年1月には保有株は609万余株、保有割合は18.57%にまで高まった。
 つまり、2004年10月末ごろ、村上氏はニッポン放送株の売り先をみつけたのだと推定できるのだ。もちろん、その売り先は当時破竹の勢いだったライブドアだ。
 また、この時期、2004年12月3日にホリエモンは私のニッポン放送のラジオ番組(朝はモリタクもりだくSUN)に出演したあと、ニッポン放送の本社ビルを細かく見学して回っている。おそらくニッポン放送を「内偵」していたのだろう。
 だから、そもそもライブドアによるニッポン放送株買収事件は、村上ファンドが仕掛けたのではないかと私は思っている。投資ファンドにとって最大の課題は、取得した株式をいかに売り抜けるかということだ。昨年2月8日の大量取得も、村上ファンドがライブドアと事前に了解にもとづいて時間外市場に自社保有のニッポン放送株を売りに出したと仮定すると、すべてのことが、矛盾なく説明できるのだ。
 だから、検察は、まず2月8日にライブドアに大量の株を売ったのが誰なのかを優先して調べるべきだと思う。もしライブドアと村上ファンドの間に事前の共謀があれば、3分の1超の株式を取得するときにはTOBによらなければならないとする証券取引法27条2号に違反するため、ライブドアによるニッポン放送株の大量取得そのものが違法だったことになる。そうなったとき、初めてこの事件の本質が明らかになる。それは、ライブドアのニッポン放送株取得が国会で採り上げられたとき、いち早く「違法とは言えない」と表明した金融庁の判断が果たして正しかったのかということだ。
goo | コメント ( 12 ) | トラックバック ( 0 )

経済社会問題 #29

2006年06月04日 | 経済問題
私はニッポン放送の携帯情報サイトで、その週に起こったことを中心にコラムを書いています。一週間遅れで、その記事を公開しています。世の中の流れが速いので、だいぶずれてしまうこともありますが、ご容赦ください。なお、最新版は携帯電話からニッポン放送のサイトに行ってください(こちらは有料です)。

同じことをしているのに
 金融庁が4月15日に消費者金融のアイフルに対して5月8日から3日間、全支店の業務停止命令を出した。大手の消費者金融業者が全支店への業務停止命令を受けたのは初めてのケースだ。法律で定められた時間以外の取立てや勤務先への強引な取立てなどが、処分の理由だった。
 また、5月10日には、カネボウの粉飾決算事件で、監査内容の審査体制に重大な不備があったとして、金融庁が中央青山監査法人に業務停止命令を出した。7月~8月の2か月間、上場企業などに対する法定監査業務をすべて停止するという厳しい処分だった。上場会社の法定監査だけで2300社も請け負う四大監査法人の一角が、こうした大規模な処分を受けるのは、もちろん初めての事態だ。
 過去に例のない厳しい処分に金融庁が踏み切ったことは、今後金融庁が断固たる姿勢で金融行政に臨む姿勢を表しているのだと思われる。もちろん、暴力的な取り立てもいけないし、粉飾決算もいけない。しかし、私が腑に落ちないのは、同じようなことを、金融庁自身もしてきたではないかということだ。
 典型は2003年秋から行ったUFJ銀行への特別検査だ。以前にも書いたが、もう一度振り返っておこう。
 銀行の不良債権のうち、完全に焦げ付いたのでもないし、正常でもないグレーゾーンの債権を要管理債権と言う。(正確には、要注意先に対する債権のうち3ヶ月以上延滞している債権及び貸出条件を緩和した債権)。この要管理債権に対する引当率(担保・保証等を加えた保全率)をみると、興味深い事実が明らかになる。
 UFJ銀行の03年9月期の引当率は、29.2%だった。他のメガバンクは、東京三菱が30.6%、三井住友が30.5%、みずほが35.2%と、メガバンクは共通して3割前後の引当金を積んでいた。要管理債権は3割程度が焦げ付くので、その分を引当金で手当てしておくというのが「常識」だったのだ。
ところが、03年秋、UFJ銀行に金融庁が特別検査に入った。その際、UFJ銀行が融資先の資料を隠して金融庁の検査を妨害するという検査忌避事件が発生した。その特別検査後の04年3月期には、UFJの」引当率は51.4%となり、04年9月期には54.9%まで高まった。それは、要管理債権の55%が返ってこないと見込んだ決算をしたということだ。もちろん形式的には、その引当金はUFJ銀行が自主的に積んだことになっている。しかし、そうした膨大な引当金を積ませたのは、明らかに金融庁からの圧力だった。そのやり方は、アイフルの強引な「取立て」と本質は同じだ。
 常識的で考えれば、グレーゾーンの融資の過半が返ってこないという事態が、銀行融資で起こることはあり得ないだろう。その証拠に、前期までと同じベースの資料が公表されていないのであくまでも推定だが、金融庁の圧力がなくなった05年9月期の中間決算では、UFJ銀行の要管理債権に対する引当率は36%前後にまで下がっている。要管理債権に対する引当率が普通の状態に戻ったのだ。このことは、金融庁がUFJ銀行に過大な引当金を積ませてきた可能性を強く示唆していると考えてよいだろう。
 05年9月期の中間決算で、三菱UFJの最終利益は7118億円と、トヨタを抜いて日本一になった。好決算の原動力になったのは、UFJホールディングスが4110億円もの最終利益をあげたことだ。しかもUFJは、不良債権処理費用が3164億円ものマイナスになっている。積み過ぎていた引当金が繰り戻されたのだ。これは、金融庁による「粉飾決算」なのではないか。
 UFJ銀行が厳しい決算に追い込まれたことによって、UFJホールディングスの株式を持っていた個人投資家は、安値で狼狽売りをした。それを拾っていったのは、外資や日本の金持ちだった。多くの個人投資家は、決算を信じてUFJ株を売り、そして頬損をした。それなのに、当時の金融庁の検査の誤りを指摘する人は誰もいない。お上は何をやっても、責任を問われることはないのだ。
 ちなみに、個人が人殺しをすると殺人罪で逮捕され、場合によっては死刑になる。ところが、国家が戦争という形で人殺しをすると、罪に問われないし、場合によっては、実行犯が英雄になることもある。
 厳しい不良債権処理を断行した金融庁も、一般の評価では、英雄扱いになっているのだ。



goo | コメント ( 22 ) | トラックバック ( 0 )

経済社会問題#28

2006年05月28日 | 経済問題
私はニッポン放送の携帯情報サイトで、2週ごとにその週に起こったことを中心にコラムを書いています。二週間遅れで、その記事を公開しています。世の中の流れが速いので、だいぶずれてしまうこともありますが、ご容赦ください。なお、最新版は携帯電話からニッポン放送のサイトに行ってください(こちらは有料です)。

正体を現した村上ファンド
 5月2日に 阪神電鉄の46%を保有する筆頭株主の村上ファンドが、阪神電鉄に対して、取締役会の過半数となる9人を取締役を村上ファンド側から選任するよう求める株主提案を提出した。
 これまで村上ファンドは阪神電鉄株の保有に関して「純投資」であることを主張し、阪神電鉄の企業価値を高めるための協議を阪神電鉄としてきたが、過半数の取締役を送り込むということは、その方針が大きく転換されたか、そもそも嘘だったことになる。
 阪神電鉄は「経営支配目的の大株主に転じたと思わざるを得ない」とし、「経営方針とは相容れない」と拒否の姿勢を明確にした。
 しかし、村上ファンドの要求は、かなり高い確率で単なる脅しだろう。村上ファンドは投資ファンドであり、阪神電鉄を経営して利益を獲得するような悠長なことはしていられないからだ。村上ファンドが出資者に示している目標利回りは年間30%と言われる。阪神電鉄の経営をして、そんな利回りが得られるはずがないのだ。
 阪神電鉄の株主総会は6月29日の予定で、その2週間前に招集通知が送られる。そのため、印刷・発送の作業まで考えると、招集通知に村上ファンドの株主提案が記載されるのを避けるためには、6月初めまでに村上ファンドの株主提案を取り下げてもらわなければならない。
 村上ファンドの本音は、そうした「期限」を設定することによって、阪神電鉄に株式公開買付(TOB)をかけて経営統合を目指している阪急ホールディングスが、村上ファンドから高値で阪神電鉄株を取得することに早期合意するように追い込むことだろう。阪急は、村上ファンドとの価格交渉を時間をかけて慎重に進めている。しかし、それは村上ファンドにとっては、耐えられない苦痛なのだ。交渉時間が長引けば長引くほど、利回りが低下してしまうからだ。
 しかし、その牛歩作戦こそが、ライブドアによるニッポン放送買収事件から学んだ敵対的買収に対する最良の対抗策なのだ。
 村上ファンドが阪神電鉄株の買収に使った資金は1230億円前後で、平均取得価格は640円前後とみられる。これを900円で売却できれば、村上ファンドには357億円の利益がもたらされることになる。投資額に対する単純利回りは29%だ。ただ、村上ファンドが阪神株を取得してから平均では1年経過していないから、実質的な利回りはもっと高いだろう。だから、仮に900円で阪神電鉄株の売却交渉が合意しても、村上ファンドは30%の運用利回りの目標を達成してしまうのだ。だから、阪急は絶対に800円台以下での合意をしなければならない。
 発行済み株式の半数近くまで買い占めた以上、村上ファンドはそう簡単に株式を処分できない。一気に処分すれば株価が暴落してしまうからだ。しかも村上ファンドは投資家からの圧力があるから、長期戦に耐えられないのだ。
 阪神電鉄の株主総会招集通知に村上ファンドの株主提案が記載されても構わない。少なくとも株主総会までに株式を取得を決めれば、提案は可決されないからだ。
  ちなみに5月6日に、村上ファンドが今年3月末時点でTBSの発行済み株式総数の4%超を保有する大株主になっていたことが明らかになった。村上ファンドは昨年9月末にTBS株の7.45%を保有していたが、楽天に譲渡することで、一度はほとんどの株式を手放していた。もし、阪急が900円以上の株価で阪神株を引き取ることになれば、村上ファンドへの投資家からの信頼は継続し、それは解放された投資資金がこうした第二の阪神株に向けて走り出すことを意味する。私は、阪急にはそれを避ける義務があるのだと思う。
 村上ファンドが阪神電鉄株を取得した時に、村上ファンドによる経営と阪神タイガース株の上場はファンのためにもなると主張する評論家がたくさんいた。村上氏は、阪神の救世主になるという主張さえみられた。しかし、今回の株主提案で、村上ファンドが株式を買い集めて高値で引き取らせることを目的にした「グリーンメーラー」に過ぎないことは、十分明らかになっただろう。
 村上ファンドが恐れる事態は、阪神・阪急連合軍が時間稼ぎに出ることと同時に、世間から非難の目でみられることだ。自分たちの活動が反社会的と世間から評定されれば、投資家からお金を集めにくくなるだけでなく、法律スレスレの活動に対して、いつ検察が動き出すか分からないからだ。
 阪神電鉄や阪急ホールディングスが徹底抗戦して、それを世論が支持する。それが、マネーの暴走から日本の企業を守る最良の方法なのだと私は思う。

goo | コメント ( 21 ) | トラックバック ( 0 )

経済社会問題 #27

2006年05月07日 | 経済問題
私はニッポン放送の携帯情報サイトで、毎週その週に起こったことを中心にコラムを書いています。一週間遅れで、その記事を公開しています。世の中の流れが速いので、だいぶずれてしまうこともありますが、ご容赦ください。なお、最新版は携帯電話からニッポン放送のサイトに行ってください(こちらは有料です)。

順調な景気回復は続くのか
 IMF(国際通貨基金)は、毎年、春と秋に世界経済見通しを発表しているが、今月19日に今春分の世界経済見通しを発表した。それによると、今年の世界全体の経済成長率見通しは4.9%と、昨年9月発表の4.3%から0.6ポイント上方修正された。これは、先進国の成長が堅調であるうえに、中国、インド、ロシアといった新興国の成長率が非常に高いためだ。また、日本の実質成長率も2.8%と、昨年秋の見通し(2.0%)から大幅に上方修正された。
 ただ、IMFは今後世界経済が抱えるリスクとして、原油価格の高騰と長期金利の上昇を指摘し、特に原油価格に関しては、今年半ばまでに1バレル=80ドルを超える可能性があるとの懸念を示した。
 実際、4月21日のニューヨーク原油先物市場では、テキサス産軽質油(WTI)の6月渡し価格が、一時、1バレル=75.35ドルとなり、83年の取引開始以来、最高値を更新している。先進国の景気拡大や中国の急速な経済成長という需要拡大要因に加えて、イランの核開発問題やナイジェリアの政情不安などで石油の供給体制にも不安が広がっているからだ。
特に、イランのアフマディネジャド大統領が、4月11日に原発用核燃料にもなる低濃縮ウラン製造に成功したと述べたことで、イラン国内にナタンツの濃縮施設とは別のウラン濃縮施設が存在する可能性が浮上している。これに対して、ライス米国務長官は4月19日の外交問題評議会で、「イランの核兵器開発を阻止するため、政治、経済など様々な手段を講じる」と発言している
アメリカがイランに対して取りうる手段は、①圧力をかけながら対話を進める方法と②軍事攻撃を仕掛ける方法に大別される。もちろん、例えばイラン沿岸に米海軍を展開して経済封鎖を行うということも可能だが、イランは沿岸部でミサイル発射の軍事訓練を行っており、もし米軍が沿岸封鎖をすれば戦争につながってしまうだろう。
昨年、日本は原油の90.2%を中東から輸入した。そのうち、13.8%がイランからの輸入だ。それだけではない。もしアメリカとイランが全面対立すれば、日本はアメリカを取るかイランを取るのかという選択を迫られることになるだろう。日本は大金を投じてアザデガン油田の開発権益を獲得した。だが、もし日本がアメリカにつくことになったら、当然この権益も失うことになってしまうだろう。
問題は、アメリカがイランに攻撃をしかけるようなことがあるかどうかだ。もしそうなれば、原油価格は1バレル=100ドルを超え、世界経済が失速するほどの悪影響がでるだろう。当然、アメリカも巻き込まれるから、イラン攻撃は現実的な政策ではない。しかし、何人かの専門家に話を聞くと、アメリカがイランの核施設を破壊するような攻撃を行う可能性は、「ブッシュ大統領の場合は、否定できない」ということだった。他の大統領なら絶対やらないことでも、ブッシュ大統領はやりかねないのだ。世界経済の命運はブッシュ大統領の気分にかかっていると言っても過言ではないのかもしれない。
 そして、IMFが掲げたもう一つの懸念材料は、金利の上昇だ。IMFは、日本の物価見通しについて、今年の消費者物価が0.3%、来年は0.6%上昇と、日本のデフレ終結を予測する一方で、同時に、「IMFスタッフの過去の予測実績を基にすると、今年の消費者物価上昇率がマイナスになる可能性はいまだ3分の1程度あり、デフレから完全に脱却したと結論づけるのは時期尚早。金融政策は当面極めて緩和的な運営が期待される」と、日銀による早期のゼロ金利解除を牽制した。
 原油価格が高くなっても、航空運賃や電力料金、プラスティックなどの大企業型製品は値上げが行われているが、トラック運賃、タクシー料金、クリーニング代、公衆浴場料金などの中小企業型の物価は一切上がっていない。また、日銀が4月17日に発表した2005年度の製造業部門別投入・産出物価指数でみても、交易条件指数は前年度比3.8ポイント減の92.4となっていて、下げ幅、指数ともに90年度以降で最低を記録しているのだ。製造業全体としてみても、原油価格の上昇を製品価格にほとんど転嫁できていないことが統計にも表れている。こうした状況で金利引き上げを行えば、中小企業の経営がめちゃくちゃになってしまうのは明かだろう。
 ブッシュ大統領と日銀の福井俊彦総裁、この2人が暴走をしないということが、日本と世界の景気が持続する条件になっているのだ。
goo | コメント ( 221 ) | トラックバック ( 0 )

経済社会問題 #26

2006年04月23日 | 経済問題
私はニッポン放送の携帯情報サイトで、毎週その週に起こったことを中心にコラムを書いています。一週間遅れで、その記事を公開しています。世の中の流れが速いので、だいぶずれてしまうこともありますが、ご容赦ください。なお、最新版は携帯電話からニッポン放送のサイトに行ってください(こちらは有料です)。

四重に都合のよい国内発展途上国
 26歳未満の若者を理由を明示せずに解雇できるようにすることによって、企業が気軽に若者を採用できるようにしようとフランス政府が導入を決めたCPE(初回雇用契約)。それに反対するフランスのストライキやデモが、国民行動デーに指定された4月4日に再び大規模に展開され、警察発表で94万人のフランス国民が参加した。主催者側は前回3月28日に行われた時の300万人を超える参加者があったとしている。
 このデモは、もともと昨年10月から11月にあった移民系の若者の暴動に端を発している。フランスでは、北アフリカを中心とした地域からの移民の2世が厳しい雇用状態に置かれてきた。フランスの若者の失業率は2割だが、移民系の若者の失業率は4割にも達しているのだ。いくら努力しても、まともな仕事にありつけない彼らの不満が暴動を引き起こしたのだ。
 しかし、3月以降の国民行動は、そうした移民系の若者だけでなく、老若男女のフランス国民を巻き込む形で広がった。デモの参加者の大部分は普通のフランス国民だったのだ。それは一体何故なのか。
 今回のCPEを含む「機会均等法」は、若者向け雇用政策の変更にとどまらない。一度正社員として雇用すると、ほとんど解雇することができないフランスの雇用制度に風穴を開け、米英型の雇用制度に転換していく「改革」の第一歩なのた。フランス国民は、それが分かっているから、強硬に反対しているのだ。
 経済が低成長に陥り、雇用が過剰になったとき、それを調整する方法は大きく分けて二つある。ひとつは労働時間を削り、賃金を減らすことで雇用を分かち合う「ワークシェアリング」の方法で、もう一つは過剰になった労働者を解雇する方法だ。前者は大陸ヨーロッパで、後者はアメリカで採用されてきた方法だ。
 もちろん大陸ヨーロッパでも、解雇型の雇用調整は事実上行われてきた。それが、移民系の労働者だった。正社員として就職することが困難な彼らは、景気が悪くなると真っ先に職を失った。企業からみれば生産量変動にあわせて調整することができるクッションの役割を果たしてきたのだ。しかし、欧州経済の不振に伴う労働需要の減少は、移民系労働者だけの調整では追いつかなくなった。CPEは、移民系でないフランスの若者も同じ立場に置くことを目的にしているのだ。
 実は、そうしたことには手本がある。アメリカ企業で広く採用されているシニョリティ・システム(先任権制度)だ。アメリカの企業には、景気が悪くなって雇用調整が必要になった時に、勤続年数の少ない従業員からレイオフ(一時解雇)をする雇用ルールがある。一見、アメリカの雇用システムは公正な自由競争にみえるが、そうではない。力の強い者が既得権を握り、「自由競争」の敗者と宿命づけられているのは、立場の弱い若者なのだ。
 フランスはいま、その既得権型雇用システムへの転換を迫られている。企業が雇用調整を進めることなしに、グローバル競争を生き残っては行けないと言うのだ。しかし、私はフランス政府の本音は、若者層のなかに政府にとって「都合のよい労働層」を作ることなのではないかと考えている。都合のよさは、四重の意味がある。
 第一は、フランスの一般国民がやりたがらないキツイ、キタナイ、キケンの3K労働の担い手だ。普通であれば、人の嫌がる仕事には高い賃金を払わなければならない。しかし、そうした職種にしか就けない労働者を作ることによって、低賃金で使うことができる。フランスが高度成長期に大量の移民労働者を受け入れたのは、それが分かっていたからだ。
 第二は、雇用の調整弁だ。景気が悪くなった時に移民と若者を斬り捨てることによって、中年以上の普通のフランス国民は、雇用を守ることができるのだ。
 第三は、都合のよい労働層を差別し、敵視させることによって、挙国体勢を作りあげることだ。「移民労働者のおかげで失業対策、社会保障対策に財政が苦しくなっている。彼らを追い出すべきだ」とフランスの極右政党は言っている。都合のよい労働層は本来雇用システムの犠牲者なのに、彼らへのイジメ抜くことによって、国がまとまるのだ。
 第四は、ひとたび戦争になったら、彼らが最前線に行かされるということだ。イラク戦争で前線に配置されている米軍最下層の兵士が得ている年収は200万円に満たない。それでも何故彼らが命をかけて戦地に赴くのかといえば、彼らの元々の年収が100万円程度にすぎないことが多いからだ。給料は倍増、大学にも通えるというのは、彼らにとって魅力的な条件なのだ。逆に言えば、命をかけなければ「都合のよい労働層」を脱出できないということだ。
 日本でも、若者の高失業と非正社員・低賃金化が進んでいる。雇用面のアメリカ化は確実に進展しているのだ。しかし、日本ではフランスのようにストもデモも起こっていない。深刻なのは日本の方かもしれない。
goo | コメント ( 230 ) | トラックバック ( 0 )

経済社会問題 #22

2006年03月12日 | 経済問題
私はニッポン放送の携帯情報サイトで、毎週その週に起こったことを中心にコラムを書いています。一週間遅れで、その記事を公開しています。世の中の流れが速いので、だいぶずれてしまうこともありますが、ご容赦ください。なお、最新版は携帯電話からニッポン放送のサイトに行ってください(こちらは有料です)。

永田議員を陥れたのは誰か
 党員資格を停止され、3月2日に二度目の記者会見に臨んだ永田寿康代議士は、予算委員会で追及した送金指示メールが完全な偽物だったことを認め、全面降伏する形となった。また民主党も自民党からの質問状に、完全に落ち度を認める回答を出すことになり、懲罰委員会に一任された永田代議士への懲罰動議も、どうやら除名ではなく、温情溢れる処分で終わりそうだ。結局、2週間にわたって国会を混乱させたメール問題は、自民党の完全勝利という形で決着が図られたわけだが、私は幕引をする前にどうしても明らかにしなければならないことがあると思う。それは、もしメールが偽物であるとするのであれば、このメールを永田代議士に持ち込んだとされる仲介者N氏は、何の目的でそれをしたのかということだ。(本人が関与を否定しているので、週刊誌には名前が出ているが、ここでは念のために頭文字だけにする)。
 一つの説は、N氏の金儲けだという説だ。永田代議士はきっぱりと否定しているが、民主党の国会対策費から、あるいは永田代議士がN氏にカネが支払われたのではないかという観測があるのだ。しかし、この説はよく考えるとおかしい。なぜなら、情報がウソだとバレたときのN氏の被害があまりに大きいからだ。現に、N氏の起こした出版社は、いまやマスコミの取材攻勢にさらされて、仕事にならない状態だそうだ。
 もう一つの説は、もともとこの送金指示メールは永田代議士と民主党を陥れるために作られたというものではないのかという説だ。私はその可能性は捨てきれないと考えている。
 実は私の手元に一冊の雑誌がある。「D」という雑誌で、N氏が発行人になっている。手許にあるのは創刊第2号の11月号だ。1500円という定価がつけられているが、富裕層向けに無料で配布されている雑誌だそうだ。この雑誌の表紙が実は永田寿康議員なのだ。しかも、なかを見ると、他の民主党の代議士も登場していて、さながら「民主党特集」なのだ。しかし、これはどう考えてもおかしい。例えば、財界の大物や自民党幹部が出るなら分かる。しかし、富裕層向けに民主党特集はないだろう。
 もしかすると、この雑誌そのものが永田議員や民主党を陥れるためのデッチあげだった可能性さえあるのではないだろうか。
 いずれにせよ、真実はN氏がすべて知っているはずだ。N氏は国民の前で堂々と真実を述べればよい。いや、国会をこれだけ混乱に陥れたのだから、N氏は国会で証言する義務があると私は思う。
 参考人招致でも証人喚問でもして、国会は真実を明らかにすべきだ。それまでに中途半端な幕引きをすべきではない。

(この記事は3月5日に書いたものです)。
goo | コメント ( 24 ) | トラックバック ( 0 )

経済社会問題#21

2006年03月05日 | 経済問題
私はニッポン放送の携帯情報サイトで、毎週その週に起こったことを中心にコラムを書いています。一週間遅れで、その記事を公開しています。世の中の流れが速いので、だいぶずれてしまうこともありますが、ご容赦ください。なお、最新版は携帯電話からニッポン放送のサイトに行ってください(こちらは有料です)。

民主党はどこで失敗したのか
 武部幹事長の二男にコンサルティング費用として3000万円を振り込むよう堀江貴文被告が指示したとするメールを、永田寿康衆議院議員が予算委員会で追求した問題で、2月23日、永田議員が執行部に議員辞職をする意向を明らかにした。鳩山幹事長などのとりなしで、とりあえず進退は休養後に判断することになったが、あれほど疑惑の根拠に自信があると言っていた永田議員が、二度目の質問の後、公の前に姿をみせなくなり、そして議員辞職の意向まで伝えたということは、一体何を意味するのだろうか。
実は、不思議なことは、その前日の22日、民主党前原代表と小泉総理の党首討論の場で起こっていた。党首討論の直前、国民の関心は堀江社長のメールが本物であるという新たな証拠がでてくるのかということに集まっていた。もともと民主党が口火を切った問題であったし、前原代表が記者たちに「楽しみにしてくださいよ」自信をのぞかせていたからだった。
 ところが、実際に党首討論が始まってみると、目立ったのは小泉総理の温和な語り口だった。民主党に対して、共に改革を目指す仲間だという趣旨の発言を繰り返したのだ。
 しかも、前原代表が堀江被告のメール問題を切り出したのは、45分の討論時間の残り時間が10分を切ったときだった。さらに、前原代表は小泉総理に対する最後の質問を延々と続け、結局総理の回答を引き出さないまま、時間切れを迎えてしまったのだ。
 言いっ放しでいい。深入りするのはやめよう。前原代表の態度は、私の目にはそうとしか映らなかった。
 ここから先は想像でしかない。ただ、民主党が迷走を始めた原因は、何らかの事情で、民主党の押さえていた口座に入金がないこと、あるいは口座そのものが存在しないことが分かってしまったからなのではないだろうか。もしそうだとしたら、深追いは民主党にとって致命的な打撃になる。前原代表も辞任しなければらならなくなるだろう。
 民主党としては、代表になったばかりの前原氏の辞任はどうしても避けたい。また、小泉総理にとっても、経済政策や防衛政策で考え方の近い前原代表にとどまってもらった方がやりやすい。さらに、厳しく追い詰めないでおけば、自民党は民主党に貸しを作ることもできる。そう考えると、いままでに起こったことがきれいに説明できるのだ。
 それでは何故、民主党が「メールが本物である可能性は高い」と言い続けたのか。私もメールが本物であった可能性はあると思う。武部幹事長の次男と堀江貴文被告に少なからぬ付き合いがあったことは、さまざまなメディアが伝えているから事実のようだ、だからメールが仮に本物であったとしても、口座に入金がない、あるいは口座がないというのが、少なくとも現在の「事実」になっているのだと思う。
 民主党は口惜しいと思う。だが、民主党にも落ち度はあった。永田議員は「お金で魂を売っているのはあなたじゃないですか」などと、自信過剰の質問をするべきではなかった。そっと「こういうメールがあるのですが、どうでしょうか」と下手に出ることが、できたはずなのだ。そうすれば、ここまで世間の非難を浴びることはなかっただろう。
 民主党はとりあえず、謝ってしまう方がよい。そして体勢を建て直して、再びライブドア問題を追及すべきなのだ。自民党が、ライブドアという金融資本主義の亡者を改革の旗手として支持したことが問題の本質なのだ。この問題から国民の目をそらせてはならない。
 金融資本主義の亡者はライブドア以外にもいる。彼らは、いまだに日本のまともな企業を蝕んでいる。それを一日も早く指摘し、彼らを追い詰めることこそ、私が民主党にいま一番期待する役割なのだ。
(この記事は2月26日に書いたものです)。
goo | コメント ( 42 ) | トラックバック ( 0 )

経済社会問題 #20

2006年02月27日 | 経済問題
私はニッポン放送の携帯情報サイトで、毎週その週に起こったことを中心にコラムを書いています。一週間遅れで、その記事を公開しています。世の中の流れが速いので、だいぶずれてしまうこともありますが、ご容赦ください。なお、最新版は携帯電話からニッポン放送のサイトに行ってください(こちらは有料です)。

竹中大臣を支持する

 私はことあるごとに、竹中大臣が進めてきた弱肉強食の経済政策を批判し続けてきた。しかし、いまのマクロ経済政策に関してだけは、全面的に竹中大臣の政策を支持する。
 きっかけは2月1日の経済財政諮問会議だった。この席で、竹中大臣は中長期的に4%程度の名目成長率が期待できると表明したが、民間議員の吉川洋東京大学教授が、それは高すぎると批判し、両者の間で激しい論戦が行われた。
実はこの2人の対立は、将来の経済成長率に対して強気か弱気かという対立ではない。政府・与党内に存在する根本的な経済政策の対立なのだ。
 竹中大臣と歩調を合わせるのは中川政調会長だ。2%の物価上昇率と2%の潜在成長率を合わせて4%の名目成長率を続けていけば、大きな増税をしなくても財政再建は可能と考えているのだ。
 一方、吉川教授と歩調を合わせるのは、谷垣財務大臣、与謝野経済財政担当大臣、そして日本銀行の福井俊彦総裁だ。物価上昇率を高めていくと、長期金利が上昇して利払いがかさみ、かえって財政を悪化させるから、財政再建は増税で行うべきだという主張だ。こちらは、実質1%台後半、名目3%台という財務省が見込んだ低めの成長率を支持している。
 つまり名目成長率でみると、竹中大臣の方が財務省よりも高い成長率を見込んでおり、その差の大部分が物価上昇率の見込みの差になっている。竹中大臣が2%の物価上昇を見込んでいるのに対して、財務省は1.5%程度の物価上昇率を見込んでいる。税収は名目GDPに比例するから、物価上昇率を高く見込んだ方が税収が増え、財政再建は容易になる。
 しかし両者の対立は単なる税収の見込みだけではない。財政再建の目標そのものが違うのだ。竹中大臣は、基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2010年代初頭に黒字化するという現在の政府目標にこだわっている。
基礎的財政収支というのは、借金のことはとりあえず忘れて、いま入ってくる税収等(歳入)と借金の元利払いを除く支出(歳出)のバランスだ。これが黒字なら、新たな借金を重ねる必要がなくなる。ただ、基礎的財政収支がゼロでも、既存の借金には金利がつくから、金利の分だけ借金の残高は増える。しかし、名目成長率が長期金利よりも高ければ、借金の対GDP比率が下がっていくから、財政がパンクすることはないのだ。
 一方、財務省は、これまで支持してきた竹中大臣の財政再建目標に異を唱え始めている。長期金利は名目成長率よりも高くなる可能性があるから、基礎的財政収支の黒字化だけでは不十分で、国の借金のGDP比そのものを目標にすべきだというのだ。長期金利が名目成長率よりも高いと、基礎的財政収支がバランスしていても、借金の対GDP比率は上昇してしまう。この財務省の立場を後押ししたのが吉川洋教授だ。アメリカでは名目成長率の方が高いと主張する竹中大臣に対して、吉川教授はこう反論した。「ご指摘の通り、アメリカだと成長率のほうが少し高くなる。しかしイギリスだと、逆に金利のほうが高くなる。多くの国で長い時系列をとると、国債市場で規制がきつい時期があった。規制金利でそれが低くなっていた時期がかなりある。そうした時期を参考にするのは適当でない」
 アメリカだけでなく、日本でも、これまで長期金利よりも名目成長率の方が高かった。つまり竹中大臣の主張する通りだったのだが、日本の貯蓄率は急速に下がってきており、竹中大臣と吉川教授のどちらが正しいかは、にわかには判断できない。
 ただ竹中大臣には秘策がある。それが日銀に金融緩和の継続を迫ることだ。経済財政諮問会議で竹中大臣は次のように言っている。「長期金利はマーケットで決まる。しかし、同時に中央銀行は、それに対して影響力を与える。金利はマーケットで決まると言ってしまえば、中央銀行の存在意義が問われてしまう」。
つまり、竹中大臣は日銀に長期間金融緩和を続けろと暗に要求しているのだ。金融緩和をすれば金利が上がらないから、国債の利払いは少なくて済む。しかも、金融緩和で高めの物価上昇率が実現すれば、税収も増えていくのだ。
 これは日銀にとって厳しい要求だ。金融緩和をいつまでも続けていると、一歩間違えれば、インフレに火がつく可能性がでてくるからだ。日銀としては、景気を犠牲にしてでも、物価を安全な低いところで抑えておきたいのだ。
そうした日銀の臆病さを取り除く方法として、竹中大臣は「インフレターゲット」の導入を考えている。インフレターゲットとは、例えば消費者物価上昇率に「1~3%」という目標を設定し、中央銀行にその範囲内の物価上昇率を実現する義務を課す。もし目標を達成できない場合には、中央銀行に何らかのペナルティが与えられる。
 昨年まで、日銀は「インフレターゲットは検討すべき選択肢の一つ」という立場だったが、最近はすっかり否定的だ。
 日銀はこの春にも量的金融緩和政策を解除する見込みだが、解除後の金融政策の目標について、福井俊彦総裁は、2月13日の衆院予算委員会の答弁で「政策の透明性のために日銀がどういったメッセージを出せるのか、さらに真剣に工夫を重ねていきたい」と語った。この答弁は、日銀が、インフレターゲットのような数値目標ではなく、定性的な「メッセージ」方式を採用する方針なのだと受け取られている。日銀は外から目標を決められて、その目標のために金融政策を採るのは嫌だと言っているのだ。
つまり「反竹中」という意味では財務省と日銀は同じ立場にいるが、自然増収ではなく増税をしたい財務省と「目標管理」をかたくなに拒否する日銀は同床異夢だ。だから、竹中大臣が望む政策を実現するためには、財務省と同時に日銀も説き伏せる必要がある。それは相当困難な作業だろう。
 しかし、それでも私は竹中政策の導入が必要だと思う。財務省と日銀は、財政再建のために消費税率を大幅に引き上げても消費は減退しないと考えているようだが、それは間違いだ。現在の貯蓄率低下は国民の消費マインドが改善したからではない。生活が苦しくなって貯蓄を取り崩す家庭が増えているからだ。その証拠に87年に4%だった貯蓄ゼロの世帯が、昨年は24%まで増えている。これ以上の大衆増税は消費減退を招くだけだ。竹中政策を採る以外に、日本経済の発展と財政再建を両立する手段はないと私は思う。
goo | コメント ( 68 ) | トラックバック ( 0 )

経済社会問題 #19

2006年02月19日 | 経済問題
私はニッポン放送の携帯情報サイトで、毎週その週に起こったことを中心にコラムを書いています。一週間遅れで、その記事を公開しています。世の中の流れが速いので、だいぶずれてしまうこともありますが、ご容赦ください。なお、最新版は携帯電話からニッポン放送のサイトに行ってください(こちらは有料です)。

四点セットの共通項
2月6日の日本経済新聞が報じた内閣支持率は、前回12月調査のときと比べて14ポイントも低下して45%となった。内閣の不支持率も9ポイント上昇して43%となり、支持率と不支持率がほぼ拮抗する形となっている。
昨年9月の解散総選挙で圧勝して以来、小泉内閣は支持率をさらに高めて、まさに順風満帆だった。そこに突然、逆風が吹き始めたのだ。もちろん、その理由は「四点セット」にある。①防衛施設庁の官製談合事件、②ライブドア事件、③米国産牛肉輸入問題、④耐震データ偽造問題の4点だ。今年に入って相次いで発覚したこれらの事件で、小泉内閣の進めてきた構造改革路線に疑問の声が上がるようになったのだ。
 小泉総理に同情的な声があるのは確かだ。防衛施設庁の官製談合は、小泉内閣の前からずっと続いてきた慣習だったし、ライブドア事件は、政府が起こしたものではない。ただ解散総選挙で無所属の堀江容疑者を武部幹事長や竹中大臣が応援しただけだ。米国産牛肉の問題はアメリカの輸出業者がルールを守らなかったのが原因で、日本側には落ち度はない。耐震データの偽造問題も、犯罪を行ったのはあくまでも姉歯元一級建築士などの民間側で、政府が事件に関与したわけではない。
しかし、この4つの事件は、冷静に考えると小泉内閣の基本政策を通じて、お互いに深いところでつながっている。それは「アメリカに全面服従して、新自由主義を急速に日本に取り入れたこと」が背景にあることだ。
まず、防衛施設庁の官製談合問題だが、防衛施設庁発注工事の大部分で、官製談合が組織的に繰り返されてきたことが明らかになった。そもそも、施設建設のためだけの官庁が存在すること自体が、小泉内閣の行政改革路線からすれば、おかしな話だった。それが、なぜ温存されてきたのかと言えば、アメリカの世界防衛戦略のなかに組み込まれた日本の防衛費が聖域になっていたからだろう。もし厚生労働省や経済産業省が「施設庁」を持っていたとしたら、真っ先に切り捨てられたはずだ。
 ライブドア事件も、本質は総選挙のときにホリエモンを応援したことではない。小泉内閣が掲げてきた新自由主義、すなわち法律に触れなければ金の力で何をやっても構わないとする思想を、実際のビジネス場面で最も強烈に実現したのがライブドアだったのだ。極論すれば、ライブドアこそ、小泉経済政策の申し子だったといってよいだろう。だから、昨年2月8日にニッポン放送株の3割をライブドアが東証の時間外取引で取得したときに、極めて違法の疑いが強かったにもかかわらず、金融庁は「合法」という判断を国会で示したのだ。
 輸入が再開された米国産牛肉に、特定危険部位である背骨が交じっていた事件は、アメリカが日本の消費者の健康のことなどかけらも考えていないということを明らかにした。アメリカは、日本政府がどれだけ苦労して輸入再開に漕ぎつけたのかを知っていたはずだ。にもかかわらず、食肉処理業者にまったくチェックの手が及んでいなかった。それだけ日本はバカにされていたことになる。
実際、アメリカの要人からは、日本人の神経を逆なでする発言が相次いだ。来日中のペン米農務省次官は1月24日に米国大使館で開いた記者会見で「車を運転してスーパーに行き事故に遭う確率の方が、牛肉を食べて病気にかかるよりも高い」と述べた。また、米下院農業委員会のグッドラッテ委員長は1月31日に「ブレーキ故障がいくつか見つかったからと、日本車の輸入を全面禁止するようなものだ」と日本の輸入禁止を批判した。日本人の繊細な感性などお構いなしで、アメリカ人が食べているものに対して属国の日本がガタガタ言うのはおかしいと言わんばかりなのだ。
耐震データ偽造事件も、民間検査機関による認証を可能にした建築基準法の規制緩和が、事件の原因の一つとなったことは間違いない。新自由主義が目指す「小さな政府」が犯罪の温床となったのだ。
こうした四点セットに加えて、現在国会でも問題になっている「格差拡大」も、新自由主義の政策がもたらしたものだ。規制を緩和して自由競争にすれば、格差が開くのは当たり前だからだ。
いま、日本の経済と社会は、アメリカに瓜二つになろうとしている。軍需産業が政府の庇護の下で多額の利益を得る一方で、普通の産業では弱肉強食の放任主義が採られる。そこには、儲け主義の生み出す様々な弊害が生ずる。
しかし、日本がアメリカになる選択するということは、そうした弊害には目をつぶって我慢することのできるアメリカ人並みの楽観性をみ身につけるべきということなのかもしれない。地震が来ても、マンションは倒れない。ずさんな検査の牛肉を食べてもBSEの被害を受ける可能性は小さい。そう信じることができるところまで日本国民が変わらなければ、アメリカの属国になることはできない。何しろアメリカには、いまだに牛の髄液を食べさせるレストランが存在するくらいなのだ。
goo | コメント ( 17 ) | トラックバック ( 0 )

経済社会問題 #18

2006年02月06日 | 経済問題
私はニッポン放送の携帯情報サイトで、毎週その週に起こったことを中心にコラムを書いています。一週間遅れで、その記事を公開しています。世の中の流れが速いので、だいぶずれてしまうこともありますが、ご容赦ください。なお、最新版は携帯電話からニッポン放送のサイトに行ってください(こちらは有料です)。

MHKにどこまで迫れるのか
 1月27日の日経平均株価は、ライブドアに強制捜査が入る直前の株価を上回った。日本の株式市場を全面安に追い込み、海外マーケットまで巻き込んだライブドアショックは、結局10日間で終息したことになる。
 株式市場が早期に復活した原因は、偽計取引等の証券取引法違反が、ライブドアとそのグループ企業だけの問題であり、一般企業へ広がる恐れはないと、市場が判断したからだろう。
しかし、これで一件落着したとは言えない。市場ではまだ「MHK」という言葉が囁かれているのだ。MHKとは、金融資本主義を高らかに掲げて、実際にその論理の下で活躍してきた3人、つまり、通称村上ファンドの村上世彰氏、堀江貴文容疑者、そして日本振興銀行会長の木村剛氏である。いずれも新興企業のリーダーであり、同時に新しい金融システム作り上げてきたプロフェッショナルだ。
彼らは、新自由主義的思想を国民に広める上で大きな役割を果たしてきた。しかし、いずれもほとんどゼロのところから大きなビジネスを立ち上げたため、何らかの問題のある取引をしているのではないかと、疑問の声が上がっているのだ。
 村上ファンドについては、詳しい情報がないので、ここでは取り上げないが、木村剛氏については、2006年1月30日付の朝日新聞が疑惑を報じている。
―――以下引用―――
日本振興銀行(本店・東京)の木村剛会長(43)の親族会社をめぐる融資問題で、昨年3月の融資の際、会社の代表者による個人保証や倒産の危険性の算出など社内規則に定めている審査の手続きが省かれていたことがわかった。審査の段階では、親族会社が直近の決算期で実質的に債務超過の状態と判断されていたことも判明。木村会長の両親が親族会社に増資したことで債務超過が解消されたと判断され、約1億7000万円の融資が実行された。一連の最終決裁は木村会長がしていた。(中略) 振興銀の内部資料や関係者によると、親族会社から融資の申し込みを受け付けたのは05年3月1日。その8日後に、金利3%、期間6カ月、使途は「運転資金」として1億7875万円の融資が実行された。(中略)問題の融資では、担保価値が低いとされる非上場の振興銀株約5500株が担保にされた。振興銀では設立時から非上場株を担保として認めてこなかったが、この融資の直前に自行株だけを認めるよう内規を変更していた。木村会長は竹中平蔵金融相(当時)の金融ブレーンとして02年10月から03年8月まで金融庁顧問を務め、02年10月に政府が発表した「金融再生プログラム」の作成に参加した。
―――以上引用―――
 この記事だけでは分かりにくいと思われるので、私が雑誌「Voice」に書いた昨年9月号の記事を以下に再掲しよう。
―――以下引用―――
経済誌が大きく取り上げているのに、新聞やテレビが無視し続けている重大な事件がある。日本振興銀行の問題だ。
 日本振興銀行は、04年4月に設立され、融資規模119億円の小さな銀行だが、会長を務める木村剛氏の理想を具現化するために設立された銀行として金融専門家たちから注目を集めてきた。
「大手30社問題」を提起して、世間の注目を集めた木村氏は、02年に竹中平蔵大臣が金融担当相を兼務した直後に、金融庁の顧問となり、大手銀行の不良債権比率半減を掲げた「金融再生プログラム」の策定に中心的な役割を果たした。木村氏の一貫した主張は、「大手銀行は不良債権を隠している可能性が高く、貸出資産の厳格な査定を行って、不良債権処理を進めさせるべき」というものだった。金融庁が大手銀行に対して厳しい検査を断行したのも、この木村理論の影響が大きかったものとみられる。
 日本振興銀行は、そんな木村氏の大手銀行批判をきっかけに生まれた。問題企業への融資で資金を塩漬けにし、中小企業への貸しはがしを行う大手銀行に代わって、中小企業への無担保融資を適切な金利で行う「ミドルリスク・ミドルリターン」の市場を開拓するというのが、木村氏の構想だった。そして、厳格な企業統治の下で透明な経営を行うという、いわば木村理論の理想を現実にするための銀行が日本振興銀行だったのだ。
 「理想」は思いのほか、早く実現した。03年8月20日に木村氏はノンバンク社長の落合伸治氏とともに日本振興銀行の構想を発表、同日、金融庁に予備免許を申請した。そして、翌04年4月13日に銀行業の免許が与えられた。8カ月足らずという異例のスピード認可だった。
 木村氏と日本振興銀行に関する疑惑を最初に報じたのは「週刊東洋経済」の05年6月11日号だった。同誌は三週続けて疑惑を特集したが、その間「日経ビジネス」も05年6月13日号で同じテーマの特集を組んだ。両誌が指摘した疑惑は、大きく3つにまとめられる。
 第一は、日本振興銀行が木村氏の身内企業に行った融資だ。同行は、木村氏の著作権等の管理を行うウッドビレッジに1億7875万円、木村氏が社長を務めていた金融コンサルティング会社KFiに3億9000万円の融資を行っていた。ウッドビレッジの株主は木村氏とその両親、KFiの株式の過半は木村氏が保有している完全な身内企業だ。しかも、平均10%以上という同行の貸出金利と比べて、両社への融資金利は3%という破格の安さだった。さらに、この融資の担保は振興銀行の株式だという。もちろん、振興銀行株の取得にこの融資が使われた証拠はない。だが、一般論として、銀行が自社株を担保に、自社株取得の資金を融資することは、許されるべきではない。そんなことを認めれば、銀行はいくらでも自己資本を増やせてしまうからだ。
 二つ目の疑惑は、木村氏の振興銀行株の保有比率だ。木村氏本人と木村氏が実質的に支配するとみられるKFiなど3社が保有する振興銀行株は、3月末で発行済み株式の20%を超えている。もし、これを一体とみなせば、木村氏は銀行法上の主要株主ということになる。主要株主には、有利な融資が禁じられるとともに、金融庁の事前認可が必要だが、その認可はなされていない。
 第三の疑惑は、創業メンバーの落合伸治氏が、経営するノンバンクのオレガを通じて、KFiに銀行免許取得のための助言を依頼し、その費用として1億円を支払ったという事実だ。当時、木村氏は金融庁の顧問をしていたのだから、銀行に免許を与える側の人間だ。落合氏も木村氏の金融庁に対する影響力を信じて1億円を支払ったのだから、一歩間違えば、木村氏は収賄に問われかねない危険な仕事を請け負っていたのだ。
 これだけ重大な疑惑が指摘されているにもかかわらず、検査に入らない金融庁もおかしいが、新聞やテレビこの問題を採り上げない理由は何なのか。私は、彼らが木村氏の理論に同調して不良債権問題を論じてしまったために、いまさら木村理論を否定できないためだと思う。
 実は、振興銀行には3つの疑惑以上に重大な問題がある。それは、今年3月期の決算で119億円とした融資残高のなかに、政府関連、大口融資、木村氏の身内企業向けの融資が、総融資の半分以上含まれているということだ。それらを除くと、昨年末から今年3月末にかけて、振興銀行の中小企業向け融資はほとんど増えていないと「週刊東洋経済」は指摘している。
 つまり、ミドルリスク・ミドルリターンの市場というのは、ほとんど存在しなかったというのが、振興銀行の実績が明らかにした事実なのではないだろうか。それは金融再生プログラムの理論的支柱の崩壊をも意味する重大な問題なのだ。
―――以上引用―――
 この文章をみていただくと、昨年すでに「日経ビジネス」や「週刊東洋経済」が指摘していた疑惑を朝日新聞が蒸し返していることがお分かりいただけると思う。
なぜ朝日新聞が半年も経って動き出したのかは不明だが、この問題は国会の場を含めて、ライブドア以上の熱意をもって解明すべきだろう。なぜなら、こちらの問題の方がはるかに政治家や政府の関与の可能性があるからだ。
goo | コメント ( 14 ) | トラックバック ( 0 )
« 前ページ