MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1004 チャイナリスク2018

2018年02月27日 | 国際・政治


 米調査会社ユーラシア・グループが、2018年の「世界における10大リスク」の首位に「米国不在の間隙を縫って中国が影響力を拡大する」ことを挙げたと、1月2日の日経新聞が報じています。

 同調査会社は毎年年頭に、その年の世界の政治・経済に大きな影響を与えそうな事象を予測し公表しています。2017年の10大リスク首位は「独立した米国」というもので、「米国第一主義」を掲げるトランプ米大統領の登場で、米国が世界の諸問題解決でのリーダーシップをとらなくなり、世界が不安定化するリスクを指摘したということです。

 そして、今年2018年の最大のリスクは、国際的な力学の下で中国の影響力がさらに拡大するということ。

 広域経済圏構想「一帯一路」やインフラ投資などを通じて関係国への影響力を強める中国が、テクノロジーの面でもAIやスーパーコンピューターの分野で躍進し、IT技術を独占してきた米国との軋轢が強まることが世界的な「リスク」として顕在化するとの認識です。

 軍事力、経済力、技術力と、これまで米国が1強として担ってきた分野で勢いを増す中国。それが(世界にとって)良いことか悪いことかは別にしても、既存の力関係の変更には確かに大きな「リスク」が伴うことは言うまでもないでしょう。

 1月9日の日経新聞には、同社の社長で政治学者のイアン・ブレマー氏が、そうした観点から「勢い増す中国、最大のリスクに」と題する論評を寄せ、リスクの具体的な内容について語っています。

 昨年10月、中国共産党の習近平国家主席は党大会の活動報告において「中国は世界の先頭に立つ国家になる」という宣言をしています。ブレマー氏はこれを、1991年にゴルバチョフ・ソ連大統領(当時)がソ連の消滅を認めて以来の最も重要な演説で、世界的な意味を持つものと指摘しています。

 5年の任期の2期目に入った習氏は国内の権力基盤を固めたことで、中国の対外環境を再定義し国内の新しいルールを設定できるようになったと氏は言います。トランプ米大統領が伝統的な同盟国や同盟関係への関与を縮小する中、中国は前に歩み出している。今の中国には、米国が自ら作り出した力の空白を埋める用意があるということです。

 ブレマー氏は、欧米の指導者は長年、中国の指導者はいずれ新たな中間層の要求に屈し、政治の自由化を余儀なくされると考えてきたとしています。確かに1989年の天安門事件をはじめとして、かつては中国国内にも(若者世代を中心に)民主化を求める強い動きもありました。

 しかし今では、包囲されているのは(逆に)欧米の民主主義のように見えるというのが、現在の国際情勢に関するブレマー氏の認識です。

 欧米の市民は、グローバリズムが自分たちの生活に及ぼした負の影響に怒り、変化を求めていると氏は言います。既成政党や公開情報などへの一般市民の信頼感が薄れ、民主主義そのものが脅威にさらされているとの指摘です。

 氏は、(それとは)対照的に、中国の指導者は国内を繁栄させ、世界における中国の重要性を着実に高めているとしています。抑圧や検閲といった不自由さへの不満や、汚職、公害などの制度が社会環境の進歩に追い付かないことに起因する問題はあるにせよ、生活の多くの分野(特に経済の分野で)でかなりの進歩があったことから、中国の人々は、欧米がなくしてしまった指導者への信頼感を失っていないということです。

 欧米が失ってしまったこうした(指導者への)「信頼感」を背景に、中国は今では、以前ほど抵抗を受けずに国際標準を設定できるようになったと、ブレマー氏はこの論評で説明しています。

 貿易・投資では、中国は世界戦略を持つ唯一といえる国であり、広域経済圏構想「一帯一路」を掲げ、政治的な前提条件を設けずにあらゆる地域の途上国へ進んで投資することにより野心を強めている。

 欧州が欧州地域の問題にかかりきりで、米国では「貿易」が政治における否定的な言葉になってしまっている中、アジアや中南米、アフリカ、中東の国々の政府に中国と連携する可能性が高まっているのは、もはや周知の事実と言えるでしょう。

 また、テクノロジーを巡る国際的な攻防においては、とりわけ米国と中国が人工知能(AI)への投資を競い合っていると氏はしています。

 AI分野を民間部門が主導している米国に対し、中国では国家が主導し、有力企業や機関に対し国家の利益にかなうようなやり方を指示している。貿易・投資戦略と同様、国内の社会不安を最も恐れる国々は、中国の発展モデルを魅力的と感じるだろうし、小国などのハイテク部門は、中国や中国企業の求める技術標準と連携することに活路を見出そうとするだろうとブレマー氏は見ています。

 さらに、中国の世界戦略のネックとなるかもしれない(共産主義的な)「価値観」の問題について、ブレマー氏は「中国の魅力はイデオロギーではない」と断じています。

 中国の輸出する政治的な価値観は、他国への「不干渉」という原則にあるとこの論評で氏は説明しています。

 経済援助と引き換えに政治・経済改革を要求する欧米に慣れている他国(特に開発途上国)の政府にとって、こうした中国の姿勢は極めて魅力的に映るはずだと氏は言います。欧州の首脳が多くの問題を抱え、トランプ氏が「米国第一」主義の外交政策を掲げる中、欧米的な価値観に基づかない中国の経済や外交へのアプローチに対抗しうる存在は(もはや)何もないということです。

 2018年以降の世界的な事業環境についてブレマー氏は、中国政府が影響力を拡大する多くの国において、中国が推進する新たなルールや標準、慣行に(一層)従わねばならなくなるだろうとしています。

 一方、中国のアジア太平洋地域における勢力拡大に対しては、日本とインド、オーストラリア、韓国が協力を強めることが予想される。そこに摩擦や紛争のリスクが生まれ、米中関係の状況によっては、トランプ政権がアジア太平洋での活動を活発化させるかもしれない。

 もしも中国がそこで不名誉な挫折に直面するようなことがあれば、壮大な野心を抱く習氏が、共産党内のライバルから攻撃を受けやすくなる可能性もないわけではないということです。

 こうして、世界は2018年、中国に注目し、中国と欧米のモデルを比較することになるだろうというのが、ブレマー氏の予測するところです。

 欧米人にとって、中国のシステムは(少なくとも現在では)ほとんど魅力がないものに映るでしょう。しかし、東南アジアやアフリカ、南米などのほかの地域の大多数の国に対しては、中国のモデルはもっともらしい、欧米に代わる選択肢を提供しているとブレマー氏は見ています。

 そうした視点から、習氏が選択肢を進んで提供する準備ができていることが、2018年の世界最大の地政学リスクだと結ばれたブレマー氏の今回の論評を、私も大変興味深く受け止めたところです。




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