ほんものの味ですけん

　わし、スイーツ大好きじゃけん。
　そもそも、ワイフ様がアルコール飲めんけん、酒呑むより甘いもの食べる機会の方が多いけん。
　特に、色々趣向を凝らした、洋菓子には目がないけん。タルトにムースにスフレ、一口にケーキと言っても、その裾野は広くて、あらゆる素材があって、しかも次々新しいスイーツが出てくるけん、食べてく側もたいへんじゃけん。
　見た目もきれいじゃしのう。和菓子の趣ある美的感覚もいいけど、洋菓子の華やかさには心ひかれるけん。あんなゲイジツ作品を、よくもあれだけ量産できるもんじゃのう、と、いつも感心しとるけん。

　わしはのう、ザッハトルテのような、チョコレートをふんだんに使こうたビターなケーキが好きかのう。あの、表面の固くコートされた部分を、フォークでパキッと割る時は、まるでクレームブリュレを食べる時の「アメリ」のような幸福感があるけん。
　それに酸味の効いたフルーツを組み合わせたものは、もうたまらんのう。舌の上で、甘味と苦味と酸味が絶妙に混じりあうカンジは、他のスイーツじゃなかなかないけん。
　もちろん、クリームをたっぷり使った王道のショートケーキも好きだし、ミルフィーユのパキパキ感も好きじゃけん。ケーキはやっぱり見た目が派手な、ハッタリのきいたのが好きかのう。贅沢しとるカンジがするけん。

　ロールケーキって、あんまり食べんのう。クリスマスに買ってきて、ホイップしたチョコレートクリームで表面を被って、”ブッシュ・ド・ノエル”にするくらいかのう。わしとっては、ロールケーキは素材じゃけん。
　まず、存在が地味じゃけん。スポンジケーキをくるくる巻いただけで、華やかさがないしのう。スシ屋でいえば、カッパ巻きみたいなもんじゃけん。

　ところが、その考えを改めさせる、すんごいロールケーキに出くわしたけん。多摩センターにある、”グランクリュ”は、わざわざ都心から買いにくる芸能人もいると噂されとる店じゃけん。
　看板メニューの「純生ロール」は、一見何のヘンテツもないロールケーキじゃけどのう、口に入れた瞬間、舌の上でクリームが溶けて、スポンジに使われとるタマゴのコクと、バターの風味が広がるけん。甘味を抑えた、素材の味の効いたケーキじゃけん。
　何の飾り気もないロールケーキだけどのう、パティシエの美学を感じる逸品じゃけん。

　せっかくじゃけん、自分でホイップしたカプチーノと食べましたけん。こんな贅沢なデザートは久しぶりじゃのう。