MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1350 未完の成熟国家

2019年05月01日 | 社会・経済


 「平成」とは、「内平外成」すなわち「内平らかに外成る」(史記)、または「地平天成」つまり「地平らかに天成る」(書経)という(古代中国の書物にある)言葉に由来しているとされています。これは、地変がなく世の中が平穏に収まり、天の運行が順調で万物が栄えるという意味だということです。

 一方、新しい元号は「令和」は、(先日の首相談話にもあるように)万葉集にある「初春の令月にして 気淑く風和ぎ 梅は鏡前の粉を披き蘭は珮後はの香を薫す」との文言から引用したもの。「令」は美しく清々しいという意を持ち、「和」は「争いのない」状態を示すとともに日本そのものを指す言葉としても用いられています。

 穿って聞けば、「美しい日本」と、どこかで聞いたような意味にもなりますが、そこには人々が美しく心を寄せ合う中で文化が生まれ育つ…そうした願いが込められているということです。

 残念ながら平成の30年間、(その意に反して)日本には災害などの天変地異が相次ぎ、経済的にもなかなか見るべきものがなかったとする昭和の世代も多いことでしょう。しかし一方で、世界的な混乱の中で戦争もなく飢えることもなく(何とか)凌いできたこの時代を懐かしみ、「穏やかで良い時代だった」と評する人々の姿も(特に若い世代や女性を中心に)目立つような気がします。

 総力を挙げて近代国家を目指した「明治」や時代の転換点となった「大正」、そして激動の「昭和」と比べて何となく掴みどころのないぼんやりしたイメージの強い「平成」ですが、長い日本の歴史の中でこれから先どのような時代として位置付けられていくのでしょうか。


 4月30日の日本経済新聞では、「未完の成熟国家だった平成の日本」と題する社説において、去り行く「平成」という時代が担ってきた「意味」を総括しています。

 記事はその冒頭、平成を振り返る一つのキーワードには「成熟」の二文字が当てはまるのではないかと指摘しています。

 (ひとつ前の時代)「昭和」は悲惨な戦争と戦後の高度成長の記憶とともに歴史に刻まれた。焼け野原から世界も驚く復興を成し遂げ、昭和の終わりには製造業の技術力と価格競争力で米国を脅かす状況すら生まれたと記事はしています。

 そして迎えた1989年(平成元年)末の日経平均株価の終値は史上最高値の3万8915円。バブル経済の熱気が社会のひずみを際立たせもしたが、近代日本の一つの到達点だったことは間違いないと言えるでしょう。

 そういう意味で、ピークを打った日本には、経済成長の先にどういう国家目標を定めるかが問われた。「平成」の二文字には、日本と世界の平和と繁栄への思いが込められていたというのが記事の認識です。

 しかし、(残念ながら)私たちがそこで直面したのは、バブル崩壊の後遺症といえる金融機関の不良債権問題や長期デフレ、冷戦後の国際政治の激動という現実でした。

 グローバル化の進展に伴って産業構造を変え、成熟国家として社会の形を見直す必要に迫られた我が日本。しかし、政府も企業も過去の成功体験を引きずり、痛みを伴う改革を先送りし、国際的な地位低下と財政の悪化に有効な手を打つことができなかったというのが記事の指摘するところです。

 政治も努力はした。有権者が政策本位で政権選択をしやすいよう衆院選に小選挙区制を導入し、首相官邸の機能強化や中央省庁の再編も実現したと記事は言います。その結果、幾度かにわたる政界再編や政権交代なども経験しましたが、それでも低成長時代を見据えた有効な手立てを講じてきたとは言いがたいということです。

 そして、平成の時代に直面した最大の試練は、人口減社会の到来だと記事はしています。

 少子高齢化で人口が急減する恐れは早くから指摘されていた。日本の総人口は2008年をピークに減少に転じたが、若年層の雇用や所得水準はむしろ悪化し、出産や育児、教育への支援策も後手に回ったということです。

 厚生労働省の推計では、2040年には国内の就業者数が2017年比で20%減る可能性があるとしている。政府は外国人の受け入れ拡大に動き出したものの、人手不足が成長の阻害要因になり始めているというのが記事の見解です。

 そうした中、財政健全化への取り組みは何度も先送りされ、気がつけば国と地方の債務が1千兆円を超えている。一方で社会保障制度改革は遅れ、医療や介護、年金などの歳出膨張に歯止めがかかっていないことは多くの人が認めるところでしょう。

 こうして政治や経済の行き詰まりが目立った半面、自実は平成は、日本にとって文化面では実り豊かな時代だったと記事は振り返ります。

 1994年に大江健三郎氏がノーベル文学賞を受賞し、2000年以降は化学賞、物理学賞、生理学・医学賞で日本人の受賞ラッシュとなった。文学や現代アート、ファッションなどで、世界で注目される作家が増え、映画やアニメーション、漫画、ゲームでも日本は憧れの存在となったということです。

 こうして「クールジャパン」への評価が高まる一方で、スポーツでは夏季と冬季のオリンピック・パラリンピック大会、様々な競技の世界トップリーグで活躍する選手が増えた。ワールドワイドな視点で見れば、(経済以外の面での)日本の存在感は確実に増していると見てよいでしょう。

 大きな社会の動きで言えば、欧米ではポピュリズムと自国中心的な流れも目立ち始めている。世界の民主主義が劣化する中、日本は先進民主国家として、法の支配や自由貿易、最先端の科学と文化を通じ存在感を高めていく戦略と努力が重要だと記事は言います。

 平成が終わり、令和の時代が始まる現在、私たちは多くの課題を抱えながらも、今、多くの日本人が平和と繁栄を享受している。それは実際、何よりも素晴らしいことだし、その蓄積を世界に向けて発信できる自信が生まれつつあると言えるかもしれません。

 「令和」の幕開けという時代の節目に臨み、「私たちには難しい問題を一つ一つ解決し、明るい未来を次の世代にひらいていく責任がある」と結ばれた記事の指摘を、私も重く受け止めたところです。


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