シリーズ11日目
プライマリーの良いところはゆりかごから棺桶まで。一生を通して行われるケアであること。盲腸の手術をして、数年後に足を骨折して、10年後に糖尿病が発覚し、と病歴だって色々です。本人以外にその人に何が起こったのか熟知しているのがプライマリーです。体のあちこちで変化が起こる高齢ならば尚更です。
プライマリーがいなければ、外科へ行って、次は整形へ、そして内分泌科へと渡り鳥です。その間を繋ぐのは自分以外の誰もいません。それにこの形では症状が出てから対応する形です。もしプライマリーがいれば健康相談にのったり、禁煙や酒量を減らす指導をしたり、若年層からメンタルヘルスのケアなど専門家の間の飛び石型の医療では、できないことができます。何せプライマリーは一生を通して行う医療ですから。そしてこれが健康なうちから生涯の健康を考える積極的な予防医療なのです。
予防接種だってできます。日本で奨励が中止されたままになっている子宮頸がんワクチン。相談できる医療者がいれば意思決定に違いが出てくると思います。私自身プライマリーをしていて、予防接種の相談を受けることもありますよ。あやふやなネットニュースの意見ではなく、医療者としてエビデンスの強い回答をしています。プライマリーは健康と疾病の相談窓口みたいな特徴もありますから。
で、国公立病院再編成で、私の健康はどうなるんだ?!と思っている方々。もっとプライマリーを利用しましょうよ。今まで述べてきたようにプライマリーは大きな施設も要らない。大きな施設が必要ないので開業しやすい。高額な医療機器が必要ないから必要機器の減価償却もできる。遠くの病院へバスを乗り継いで行くより、近くの開業医に診てもらう、こんな医療が小さな街や村にあったらどうですか?病院の総合診療科ではなく地域の総合診療科を増やしていきましょうよ!
そうは言っても6日目に書いたようにカナダのGP不足は深刻です。特に過疎で働くGPが減った事は深刻な事態を招きました。GPがいなければ専門医に診てもらえない。それどころかがん検診も、糖尿病や高血圧かどうかさえもわからない州民が増えるのですから。GP不足のおかげで医師は患者を選ぶようになりました。めんどくさい患者は引き受けません、と堂々と断る医師まで出てきました。この救世主となったのがナースプラクティショナー(NP)なんです。BC州では2005年から資格化されました。14年で500人近いNPが誕生し、処方権を持ち、自律してプライマリーを行なっています。指揮者として、交通整理として、門番として、健康への相談窓口として、そして州民の医療へのアクセスを向上するために。
日本は診療看護師と呼ばれる名称で10年も前から卒業生を輩出しています。アメリカのNPを模してアメリカのNPのように活躍できればと。しかしビジョンに欠けており、そのポテンシャルを発揮できていません。宝の持ち腐れですよ。診療看護師周辺のしがらみを整理してまさに北米のNPのようにしっかり地域でプライマリーをやってもらったらどうですか?
続く

ボードウオークで滝の近くを歩く事ができます。