小説・一刻塚-(NO4)
「うん、そう言われてみればそうだ。じゃあ来月は愛知か?・・・」
「それより被害者を襲ったとする動物は分かったんですか?・・・」
すると、筒井はセカンドバックから写真を出して猿渡に渡した。それは被害者の手足や腹部が噛み切られたと思われる被害者の傷跡だった。
「これはひどい、でも犬とか熊とは違いますね」そう言いながら写真を顔に近付けた。「先輩、此れは?・・・」猿渡は驚いた様に顔を上げた。
「人の歯型に似てる。ここへ来たのはその事なんだ、司法解剖してるH大の解剖医から電話があってな、人間の歯型だと言って来た。
でもそれらしい人間を誰も目撃していない、犯行があったのは午前五時頃だ。
今はもう明るくなっているし、散歩していた老夫婦がベンチに座る被害者からおはようございますと声を掛けられてる。
それが五時少し前だ。警察に通報が入ったのが五時十分、十分か十数分程で犯行に及んでいるんだ。一人でしかも短時間でこんな事が出来るとは思えない。
しかしだ、歯型は一人分だけなんだと。犯人は化け物か」と、筒井は顔を歪めた。
「そんな物が居る分けないじゃないですか。でも変ですね、あれだけのことをして反り血を浴びた人間を見た者がないと言うのも」。
「そこなんだ、まず犯人は被害者の左の首の頸動脈を噛み切ってる、と言うより見ろ、ハンバーガーでも食う様に首がえぐれているだろ。
噴水の様に噴き出したであろう筈の血痕が内堀の石垣に僅かに残っているだけだ。
でも肉片が見付からない」。
「先輩、じゃあ肉も食べて血も内蔵も食べたって言うんですか。いくら大食感でも人一人の血液を飲み干して内蔵は食べられないでしょう。それも十数分で」。
そう言いながら猿渡は何て話をしているのかと我が頭を疑った。
「それで医師に電話して訊いたんだ。人間の血液はどれ位あるのかってな、
そしたら、体重1kに対して80gの血液があるそうだ。
被害者の身長は165センチで痩型だったから両親は50k位だったと話していた。
だとすると、彼女には約4lの血液があり。その血液が殆ど消えた事になる。
しかも、内蔵も肋膜から下がそっくり消えているんだ。小宮も卵巣も無かったそうだ。長野、群馬、山梨の被害者の三人も同じだった」。
「先輩、こんな事件を隠しておいていいんですか。狙われているのは若い女性ばかりなんですよ。それも神出鬼没で何処に現れて誰を殺すか分からないんですよ」。
「うん、その事で今夜本庁で四県警の捜査員が集まって合同捜査会議が開かれる事が決まった。話題は発表するかどうかって事だろう」。
「そうですか、でも既に三人も犠牲になっていたのにどうしてって。四人目の被害者が出たから発表したと言う事になると国民の非難は相当ですよ」。
筒井は返す言葉も無く黙って頷いていた。猿渡も今までの事件は他県の事件でもあり、筒井警部補には責任はない事は分かっていた。しかし、そう言うしかなかった。そして筒井警部補は警視庁に向かった。
猿渡は専門書の棚に向かっていた、バンパイヤとか狼男の文献など、信じられない様な書物をもって来ると読みあさっていた。
そして五時の閉館になると図書館を出た。
そして彼女の間宮麻代と会うべく、両替町にある待ち合わせのレストランに向かった。行くと、いつもの席に彼女が来ていた。
「大変な事になったな、大丈夫か?・・・」
「うん、まさかあの子が殺されるなんてね。とっても素直で奇麗な子だったのに」
「そう、でもなんであんな時間にあんな所に居たんだ。知っているの?・・・」
「私は知らなかったんだけど行員が言っていわよ、夕べは同期の女子行員の三人と三時過ぎまで遊んでいたんで、それで別れて彼女は歩いて帰ったんですって」。
「そう、それでベンチで休んでいたって訳か。麻代、君も気を付けてくれろよな。
遅くなるときはタクシーで帰れってくれ」。
「私が遅くなる時は啓太さんと一緒じゃない、それ以外は伝書鳩よ」。そう言ってそっと頷く麻代だった。
「そうそう、優子さんの事件を調べに筒井さんが来たわよ」。
「うん、俺も事件の事を訊きに先輩の所へ行ったよ。そしたら森川さんの両親が来てて会った。一人っ子なんだってな?・・・」。
「うん、私も知らなかったけど」。すると麻代の顔色がスッと蒼白した。「啓太さん、まさかこの事件を調べるなんて言うんじゃないでしょうね。殺人事件よ」麻代は周りの目を気にしながら小声で言うと睨みつけた。
猿渡はカバンから書類を出し、取材した記事を見せた。なあに此れ、と麻代は広げた。記事を読んでいた。そして溜め息を吐くと顔を上げた。
「この記事なら覚えている」。麻代の目が驚いた様にクリクリッと見開いた。
NO-4-6
「うん、そう言われてみればそうだ。じゃあ来月は愛知か?・・・」
「それより被害者を襲ったとする動物は分かったんですか?・・・」
すると、筒井はセカンドバックから写真を出して猿渡に渡した。それは被害者の手足や腹部が噛み切られたと思われる被害者の傷跡だった。
「これはひどい、でも犬とか熊とは違いますね」そう言いながら写真を顔に近付けた。「先輩、此れは?・・・」猿渡は驚いた様に顔を上げた。
「人の歯型に似てる。ここへ来たのはその事なんだ、司法解剖してるH大の解剖医から電話があってな、人間の歯型だと言って来た。
でもそれらしい人間を誰も目撃していない、犯行があったのは午前五時頃だ。
今はもう明るくなっているし、散歩していた老夫婦がベンチに座る被害者からおはようございますと声を掛けられてる。
それが五時少し前だ。警察に通報が入ったのが五時十分、十分か十数分程で犯行に及んでいるんだ。一人でしかも短時間でこんな事が出来るとは思えない。
しかしだ、歯型は一人分だけなんだと。犯人は化け物か」と、筒井は顔を歪めた。
「そんな物が居る分けないじゃないですか。でも変ですね、あれだけのことをして反り血を浴びた人間を見た者がないと言うのも」。
「そこなんだ、まず犯人は被害者の左の首の頸動脈を噛み切ってる、と言うより見ろ、ハンバーガーでも食う様に首がえぐれているだろ。
噴水の様に噴き出したであろう筈の血痕が内堀の石垣に僅かに残っているだけだ。
でも肉片が見付からない」。
「先輩、じゃあ肉も食べて血も内蔵も食べたって言うんですか。いくら大食感でも人一人の血液を飲み干して内蔵は食べられないでしょう。それも十数分で」。
そう言いながら猿渡は何て話をしているのかと我が頭を疑った。
「それで医師に電話して訊いたんだ。人間の血液はどれ位あるのかってな、
そしたら、体重1kに対して80gの血液があるそうだ。
被害者の身長は165センチで痩型だったから両親は50k位だったと話していた。
だとすると、彼女には約4lの血液があり。その血液が殆ど消えた事になる。
しかも、内蔵も肋膜から下がそっくり消えているんだ。小宮も卵巣も無かったそうだ。長野、群馬、山梨の被害者の三人も同じだった」。
「先輩、こんな事件を隠しておいていいんですか。狙われているのは若い女性ばかりなんですよ。それも神出鬼没で何処に現れて誰を殺すか分からないんですよ」。
「うん、その事で今夜本庁で四県警の捜査員が集まって合同捜査会議が開かれる事が決まった。話題は発表するかどうかって事だろう」。
「そうですか、でも既に三人も犠牲になっていたのにどうしてって。四人目の被害者が出たから発表したと言う事になると国民の非難は相当ですよ」。
筒井は返す言葉も無く黙って頷いていた。猿渡も今までの事件は他県の事件でもあり、筒井警部補には責任はない事は分かっていた。しかし、そう言うしかなかった。そして筒井警部補は警視庁に向かった。
猿渡は専門書の棚に向かっていた、バンパイヤとか狼男の文献など、信じられない様な書物をもって来ると読みあさっていた。
そして五時の閉館になると図書館を出た。
そして彼女の間宮麻代と会うべく、両替町にある待ち合わせのレストランに向かった。行くと、いつもの席に彼女が来ていた。
「大変な事になったな、大丈夫か?・・・」
「うん、まさかあの子が殺されるなんてね。とっても素直で奇麗な子だったのに」
「そう、でもなんであんな時間にあんな所に居たんだ。知っているの?・・・」
「私は知らなかったんだけど行員が言っていわよ、夕べは同期の女子行員の三人と三時過ぎまで遊んでいたんで、それで別れて彼女は歩いて帰ったんですって」。
「そう、それでベンチで休んでいたって訳か。麻代、君も気を付けてくれろよな。
遅くなるときはタクシーで帰れってくれ」。
「私が遅くなる時は啓太さんと一緒じゃない、それ以外は伝書鳩よ」。そう言ってそっと頷く麻代だった。
「そうそう、優子さんの事件を調べに筒井さんが来たわよ」。
「うん、俺も事件の事を訊きに先輩の所へ行ったよ。そしたら森川さんの両親が来てて会った。一人っ子なんだってな?・・・」。
「うん、私も知らなかったけど」。すると麻代の顔色がスッと蒼白した。「啓太さん、まさかこの事件を調べるなんて言うんじゃないでしょうね。殺人事件よ」麻代は周りの目を気にしながら小声で言うと睨みつけた。
猿渡はカバンから書類を出し、取材した記事を見せた。なあに此れ、と麻代は広げた。記事を読んでいた。そして溜め息を吐くと顔を上げた。
「この記事なら覚えている」。麻代の目が驚いた様にクリクリッと見開いた。
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