シリーズ12日目
1日目: 序章。消えた町医者
2日目: 看護度と介護度。急性期病院とは?
3日目: 高額化する医療機器。適正使用
4日目: 広がる地域格差を縮める策
5日目: 安全な在宅医療の充実
6日目: マルチプレヤーの総合診療科 (プライマリー)
7日目: 健康への指揮者としてのプライマリー
8日目: 自由アクセスの弊害
9日目: 封建社会制度で成り立っている日本の医療
10日目: 医療の外部委託
11日目: 地域でのプライマリーの活性化のために
カナダでのGP不足。政府としてはどうしたらプライマリーをしてくれるGPやNPが増やせるか意見交換会がありました。病院などの大きな組織で働く医師と比べサポートがない、繋がりを感じない、つまり孤独感はGP/NPとして働いている人から多く出てきた意見でした。そして10年ぐらい前に政府が以下の策を打ち出したました。
division of Family Practice と言います。日本語訳で一番しっくり来るのが医師会でしょう。
日本では昔からある団体。しかし聞きたい医師会とは何ですか?
私も医師会に属しています。私の働く地域の医師会の活動はプライマリー同士の横の繋がり、地域の医療を発展するための意見交換そして組織としての実践、特に急性期病院との架け橋などです。プライマリーとして地域に足りないものを足していく。政府が決めるのではなく地方から行政へ持っていく土台を作ったのです。実はこの医師会の政策の一つとして私のポジションは作られました。他にもNPOと協力し若年層のホームレスシェルターやリソースセンター、長期療養型施設との連携、ホスピス緩和ケアとの連携、専門医との連携。他の地域の医師会との連携。各クリニックで働くMOA(受付や診療の補助をする人)や看護師の合同研修などなどアイデアはつきません。確実に政策をこなし、団結心はますます強くなっています。そして勉強会です。
医療に関する勉強は学会などに参加すれば出来ますが、新分野やローカルでタイムリーな話題の希望があればスピーカーを招待して夕食会兼勉強会も行われます。医療者自身の心のケアの演題などもあります。医療ビジネスの勉強会もありました。プライマリーは医療費を抑えるためになくてはならないものだとの認識があるからこそ、医師会に対する投資(経営予算)もたっぷりとあります。
で、勉強会ついでで卒後教育について。孤立化は地理的、ネットワーク的なものだけではありません。知識的な孤立も起こります。医師も看護師と同様、医師のカレッジによってプロフェッショナル度をモニターされています。年間に受けなければならない教育の質と時間数。記録監査に処方監査。
大学は大学だけの教育だけではありません。卒業者に対する教育も積極的に行っています。昔ながらの学会や、大規模な勉強会。それに加えオンラインでの自己研修、メールによる体験シェアなどなど。実践するプライマリーからのフィードバックを受けその形は多様化しています。医療の進化は本当に目覚ましいスピードです。大学で学んだ事が変わっている事も多々あります。EBM(科学的証明に基づいた医療)を実践するためにとても重要な事です。
さて、日本はこの点はどうでしょうか?医師と名乗りながら堂々と子宮頚がんワクチンを否定したり、テレビでEBMとは程遠い事を真顔で国民に向かって医療知識として流したり、これだけで既に、日本の医師の卒後教育は???プロフェッショナル度は???と疑問に感じます。安全で効果的な地域でのプライマリーを活性化させ、急性期病院依存型の医療体制を立て直し、医療費の削減を狙うためには、まだまだ課題がありそうですね。しかし改善できる可能性は十分あると思います。財布の紐を締めるだけが対策ではない、これが言いたかった12日間でした。
完璧な医療の形なんてありえない。各国がそれぞれの課題に取り組んでいます。カナダとて同じです。しかし医療費の成り行きは常に最優先課題と長年取り組み、その医療費破綻の切迫感が薄い。日本との違いは何?という視点で書きました。シリーズ終わり。