書名とはちょっと異なり、内容はシミュレーションというより、地球シミュレーターの話が中心。それは本書の最後の方にある著書の言葉からもわかる。
本書を書くことを決心した背景には、日本が開発した世界に誇る地球シミュレータの存在と、今後の未来設計を支えるであろうシミュレーション技術の現状を、多くの方に知っていただきたいと考えたからである。(178ページ)
これまでの予測手法ではなく、これからは圧倒的なコンピュータ・パワーを利用して、シミュレーションすることで予測が可能になるというもの。それをある程度実現しているのが地球シミュレータであり、それがどのような貢献をしてきたかが述べられている。
書名から想像される内容とは僕が読んだ感想ではだいぶ異なる。ちなみに章立ては以下の通り。
- はじめに
- 第一章 一つの技術が人間の生き方を大きく変える
- 第二章 未来予測は「祈り」と「占い」から始まった
- 第三章 変わりゆく科学のパラダイム
- 第四章 近代科学の落としもの
- 第五章 コンピュータと情報産業
- 第六章 シミュレーション文化の胎動
- 第七章 未来を映し出す望遠鏡の世界
- 第八章 二十一世紀はシミュレーション文化の世紀
- 第九章 終章―未来への提言
地球シミュレータについて本格的に書かれるのは5章の後半ぐらいからで、その前はなくてもよいと思った。それよりは、ここに書かれているのは地球シミュレータについての一部分であろうから、地球シミュレータを中心にその周辺とシミュレーションについてその全体像を平易に描いた方がよかったのではないかと思う。
本書を読んでいると、その運営にかかわった者としての著者の地球シミュレータへの思いと科学者としての地球シミュレータないしシミュレーション技術そのものに対する期待が入り混じっており、その思いが伝わってくる。
だから読み終わった後の感想は、「書名は、『地球シミュレータ:未来を予測する技術』がよかったな」というもの。「内容については、地球シミュレータについてもう少し突っ込んで知りたかった」ということ。
本書を読んで考えたのは、シミュレーションのことではなかった・・・それは自分の考えを十分に書き込み、かつ、その内容が読者に伝わるように書名を決めるのは大変だということだ・・・まあ、これは本来編集者の力量が問われるところで、書き手だけでできるというものではない。