secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

es[エス](V)

2008-09-07 19:18:45 | 映画(あ)
評価点:66点/2001年/ドイツ

監督:オリバー・ヒルシェヴィゲル

アメリカであまりの残酷さによって公開中止になった問題作。

タクシー運転手で記者のタレク(モーリッツ・ブライプトロイ)は、新聞の広告に出ていた心理実験に興味をもち、そのアルバイトに応募し、その被実験者となる。
その実験は、被実験者が看守と囚人にわかれ二週間をすごす、というものだった。
知り合いから特殊カメラの仕込まれている眼鏡を貰ったタレクは、その実験に囚人として参加することになる。
暴力行為などのゆるい規則以外には決まりは無く、看守はどんどん囚人を管理していこうとサディスティックになり、そして囚人はどんどん精神的に追い詰められていく。。。

公開当初から気になっていた作品で、ずっとレンタルしようと思っていたのだが、
ずっとレンタル中だった。
ようやく見られることになったが、日本語吹き替え版しかなかったので、その点はご了承いただきたい。

▼以下はネタバレあり▼

この映画の元ネタは、1971年に実際におこなわれた実験をもとにしているらしい。
実際の実験でも7日しかもたなかったという。
映画というものはフィクション性が含まれるものであるから、この映画が、いかに実際のものを元にしていたとしても、それはやはり「映画」としてみるしかない、というのは周知のとおりだ。
しかし、フィクションであったとしても、この映画は「こわい」。
日本で公開できたことも不思議なくらいだ。
サスペンスとしては、少し未完成な部分があるように思えるが、「こわさ」だけを評価の基準にするならば、並みのホラーよりよっぽど怖い。

この映画は、あくまで「実験」という色を濃くしようとしている。
そのため、リアルな印象と、ドキュメンタリーのような身近さが体験できるようになっている。
終始監視カメラと、タレクが持ち込んだ隠しカメラと、そして実験中の記録用テープが挿入されるのは、その「実験」色のためであろう。
最近特にカメラワークが過剰になりつつある映画界において、稀なほどに「演出感」のないカメラになっている。
逆にそれが、演出感たっぷりなのだが、怖さを引き立てるのには成功しているといえる。

実験当初、看守囚人両者ともに、「演じている」という意識が働き、全く「らしく」ない。
しかし、「77番」(=タレク)の反抗的な行動により、看守は「管理」することを迫られる。
彼らにとってそれ以降、全ては囚人を管理することが重要になり、それを最優先事項としてしまう。
そしていつの間にか、「看守」になってしまうのである。
そこには演じている自分と、そうではない実験以前の自分との意識的な境界がない。
実験の主催者の博士の言うように「没個性」である。

そして、管理者側であるはずの看守が、何かを支配することで際限の無い無管理状態に陥ることにより、実験という「管理されること」を極端に恐れ、目的と手段が摩り替わってしまう。
自分たちは囚人を執拗に管理し続けているにもかかわらずにである。
このゆがみが非常にこわい。

看守役の「看守化」により、囚人役が「囚人」となってしまう。
囚人役は、素人の看守役に対して、はじめは意図的に卑屈な態度をとる。
しかし、どんどん看守が管理しはじめると、今度は本当に管理される側になってしまう。
タレクが恋人のことを思い出すシーンは、心に希望を創造しなければ精神が保てなくなっているということを表している。

ただ未完成なのは、その回想シーンが展開上不自然なことだ。
出会ってまもなくの恋人をしきりに登場させるのは、結末にもっていくための伏線であることは間違いない。
それにしても、それまでのタレクの生活や人生を描かずに、出会ってまもなくの恋人を心の支えのように回想するのは、やはり無理がある。
しかも、タレクは心身ともに至って「正常」と診断されているのだ。
それまで孤独な人生を送ってきた人間ならともかく、正常な人間が、ほんの数週間のこと以外に回想しないのは不自然である。

回想なら、他に必要なシーンがあったはずである。
子どもの頃に父親に暗室に閉じ込められたというエピソードを入れるなら(もちろんそれは後に暗室に閉じ込められるという伏線である)、
それを閉じ込められたときにフィード・バックさせることが必要だった。

人間の内面やその豹変ぶりをテーマにしているのなら、その点はきちんと描くべきだったのではないか。
結末をすんなり迎えるためだけの恋人だったような気がして仕方が無い。
そのため、主人公の心理変化がわかりづらく、映画としては未完成な心象がぬぐえない。
むしろ、何のエピソードも無い看守の方が、その心理変化がよくわかる。

人権学習のため、教室で意図的に差別を引き起こそうとした実験を見たことがある。
もちろん海外の話だが、そのときもものすごく児童・生徒が豹変していた。
その実験を思い出した映画だった。

(2004/1/14執筆)

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