secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

岩井克人「経済学の宇宙」

2023-10-12 07:32:15 | 読書のススメ
ソシュールなどの構造主義の旗手となった考え方や、ポスト構造主義の思想家たちの影響もあり、経済学、ことにマルクスについてはいくらか調べていた。
そのこともあって、経済学についてはほとんどまともに勉強したことはないが、関心が強かった。
岩井克人がその半生を語るこの著作についても、文庫本になる前から気になっていたが、かなりの長編であることを知っていたので手に取れなかった。
もう一度調べると、文庫本になっていたので、今回読むことにした。

幼少期から、現在までの研究者としての半生を、インタビュアーを通して語っている。
当時の経済学の様子や専門的な内容も含まれるので、経済学の入門書としてもおもしろいだろう。
私はそのあたりの詳しい背景を知らなかったので、興味深く読んだ一方、内容はほとんど理解できなかったと言って良い。
これから経済学を志す人は、よい入門書と言えるのではないか。

特に、アメリカやイギリスでの研究がどのようなものなのかを知れただけでも興味深かった。
そして、やはり英語ができなければ何も始まらないのだ、ということがよくわかった。
日本での研究など、結局世界を動かすことはなく、とにかく英語で発信しなければなきに等しい。

▼以下はネタバレあり▼

研究の締めくくりとなるのは、言語、法、経済という三つの要素についてだった。
これまで読んできた彼の著作が、ただ断片的なものとしてあったのではなく、一本の軸になってつながっていることを感じた。
また、私たちがゆらいでいるのも、結局言語、法、経済という三要素のゆらぎからくるものなのだろうということを痛感した。

私たち日本人の最近の思考傾向は、「それにどれくらいのコストがかかるか」「法律的に問題はないのか」という二つの軸しかない。
ともに、経済と法という二つの軸しか、私たちは物事を判断する基準をもてないでいる。
それは圧倒的に、言語による思考や思索ができなくなってきているという証左だろう。

私たちの文化や社会的な価値は、経済や法には収斂しきれないところがあるはずだ。
しかし、少子化対策にはどれくらいのコストがかかるとか、結婚したらどれくらい経済的メリットがあるとか、そういう発想しかもてなくなっている。
社会の受け皿が、法や経済しかないという怖さを、あらためて突きつけられたようだ。

そんなことを考えていたら、「ダークナイト・ライジング」にあった描写の意味がまた違った形で見えてきた。
それについては、また別の機会にまとめてみようと思う。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« AVA エヴァ(V) | トップ | イコライザー THE FINAL »

コメントを投稿

読書のススメ」カテゴリの最新記事