「未来の文学」初のアンソロジーが、いよいよ刊行された。
一応はNWという看板をぶらさげてはいるものの、運動や思想よりは
むしろ時代を象徴するためのキーワードとして選ばれたフシがある。
むしろ「20世紀SF」の若島版、もしくは裏バージョンと呼んだほうが
このアンソロジーの性格をよく表しているような感じがする。
さて、表題作『ベータ2のバラッド』。
ディレイニーの最初期作品であり、確か彼の初SF作品だったように思う。
あまりに古典的な展開なのでちょっと意外な気もしたが、当時新進作家の
ディレイニーが、SFを書き始めるにあたって「いかにSFらしく書くか」を
意識して書いたと考えると、実は型にこだわる彼らしいと言えるかも。
ヴォートっぽいテーマを扱ったあたりには、当時のディレイニーが持っていた
SF観や、彼の好みを伺わせるようでもある。
SFらしさにこだわるあまり、彼の魅力である奔放なイメージは若干抑え気味に
なってしまったが、五感に直接訴えかけるような情景描写の鮮やかさは、やはり
ディレイニーならではの持ち味である。
物語の核である「バラッド」の謎解きが記録と伝聞だけで成し遂げられてしまうのは
ダイナミックさと緊張感に欠けるところで、ここが本作最大の弱点。
だがこれも、「語りの多様性」と「物語の多面性」に主眼を置いたものと考えれば、
これまたディレイニーらしいと言うべきか。
いろいろな面で、後年の作品に比べれば食い足りないし、荒っぽくて詰めも甘い。
それでもこの作品には、まぎれもなくディレイニーの印が刻印されている。
そしてこの物語自体が、若きSF作家の意気込みと挑戦の貴重な記録なのである。
主人公のバラッドを巡る探求の姿は、ディレイニーのSFに対する探求の姿と
ぴったりと重なるのだ。
そしてこの『ベータ2のバラッド』、作中に後のディレイニー作品の原型が
いくつも表れているという点でも、非常に興味深い作品だと言える。
例えば、口承文芸と宇宙冒険SFの部分は『ノヴァ』。
言語への興味と自己認識の問題は『バベル=17』。
そしてキリストにまつわる物語については『アインシュタイン交点』。
『ベータ2のバラッド』を、上記の作品が生まれるための習作として位置付けるのも
あながち無理ではないと思うのだが、どうだろう。
単体の作品としては不十分な面もあるが、ディレイニーという作家について
マルチプレックスに読み解きたいと思う読者なら、『ベータ2のバラッド』は
ぜひ読んでおくべきだと思う。
まだカットも磨きも粗いけれど、ここには確かに宝石の「輝き」が潜んでいる。
一応はNWという看板をぶらさげてはいるものの、運動や思想よりは
むしろ時代を象徴するためのキーワードとして選ばれたフシがある。
むしろ「20世紀SF」の若島版、もしくは裏バージョンと呼んだほうが
このアンソロジーの性格をよく表しているような感じがする。
さて、表題作『ベータ2のバラッド』。
ディレイニーの最初期作品であり、確か彼の初SF作品だったように思う。
あまりに古典的な展開なのでちょっと意外な気もしたが、当時新進作家の
ディレイニーが、SFを書き始めるにあたって「いかにSFらしく書くか」を
意識して書いたと考えると、実は型にこだわる彼らしいと言えるかも。
ヴォートっぽいテーマを扱ったあたりには、当時のディレイニーが持っていた
SF観や、彼の好みを伺わせるようでもある。
SFらしさにこだわるあまり、彼の魅力である奔放なイメージは若干抑え気味に
なってしまったが、五感に直接訴えかけるような情景描写の鮮やかさは、やはり
ディレイニーならではの持ち味である。
物語の核である「バラッド」の謎解きが記録と伝聞だけで成し遂げられてしまうのは
ダイナミックさと緊張感に欠けるところで、ここが本作最大の弱点。
だがこれも、「語りの多様性」と「物語の多面性」に主眼を置いたものと考えれば、
これまたディレイニーらしいと言うべきか。
いろいろな面で、後年の作品に比べれば食い足りないし、荒っぽくて詰めも甘い。
それでもこの作品には、まぎれもなくディレイニーの印が刻印されている。
そしてこの物語自体が、若きSF作家の意気込みと挑戦の貴重な記録なのである。
主人公のバラッドを巡る探求の姿は、ディレイニーのSFに対する探求の姿と
ぴったりと重なるのだ。
そしてこの『ベータ2のバラッド』、作中に後のディレイニー作品の原型が
いくつも表れているという点でも、非常に興味深い作品だと言える。
例えば、口承文芸と宇宙冒険SFの部分は『ノヴァ』。
言語への興味と自己認識の問題は『バベル=17』。
そしてキリストにまつわる物語については『アインシュタイン交点』。
『ベータ2のバラッド』を、上記の作品が生まれるための習作として位置付けるのも
あながち無理ではないと思うのだが、どうだろう。
単体の作品としては不十分な面もあるが、ディレイニーという作家について
マルチプレックスに読み解きたいと思う読者なら、『ベータ2のバラッド』は
ぜひ読んでおくべきだと思う。
まだカットも磨きも粗いけれど、ここには確かに宝石の「輝き」が潜んでいる。
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