secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

ハウス・オブ・グッチ

2022-01-21 19:28:20 | 映画(は)
評価点:74点/2021年/アメリカ/159分

監督:リドリー・スコット

すべてがハイセンスな、愛憎劇。

イタリアで運送会社の事務で働いていたパトリツィア(レディー・ガガ)はパーティーで出会ったマウリツィオ・グッチ(アダム・ドライバー)と恋に落ちる。
高級ファッションブランドとして大成していた父親のロドルフォ・グッチ(ジェレミー・アイアンズ)は猛反対するが、二人は結婚する。
しばらくは絶縁状態だったが、グッチ再建をもくろむ叔父のアルド(アル・パチーノ)は、ロドルフォと復縁するようにマウリツィオに持ちかける。

巨匠といえるリドリー・スコットが撮ったグッチ一家の愛憎劇だ。
ファッションに明るい人なら、史実を知っているだろうから驚きはなかっただろう。
何も知らないなら、純粋に物語として楽しめば良いだろう。

アダム・ドライバーの演技がすばらしい。
キャストやファッションに興味がないなら、あまり楽しめないかもしれないが、良い作品であることは確かだ。

ちなみに、家にあるグッチをもって鑑賞しようと、家中をあさったがどこにもグッチはなかった。
そらそうだ、私は一つもグッチは持っていないのだから。

▼以下はネタバレあり▼

グッチというトップのファッションブランドを題材にしているが、ほとんどグッチというブランドそのものは描かれない。
むしろ、タイトル通りグッチ家について描かれている。
だからグッチのバッグがほしくなるとかそういう効果はなさそうだ。
おもしろいのは、ほとんどファッションについて描かれていないのに、稀有なくらいファッショナブルであるという点だ。
画も、音楽も、テンポも、すべてがかっこいい。
もちろん登場人物たちの服装も、持ち物も建物もすべてが美しい。
これはすごいことだと思う。
映画自体が、グッチの世界だからだ。

物語はとてもわかりやすい。
そして、史実に基づいているのに劇的な物語ではあるが、話はとても下世話で低俗だ。
日本の世界びっくりニュースのようなバラエティー番組に出てきそうな題材ですらある。
しかし、それを映画までに昇華している点が、やはり稀有なのだ。
紛れもなくこれはテレビ番組ではなく映画なのだ。

「ハウス・オブ・グッチ」というタイトルだが、「そして誰もいなくなった」というタイトルでも通用する。
グッチ家という名前に翻弄された者たちが自分だけは生き残ろうと画策することで、結局だれもグッチ家の人間がグッチというブランドからいなくなる物語だ。
主演のレディー・ガガのインタビューが素晴らしい。
彼女はパトリツィアのファッションについて、マウリツィオと結婚する前が猫、離婚するまでが狐、離婚後は豹をイメージして衣装を合わせた、と語っていた。
まさにその通りで、彼女はその相貌も変えていく。
その変貌ぶりを見るだけでもこの映画は価値がある。

彼女のおかげで、資産を巡る攻防というよりは、愛憎劇になっている。
このあたりはミュージックビデオで他の追随を許さないレディ・ガガならではだろう。

だから、この映画はお金持ちになりたかったのになり損なった者たち、というような単純なやりとりではない。
むしろ、権力、金、名誉、愛、すべてを巻き込んだグッチ家という覇権争いなのだ。

もちろんそれ以外のキャストも素晴らしい。
アダム・ドライバー、ジャレット・レト(「ミスター・ノーバディ」の人)、アル・パチーノ、ジェレミー・アイアンズ(「ダイ・ハード3」のサイモン)……。
皆が欲望に駆られていく姿は、一つのストリームであり、一つの運命を感じさせる。
脚本も重要な部分をしっかりと切り取って、まさに映画にしている。
無駄に見えた占い師とのカットも、導かれていく嘱託殺人への伏線になっている。

ただただ絶賛するほどの映画でもない。
一つはやはり言語だ。
イタリア語と英語の類似性は私にはわからない。
日本の方言のほうが、欧米圏のそれぞれの言語の差異より大きいと聞いたことはある。
その考えで言えば、イタリア語風の英語で話すと言うことは、大阪弁ふうの東京弁を話すと言うことだ。
そう、めっちゃ気持ち悪いのだ。

もっと分かり易く言えば、中国語に似せた日本語で中国を舞台にした日本映画を撮るということだ。
これはかなり色んな意味で危険であることがわかるだろう。
私は英語やイタリア語ができないので、「そういうものか」と思ってしまうが、時おり「グラッチェ」とか言われるとそれまでの英語はなんだったのか、と思ってしまうわけだ。
イタリアの素晴らしい街並みや情景を映されれば映されるほど、ここがイタリアでありアメリカではないことが明確になる。
やはり違和感を拭い去ることができない。

よければよいほどこういうところが残念に思えてしまう。
映画館を後にした私は、すっとグッチの店に入ると見せかけて素通りしたのは言うまでもない。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« クライ・マッチョ | トップ | ユヴァル・ノア・ハラリ「2... »

コメントを投稿

映画(は)」カテゴリの最新記事