MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2246 独身者が暮らす東京の街

2022年09月04日 | 社会・経済

 数年前から、「月曜から夜ふかし」というタイトルのバラエティ番組をよく見ています。そのコンセプトは、市井に暮らす普段はあまり巡り合えないような(ちょっと変わった)人々をさまざまに紹介し、ありのままの姿を笑いに変えるというもの。下ネタや一定の下品さは御愛嬌として、番組の取材方針に通底する大衆への愛ある視線には、視聴者を笑顔にさせるものがあるような気がします。

 ここに登場するのは、たくさんの酔っぱらいや街中をただぶらついているような無職の人々や、パーティピープル、アルバイター、水商売の若者たちや自称芸術家など。普段はあまり表に出てこないような個性的な面々の姿が、今の日本の社会を鮮やかに切り取っているようで毎回興味は尽きません。

 もとより、この番組の視点を(ある種の共感を持って)興味深く見ているのは私ばかりではないようです。(この移り変わりの激しい時代に)10年を超えて番組が存続していることや、続く高視聴率がそれを証明していると言えるでしょう。

 さて、この番組で(定点観測として)しばしば取り上げられているのが、墨田区、荒川区などの(いわゆる)東京の下町や、東京の東側、荒川の足立区、葛飾区、江戸川区などの荒川と江戸川に挟まれた地域です。

 中でも、錦糸町、小岩、竹ノ塚などはディープな街として紹介されることが多く、実際、テレビの画面に登場するのも、(そうした街に根を下ろし)賭け事やアルコールをこよなく愛する中高年の男性がそのほとんどを占めています。

 家族を持たず、定職を持たず、人間関係にも縛られない彼らの(ある意味「その日暮らし」の)生き方が、「孤独」という言葉では表現しきれない不思議な明るさを醸し出していることに、元気をもらうことも多い昨今です。

 さて、それにしてもこの番組を見ていて驚かされるのは、(都会の片隅で)アパート暮らしをしているような中高年の独身男性の多いこと。平日の昼間から近所をぶらぶらし、パチンコ屋などに入り浸っている50~60歳がらみのおじさんやお爺さんたちが、東京にこんなにたくさんいるとは正直意外でした。

 しかしよくよく考えてみれば、ここは大都会東京。そして、特にそのうちの一部の地域は、日本の独身者にとって天国のような場所なのかもしれません。

 確かに家賃は(他の地域より)高いかもしれないが、住む場所はピンからキリまでそろっている。食事や飲み屋、娯楽には困らないし、仕事だって探せばそれなりに見つかる。何より、どんな生活をしていてもうるさく言うような人がいないのが、大都会の気楽なところだということでしょう。

 しかし、一口に「東京」と言っても、23区にはいろいろな場所があるのも事実です。昨年9月のYahoo news   に、マーケティングディレクターでコラムニストの荒川和久氏が『東京の一人暮らし未婚男女の間に立ちふさがる「見えない万里の長城」という壁』と題する興味深い一文を寄せていたので、この機会に一部を紹介しておきたいと思います。

 2015年の国勢調査のデータを見ると、東京都では男65万世帯、女48万世帯と合わせて約114万世帯が未婚の単身世帯であることが判る。これは、東京の単身世帯全体の57%、約6割に当たり、(一人暮らし世帯の)過半が婚姻経験のない男女によって占められていると、氏はこの論考に記しています。

 そこで荒川氏は、20代以上の未婚の単身者だけを抽出して区ごとに男性と女性の比率を計算し、未婚男性比率が高い区、未婚女性比率が高い区をランキング化。男女の違いを比較しています。

 その結果、男性は、20~50代まで江戸川区が1位を独占。しかも、65歳以上の高齢者含め、ベスト3すべてが江戸川区、足立区、葛飾区の3区で占められていることが判った。一方、女性では、20~30代で世田谷区が上位に、40代以上で港区が上位にという多少の変動はあるものの、総合的に見れば目黒区、中央区、港区の各区が3強という結果になったということです。

 こと未婚の独身者を見る限り、男女でこれほどの差が出るのは驚きに値する。単純化して言ってしまえば、未婚単身男性は家賃の安いエリアに住み、未婚単身女性は家賃の高いエリアに住んでいるということだと氏は説明しています。

 なお、この比較はあくまで未婚単身男女の人数比の差で見たもの。絶対数で見ると、20~50代男性が多く住んでいるのは、上位から大田区、新宿区、世田谷区、杉並区の順。女性も、世田谷区、杉並区、大田区、新宿区の並びとなるということです。

 居住地は、働く場所にも影響される。特に、女性の場合は、帰宅時間との兼ね合いや治安の良さなども勘案しての選択だろうと氏は言います。だとしても、すべての年代で、ここまで如実に男女の違いが出るのには(それなりの)理由があるはず。しかも、20-30代まではそれほどでもない男女差が、40代以降で急激に拡大するのだということです。

 それでは、もしも男の未婚の一人暮らしが家賃の低い所に住み、女の未婚の一人暮らしが家賃の高い所に集中するのだとしたら、その理由とはなんだろうか?実は、これこそが未婚化や非婚化と密接に関係する要因のひとつでもあるというのが、この論考における荒川氏の見解です。

 45~54歳の未婚率である生涯未婚率で見ると、低年収の男ほど未婚率が高く、逆に高年収の女ほど未婚率が高くなっていることがわかる。因みに、全体平均の男性の生涯未婚率は23.4%、女性は14.1%で、中年以降の未婚男性は低年収が多く、同じく中年以降の未婚女性は高年収が多いため、それが住めるエリアの違いに結びついている可能性が高いと氏は言います。

 特に、40歳を過ぎて「生涯非婚」を決意した女性ほどマンションなど持ち家を購入する割合も高いが、一方、40歳になっても非正規雇用など様々な事情で低収入の男性は、持ち家購入どころか貯金するゆとりすらない状況にある。つまり、彼らが自分の収入の範囲内で住めるエリアを探せば、必然的に家賃の低い下町エリアしか選択肢がないのが現実だというのが氏の指摘するところです。

 港区女子と足立区男子は出会う機会もないとは思うが、たとえ出会えたとしても互いの価値観の違いによってマッチングすることもないだろうと氏は話しています。経済的価値観は、結婚生活においてかなり重要な要素となってくる。国や自治体が数字上の数合わせをしようと思っても、思うようにはいかないのが現実だということでしょう。

 東京23区の未婚一人暮らし男女それぞれの住む場所の違いから見えてくるのは、「超えられない未婚男女を分断する万里の長城」なのかもしれないと、荒川氏は記しています。しかし、同時にそれは、「一人で生きる」ことを肯定しはじめた男女にとって、「安心の防壁」となっているかもしれないとこの論考を結ぶ氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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