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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

太田愛「犯罪者」

2021-03-07 08:20:04 | 読書のススメ
繁藤修司は19歳の土木業従事者だった。
ある日、知り合った女性から明日会いたい、と言われて平日の二時、駅前で待っていた。
突如そこに通り魔らしい黒ずくめの男が、次々と通行人を刺して回った。
とっさに防御姿勢をとった修司も襲われたが、目の前にあった空き瓶で相手のフルフェイスを割ろうとした瞬間、相手はひるみそのまま彼はは意識を失った。
気づいた病院先で自分以外の4人の被害者は殺されたことを知る。
手負いの彼の元に、見知らぬ中年男性が「あと10日生き延びろ」と伝えて去る。
戸惑う修司は、真相を追いながら、その黒ずくめの男に追われることになる。

「劇場版 相棒」などの脚本家で知られる、太田愛のエンタメ小説、「犯罪者」。
この話の前日譚にあたる「幻夏」が平積みされていて、気になって先にこちらを読むことにした。
上下巻であわせて2000円ほどする文庫本で、正直手を出すのには勇気が要るかもしれない。

テレビ業界にいる人であることの強みが十二分に発揮された作品だ。
登場人物があっちこっち、時間軸もあっちこっちするので、一気に読む時間を作って読むべきだ。
ただし、スピード感がある作品なので、それほど読むのに苦労することはない。
問題は、続きが気になって睡眠時間が削られる、もしくは仕事に手が着かないことだろう。

▼以下はネタバレあり▼

エンタメ小説はあまり読まないことにしているのだが、それまで読んでいた本がことのほか時間がかかったため、手っ取り早く文字を追うことができる本を、ということで手に取った。
テレビドラマや映画化してほしいところだが、きっと編集がうまくいかずに、単なる「映像化」になりさがることだろう、と思いながら読んでいた。

テレビ業界にいる人だからこそ、そう思わせる展開になっていたのだろう。
テレビでは扱いにくいことも題材にされており、この作家(脚本家)はとても頭が良いと感じた。
というのは、映画やテレビで扱うべき題材と、小説としてでしか扱えないものがあるということを明確に意識していると感じたからだ。

真相の黒幕にいる、ベビーフードの会社や、トクホのシステム、テレビと政治との癒着、殺し屋の滝川、どれもありきたりとえいばありきたりだが、真っ向から映像化すると、すぐに「あの会社のことか」といった想像がついてしまう。
フィクションであると断っても、どうしてもそこには誤解や妙な説得力が生まれてしまうだろう。
話も長く、テレビドラマにするには冗長になってスピード感や緊迫感が失われてしまう。
映画にするにはちょっと要素が多すぎる。

そういう危ういバランスの小説になっている。
この小説の面白さはその一点だろう。

主要な人物造形はしっかりしているものの、やはりちょっと無理な展開が多い。
特に交通課に回されたとしても休暇の刑事が、人の車を盗んでそのあとどんな申し開きが可能なのか。
遣水(やりみず)の計画も先回りしすぎて、平山刑事の考えを先回りするなど、ちょっとご都合主義は感じられる。

それでもほどよい緊張感をもたらせてくれるので、楽しめる作品ではある。
「幻夏」を読むかどうかは、ちょっと悩む。

今日から「クララとお日様」を読み始めた。
(単行本だが、この上下巻よりも高くてびびった)


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