secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

アメリカン・ビューティー

2009-03-10 18:12:42 | 映画(あ)
評価点:96点/1999年/アメリカ

監督:サム・メンデス

アカデミー賞の主要部門の独占を果たした珠玉。

レスター(ケヴィン・スペイシー)は妻子もちの広告代理店のサラリーマン。
ある日彼はリストラするかどうかの査定を行うためにレポートの提出を課される。
しかし、そんな彼の疲れが家に帰っても癒されることはない。
16歳の娘(ソーラ・バーチ)は数ヶ月父親と口をきかず、妻とも喧嘩ばかりしている。
妻(アネット・ベニング)はキャリアウーマンを目指すべく不動産の販売をしているが、全く売れそうにない物件を担当させられるような地位でしかない。
仲の悪い娘は、父親の存在に不満と、自分の顔と体にコンプレックスを抱いている。
初めてチアガールの娘の晴れ舞台を観にいったレスターはそこで紹介された娘の友人のアンジェラ(ミーナ・スバーリ)に一目ぼれしてしまう。
そして彼の家の隣に、ひそかにマリファナを売る青年リッキー(ウェス・ベントレー)をもつ家族が引っ越してくる。
マリファナと恋の力を得たレスターは、どんどん積極的な性格に変わっていく。

アカデミー賞をとるのも無理もない。
この作品は、完成度が高い。
観終わったときは大きな衝撃を受けた。

サム・メンデスは他にも作品を撮っている英国人だ。
当時英国人がここまで「アメリカの美しさ」について描いたことを賞賛する記事を読んだことを記憶している。
彼は極端に画面をきれいに撮りたがる。
それはこの映画の魅力を十二分に引き出す特性であることを思い知らされる。
「ロード・トゥ・パーディション」なんていう映画を撮らなきゃ良かったのに。

▼以下はネタバレあり▼

この作品の登場人物は、当時(1999年)のアメリカの典型的な人間たちだ。
リストラにかけられそうな夫に、仕事をバリバリこなすことでキャリアを必死で築き上げ、貧しかった子供の頃を買い占めるように高級家具を買う妻。
あまりの物的裕福さに心の幸福が見えなくなっている「普通の」娘。
兵士であることを誇りに思うとともに、そのために精神的な「ひずみ」を持つ男、
マリファナを売りさばくその息子(彼が手に持って趣味にしているのはビデオ・カメラ)。
夫のDVで自閉症になってしまった兵士の妻。
「普通」を極端に恐れるアイデンティティを失いそうな少女。
そのほか、ゲイのカップルや、日常に不倫や銃が浸透しているアメリカ社会を見事なまでにひとつの物語に仕立て上げている。

不倫相手とセックスしながら、「これよ! これが私に足りなかったことだわ!」と叫ぶ妻キャロリンはとてもコミカルに撮られているが、心底笑えるアメリカ人は少ないだろう。
これは物語すべてにおいていえることだ。
とてもコミカルに、滑稽に描かれている人間たちはアメリカという社会を典型的に表したもので、
どこか笑えないシリアスな問題を含んでいる。
(実際には)どこにもいないキャラクターをどこにでもいそうなキャラクター性を持たせつつ、描ききったところにこの映画のすごさがある。

たとえば、アンジェラと知り合うきっかけになった、チアガールの舞台を見に行く二人が車の中で会話する内容。
「見に行ったらきっと怒るよ。娘は僕を嫌っているんだ」
「だから見に行く必要があるんじゃないの。
今のあなたとジェーンにはそういう時間が必要なのよ」
「君だって嫌われているよ」
娘と父親が仲が悪く、その仲を取り持つという名目で夫を連れ出す妻だが、本当は母親としての自分も娘との距離を測りかねている。
キャロリンはそれを認めたくない(判っていても確認したくない)。
だから父親のせいにして娘の晴れ姿を見に行くのである。
非常に人間臭く、わかりやすい考え方だが、ここに既に家族間のコミュニケーション不足の典型を見ることができる。
夫婦のこれまでの関係を、一気に悟らせてしまうような上手い場面である。

結末までの流れを自然に展開させた、ストーリーもまたすごい。
全てが偶然でありながら、全てが必然なのだ。
しかもそこに登場するアイテム(物語の要素)は、アメリカの日常。
もしかしたらアメリカでこんな事件が今にも起こりうる(でも起こらない)、
そんな「こわさ」をもっているから、おもしろい。

真っ赤な薔薇の描き方も上手い。
真っ赤な薔薇の花びらは、言うまでもなく登場人物の「しあわせ」の象徴だ。
そしてビデオ・カメラでリッキーが撮り続けた「美」でもある。
レスターの死に顔をみて、興味のまなざしを向けていたのは、そこに究極の完成された「美」、即ち「しあわせ」を見たからだ。
花瓶の薔薇をカメラが切り替わっても捉えられ続けるのは、「幸福はすぐそばにある」ということ暗示をしているのだろう。
彼らはその薔薇を気づくことなく、たびたび意見を衝突させるのである。

妻はせっせと薔薇を育てている。
しかし、その「美しさ」には一向気がつかない。
その冒頭のシーンにこの家族の「不幸」があらわれている。
幸せを作る努力はしているが、そのすばらしさには家族は誰も気づかないのだ。

そして音楽も上手い。
一度映画をみると印象深く残る。

非常にいい映画だと思う。
完全に自分の役にしている役者たちも、賞賛されるべき人々だ。

(2003/10/8執筆)

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