secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

アイ・アム・サム(V)

2009-03-10 18:04:35 | 映画(あ)
評価点:91点/2001年/アメリカ

監督:ジェシー・ネルソン

泣けます。泣いてください。そして読んでください。

サム(ショーン・ペン)は、七歳程度の知能しか持たない。
そんな彼に、生まれたての赤ん坊を押し付けて母親は蒸発。
仲間に支えられながら、一人娘のルーシー(ダコタ・ファニング)を育てることになる。
そしてルーシーが父親の知能と同じ、七歳になるとき、彼女はサムの知能を追い越してしまうことを恐れ、成績不振に陥ってしまう。
事態を重く見た教師は、家庭裁判所にサムの親権停止を申し立てる。
ルーシーとともに暮らしたいと願うサムは、売れっ子弁護士のリタ(ミシェル・ファイファー)の事務所に押しかける。
しかし、彼女は無銭で弁護を引き受けるような性格ではなかった。

これは泣ける。
公開当時、「いかにも」という設定だったために観にいかなかったが、これは泣ける。
映画館に行けばよかったと、見終わったとき後悔してしまった。
「デッドマン・ウォーキング」で難しい役柄を見事にこなしてしまったショーンだが、この映画では、さらに難しい役柄に挑戦している。
そして弁護士役のミシェル・ファイファー。
彼女が非常にいい。
いい映画をみて、久々に本気で泣いてしまった。
そして、何度観ても泣ける、そういう映画だ。

▼以下はネタバレあり▼

七歳程度の知識しかないサムは、スターバックスでコーヒーも入れさせてもらえない。
当然、置き去りにされてしまった一人娘を、一人で育てることは不可能。
彼は、同じ知的障害者仲間や、向かいのビルのアニーに協力を求めつつ育てる。
そして当然きてしまう、運命の日。
娘が七歳になり、父親の知能を超える日である。
父親に引け目を感じ、彼女の学習に支障をきたすまでになったとき、子どもを取り上げられてしまう。
この流れがきちんと描かれているため、終盤、脇役まで感情移入しやすいようになっている。
また、比較的情報量の多い設定を速い展開でみせていくことになったが、うまくみせたことによってスムーズにつながっている。
それでも上映時間が長くなってしまったのが残念ではあるが。

そして取り上げられたあと、リタとともに戦う展開がこれまた非常にいい。
ただ「子どもを取り返す」で終わらせていないのがすごい。
サムをはじめ、アニーやリタの心の不安や、悩みと向き合っていくという
もうひとつの「戦い」が描かれている。
アメリカの映画であるため、誰もがハッピー・エンドになるであろうことは読めてしまう。
そもそもこういった映画はハッピー・エンドでなければ、希望もない。
そんなことは、映画を観ている誰もがわかっていることである。
問題は、どう戦うか、どうハッピー・エンドにするか。
観客は殆んどそこに注目している。

そういう意味で、自分の解決すべき、向かい合うべき問題に登場人物を立ち向かわせたことは大きい。
娘を心の底から愛しているサムは、自覚している知的障害によってルーシーを本当に育てられるのかという不安をかかえている。
リタは、「勝つ」ことしか許されない弁護士の中で成功を収めたが、その反面、夫や息子を犠牲にし、「毎日敗北感を味わっている」。
アニーは、サムに子育てをアドバイスするという面をもちながら、父親に虐待され対人恐怖のために、家から出られないという問題をかかえている。
里親になった夫婦も、ルーシーを愛しているにもかかわらず、どうしても懐いてくれない「娘」に、悩んでいる。
本当に戦うべきものを、サムとルーシーの問題を通して見出させていくことで、ただ「子どもを取り返す」という勝利以上に、「問題」の解決を大きなものにした。
それぞれの問題を提起することによって、解決したときのカタルシスは、非常に大きなものになる。

知的障害者と親権という大きな問題を、映画的に綺麗に終わらせたことは、現実としての解決策を見出したとはいえない。
しかし、観るものに希望を与えるという意味ではすばらしい映画だと思う。

この映画で絶対に言わなければならないこと、それは音楽だ。
ビートルズのカヴァーが非常にいいのである。
また「ヘルプが必要なんだ(I need your Help!)」という台詞や、横断歩道を横切るシーンなど、ビートルズをモティーフにしたシーンが数多く登場する。
耳に残る軽快で気持ちいい音楽がなければ、この映画がこれほどまでに記憶に残るものにならなかっただろう。
また、知的障害という通常、感情移入しにくいキャラクターに、「ビートルズが好き」という特徴を持たせることによって、登場人物と観客とをより近い距離にしたことはいうまでもない。

(2003/10/8執筆)

これは本当にいい映画だ。
これは、周りの人に文句なしに、安心して勧められるという意味においても、良い万人受けする映画だ。
ダコタ・ファニングは、かわいそうだけれど、この映画を越えることはできないかもしれないな。
もし、この映画を越える名作と出会うことができれば、それが彼女の「女優」としてのスタートになるだろう。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« アダプテーション | トップ | アメリカン・ビューティー »

コメントを投稿

映画(あ)」カテゴリの最新記事