MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#1974 ポスト・コロナとアニマル・スピリット

2021年09月23日 | 社会・経済


 最近、経済誌などに頻出するようになった「アニマル・スピリット(animal spirits)」という言葉。最近では、挑戦することを躊躇う経営者などに対し、「アニマル・スピリットが足りない」などと批判するようなワーディングの中で使われるケースが多いようです。

 「野生で生き抜く果敢さ」とでもいうのでしょうか。正に「言い得て妙」だなと思っていましたが、実はこの言葉、マクロ経済学を確立したイギリスの経済学者ケインズが1936年の著作『雇用・利子および貨幣の一般理論』で用いた(立派な)経済用語として知られているようです。

 Wikipediaによれば、「アニマル・スピリット」は、経済活動においてしばしば見られる「主観的で非合理的な」動機や行動を指す言葉とのこと。経済活動はデータに基づく数学的な合理性に則って決定され実行されることが多いが、現実には不確実な状況の中で感情的な期待にも左右される。ケインズはそうした「不穏で首尾一貫しない心理」を「アニマル・スピリット」と名付け、経済に与える影響を重視したとのことです。

 アダム・スミスの「神の見えざる手」に代表される「経済的合理性」などの資本主義の(安定した)仕組みの中で、そこに不安定性をもたらす人間の「血気」とか「野心」とか「衝動」などを総称したものがアニマルス・ピリット。当時、そうした人間の挑戦的な感性に基づく経済活動の動きが、割と否定的というか、若干ネガティブにとらえられていたことには少し驚かされます。

 一方、現在では、この言葉は一般的に「(企業家の)野心的な意欲」などと訳され、企業が不確実な経済環境を乗り切りる際の活動の原動力になるものとして注目されています。厳しい競争環境にあっては、安定を求めて着実な経営をしているだけでは勝ち抜くことができない。現在の市場は、リスクをとれる血の気の多い経営者でなければ生きていけない、そんなサバイバルな世界だということでしょうか。

 確かに、国内企業がため込んだ内部留保(利益余剰金=企業が稼いできた利益の総額)が4百数十兆円に上るとも言われる一方で、賃上げや設備投資が伸び悩み大胆な投資にも躊躇が残る日本の現状を考えれば、企業経営者に対し政府や経済界が「もう一歩」踏み込むだけの勇気を求める気持ちはよくわかります。

 このコロナ禍の下の不安的な経営環境で守勢に回る経営者が多い中、いよいよ、ポスト・コロナを見据えた(野心的で血の気の多い)戦略を形にしていくことが求めらているということなのかもしれません。こうした状況を踏まえ、9月1日の日本経済新聞の経済コラム「大機小機」が「コロナ下の資金余剰 生かせ」と題する一文を掲載しているので、この機会に紹介しておきたいと思います。

 新型コロナウイルス感染症のパンデミックが続くなか、日本企業の資金余剰が続いている。企業が保有する現預金の増加は顕著で、2020年度は43兆円を超える増加と、データの比較が可能な1980年度以降で最大の伸びを示したと筆者はこのコラムに綴っています。

 原因は、将来の不確実性が大きく高まるなか、企業が予備的な手元資金を大幅に増やしていることにある。パンデミックの長期化により先の見えない状況が続き、中でも日本では、緊急事態宣言が何度も延長されるなど経済回復の遅れが目立っているというのが筆者の指摘するところです。

 そうした際に、いざという時のために手元資金を増やしておくことは、(それが利息を全く生み出さないとしても)やむを得ない行動だが、コロナ禍での資金余剰は、利益の大半を内部留保として蓄えてきたこれまでとは性質を異にしていると筆者は言います。

 経済活動が低迷するコロナ禍で、内部留保の大きさを示す利益剰余金は、大企業であってもほとんど増加していない。一方、政府・日銀などによる手厚い金融支援もあり、中堅・中小企業では銀行借り入れによる資金調達が、大企業は社債や増資による調達が大きく増加したということです。

 つまり、多くの企業は借り入れや社債発行、増資など外部資金の調達によって当面の支出を賄い、予備的な現預金を大幅に蓄えてきた。今後感染が収束し経済活動が本格的に再稼働する過程で(これらの)余剰資金をどのように有効活用するかが、日本経済がいかに持続的な成長を実現するか考える上できわめて重要な課題になっているというのが、このコラムにおける筆者の見解です

 多くの企業が保守的な経営スタンスを続け、コロナ禍以前のように内部留保として蓄え続けるようでは、もはや成長は望めないだろう。ポスト・コロナ時代においても、将来の見通しは決して明るいわけではないと筆者は話しています。

 生産性を高め、持続的な成長を遂げるには、豊富な手元資金を新しい成長分野に振り向け、その収益力を高めていくことがカギとなる。そして、その成長分野をかぎ取る野生の嗅覚とリスクを厭わない大胆さが、新しい時代を進める力となるということでしょう。

 少し危なっかしいと思っても、守勢に回るだけでは前に進めない。今こそ、アニマル・スピリットが旺盛な企業が、新時代に向けた投資を大胆に拡大していくことが求められていると記す筆者の指摘を、私も「さもありなん」と受け止めたところです。




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