楽しい
2018年12月26日
バイクが面白いものだと思ったのは、原付講習会の受講を終えた頃だった。
そこから先は石見人(いわみじん)の逆上(のぼ)せ性の故か、それともあの「熱しやすく冷めやすい」性格のためか、もう坂道を転がり落ちるようにバイクにハマった。
何しろバイクは坂道に限らず、平坦な道でも上り坂でもかまわず転がる。それに乗ってる者のテンションは上がるけど身体的な疲労はない。
テンションが上がった分、神経は疲れるからよく眠れるし、ほどほどの振動のおかげで腹が減る。
よく食べてよく寝るし、それなりの運動になっているからか、体重はやや減少気味で身体の調子も良くなる。
早く乗りたいから早く目が覚める。休みの日などは5時前には起きていて、もうじっとしていられない。
当然、6時頃には出る準備が終了している。
その頃、西村由紀江がブームになっていて、朝の番組を持っていた。彼女の曲を聴きながら、「今日はどこまで行こう」と毎週思っていた。
「明日は折角の日曜日だ。なら、今晩はちょっと羽目を外して飲もう」
「今日は折角の日曜日だ。なら、昼前から酒を飲んだっていいだろう」
そして昼過ぎから、うたた寝をして、目が覚めたら既に三時前。
そういう生活をしていたのが百八十度方向転換。
「酒は夜まで飲まない。飲んだらバイクに乗れなくなる」
それ以外にも大きな変化があった。
何しろ通勤で乗るのだ、行きも帰りも。
仕事を終えて片づけをして「やれやれ。さて帰るか」だったのが、まずバイクに乗る準備をしなきゃならない。
クルマのキーを指先でくるくる回しながらと言うのとはわけが違う。
(昔のことです、スマートキーはなかった・・・と思う)
「鍵」は家の出入りの時だけだったのに、今度は違う鍵を出す。
ライディングジャケットを着て、ブーツをはいて、ヘルメットをかぶりストラップを留め、グローブをしてバイクにまたがる。
「やれやれ。さて帰るか」
こんなセリフは浮かばない。
「右良し、左良し!エンジン良し。出発!」
指差し声出し確認こそしないけれど、何となくバスに乗り、電車に乗って行き来していた時と違って「『自分の意志で』『バイクで』移動する」、というのを乗るたびに意識するようになった。
仕事上のことで落ち込むことがあっても、自棄酒やギャンブルで憂さ晴らしをする気にならない。
バイクに乗れば気分は昂揚する。
「ぶっ飛ばし」たり、「盗んだバイクで走りだ」すことは、あの世への一本道をひた走ることにしかならない。
こんなに面白いものを、そう易々と手放してたまるか。
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原付き泊りがけツーリング
2018年12月27日
「・・・・なんてするものじゃない」
、と、身も蓋もないことを言っちゃあ先に進めない。
原付NS50Fで泊りがけのツーリングに行ったのは、原付免許を手に入れてから一ヶ月余り後のこと。
一泊目は予約を入れ、二泊目は適当に決めるつもりで宿を出て、一時間ほどで白バイに捕まった、ということは以前に書いた。
腹が立つやら血の気が引いてやる気が失せるやら、で、二泊目を中止して帰ってしまったことも一緒に書いた(と思う)。
白バイの警官というのは妙に愛想が良い。高飛車に言われたら「売り言葉に買い言葉」状態になるからなんだろうけど。
妙にやさしい口調で
「はい、ここ見て下さい。何キロになってます?」
と問う。
「~キロです」
「原付だから~キロオーバーです。危ないですよ。私が居るの、見えませんでした?」
見えてたら飛ばすわけがない。信号が青になって、クルマから離れなきゃ、と思っての40キロ少々。
「クルマが近いので、取り敢えず抜かしやすいようにと思って」
「そうですよねぇ。原付じゃ怖いですよね。私も普段は原付に乗ってるんですが、こわいから買い物に行くくらいしか乗らないんですよ。中型くらいでないとねぇ~。免許、取ってくださいよ」
「今、通ってます」
「そうですか。じゃあ、免許取って安心して走ってください」
朝一番の良い気分が台無し。けど、非は一方的にこちらにある。
全くやる気がなくなってぐずぐずぐずぐず後悔し続けながら、ともすれば40キロを超しそうになるのを制御してトロトロ走る。ストレスばかりになる。
もしかしたら走ってる後ろ姿に「ブツブツ」「ぶつぶつ」ってマンガみたいな吹き出しが見えたかもしれない。見る人が見れば見えたろう。
免許証を持って出るのを忘れてバイクに乗ってた人が、途中で不意に免許証がないことに気付く。途端、不思議なことに免許証の提示を求められる。
挙動がおかしくなるので、何となく分かるんだそうだ。
「ぶつぶつ」がずっと続き、「え~い、もうやめ!今日は帰る!」となって、日付が変わる寸前までかかって家に辿にり着いたわけだが。
「ぶつぶつ」言ってても何も良い結果は得られなかった。
諦めて、ツーリングを投げ出した結果。夜中の真っ暗な道を走り続けるなら良いけれど、結構、対向車がいる。ヘッドライトが眩しい。辺りが一瞬見えなくなる。国道の癖に路面が変形して畝のようになっている。しょっちゅうタイヤを取られ、ハンドルが暴れてヒヤッとさせられる。
揚げ句に雨まで降ってくる。ヘルメットのシールドが雨粒に覆われ、そこにクルマのヘッドライトが乱反射する。何も見えない。しょうがないからシールドを上げ、眼鏡を外して走る。
「後悔先に立たず、だ。ブツブツ言ってたって良いことなんか一つもない。青切符切られたことが取り消せないなら、『次善の策』だ」
「取り敢えず今回のことは『忘れてやる』」
朝、捕まって12時間近く経ってやっと出た結論が、これ。
「今はやせ我慢。これから後のことを楽しもう」
ずっと後にも、朝6時半、中央道の追い越し車線で捕まったが、計測時間が短かったのか、追い越し車線を長く走っていたため、通行区分違反だけとなった。5時に家を出たばかり。
「取り敢えず今回のことは『忘れてやる!』」
おかげでゴールド免許になったのは30年間でたった一度。
それも、一年足らずで、青に戻り、現在に至る。
それでもツーリングはやめない。楽しいから。