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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

リディック

2008-11-30 21:26:25 | 映画(ら)
評価点:9点/2004年/アメリカ

監督・脚本:デビッド・トゥーヒー

銀河系、最低。

銀河はロード・マーシャル(コルム・フィオーレ)という狂信的な指導者のもと、
エクロモンガーという集団によって支配が進められていた。
一方、リディック(ヴィン・ディーゼル)は銀河の極悪人。
ある日賞金稼ぎから命を狙われる。
その雇い主がヘリオン第一惑星にいると知ったリディックは、ヘリオンに向かう。
しかし、かつて平和であったヘリオンも、ネクロモンガーによって圧倒的な攻撃を受けていた。
ロード・マーシャルにたどり着いたリディックだが、賞金稼ぎにつかまってしまい、銀河最悪の刑務所の一つ、クリマトリアに連行されてしまう。

敢えていい訳をさせてほしい。
本当は「華氏911」を見る予定だったのだが、見たい回が満員で、急遽予定を変更した。
「サンダーバード」「シュレック2(吹替)」「キングアーサー」、そして「リディック」という選択肢の中、
どれもつまらなさそうだったので、役者(ヴィン・ディーゼル)に思い入れのある、「リディック」を選択したのである。
観る前から、どれを選んでも結局後悔することになるのは分かっていたが、まさかこれほどまで最悪な映画にぶち当たることになるとは。

この映画は、「ピッチ・ブラック」という映画の続編に当る。
前作は残念ながら見ていない。
しかし、CMで続編である事を全くアピールしないことから察するに、単体で勝負できるような映画になっていると予想して観た。
要するに、それが全く外れてしまったわけなのだが。

▼以下はネタバレあり▼

これほど、ほめるところが見つからない映画も珍しい。
上映時間五分で眠くなる映画も珍しい。
おすぎが、ファーストシーンがすばらしい映画はいい映画だと言っていたので、どこがその「ファーストシーン」かずっと探していたが、結局見つからずに終ってしまったようだ。

どこからけなそうか。
まず、人物設定が全く理解できない。
リディックは銀河系最悪の極悪人であるという設定。
しかし、どのあたりが極悪人なのか、よく分からない。
少なくとも劇中、特に悪い行動に走ったという場面はなかったように思う。
言っていることは、確かに悪そうなことを言っていたが、それで銀河系最悪の極悪人になるわけではないだろう。
その極悪さが、見受けられないという点で、この主人公に感情移入できない。
あの眼がカッコ良くないことも、その原因の一つだろう。
寧ろ、表情がないのでチョット気持ち悪い。

SFなので、多少の人間性の捨象やデフォルメは許容範囲だが、そのキャラクター性が全く描かれないため、怖さもないし、痛快さもない。
この時点で、すでに物語に入っていく事はできない。

勿論、その人物設定の甘さはその他の登場人物にも言える。
ヒロインの位置付けになるキーラの設定もよく分からない。
過去に助けられたという話をしているが、具体的ではないので、彼に対してどのような感情があるのかつかみにくい。
またかつてジャックと名乗っていたにもかかわらず、あった途端「ジャックは死んだんだよ」と言われてしまう。
じゃあ、お前はなんなん?
というツッコミを入れたくなるのは無理はない。

敵であるロード・マーシャル、予言者的な立場にあるエアリオン、ロードの下で働くヴァーコ、その妻デイムたちも全然分からない。
前作を見ていないから分からないのかもしれないが、それにしても全く分からない。
ロード・マーシャルは、大量の兵士たちを束ねるに相応しい者なのか、よくわからない。
魂を奪うという攻撃方法自体が、突拍子もなく説得力もない。
エアリオンに至っては、予言する人物という以外の設定が見えない。
なぜフワフワしているのか、その予言の持つ意味は何なのか(なぜそんなにその予言が重たいのか)、
そもそも、お前は誰なのか。
(いきなり登場してくるなよ、と言いたい)

もっと分からないのが、ヴァーコとその妻である。
それについては、オチとの関係が深いので後に回そう。

登場する人物が、ことごとく不安定な設定しか掴めない。
よって感情移入する相手を失い、物語に入っていくことができなくなっている。

人物設定だけではなく、世界観などの設定も曖昧でよく分からない。
物語の半分近くを占める刑務所の設定が皆無である。
よって、どういうシステムで閉じ込められているのか、よく分からない。
だから脱獄の方法が明かされても、あまり驚かないし、何の感情も沸かない。
犬が放置されている意味もよく掴めない。
CGで犬のデザインが出来上がったから、
作品に盛り込んでみた、というような印象さえ受けてしまう。

ネクロモンガーたちのシステムも分からない。
普通の人間たちを、「改宗」することによって味方にしていくという方法が、物語の効果的な演出になっていない。
どうせなら、リディックにとって味方だったものが、敵となって襲ってくる、そして殺してしまわなくてはならなくなる、といったシチュエーションを作ればよかった。
ラストのキーラだけではあまりに弱い。
だから、「改宗」というシステムがたいして怖くないのである。

世界観自体も、「スター・ウォーズ」シリーズや「スター・ゲート」、「スターシップ・トゥルーパーズ」などを、足して百くらいで割ったような見た事のある世界。
これで観客を楽しませる事はできない。

また、その描写がCGの厚塗りであり、「CASSHERN」の再来を予感させる。
過剰で異常なCGでの世界観の描写は、嘔吐感さえ覚えさせる。
遠近がきちんと計算されていないため、壮大なカメラを引いた画も、CGの作り物くささを強調するに過ぎない。
兵隊にしても、なんにしても壮大な様子を見せたいなら、近から遠へというアングルの変化が必要だった。
例えば、リディックが必死に五、六人を倒す。
しかし兵隊はもっといて、カメラが引いていくと、その壮大さがわかる。
というような使い方で壮大さを見せるならともかく、いきなり引いた巨視的なアングルから映してしまうと、コピー・アンド・ペーストした様子が強調されるだけだ。

CGが裏目に出ているのは、世界観の描写だけではない。
ヴィン・ディーゼルの肝であるアクションでも足を引っ張っている。
何もかもめちゃくちゃでも、アクションさえよければどうにでもなる。
それがアクション・スターの出る映画である。
この映画にはそれがない。
CGで描かれたアクションしかないのである。
勿論、それも十分見所になりうる。
しかし、ヴィン・ディーゼルというアクション・スターは、肉体を使ってナンボの役者である。
そのためのゴツイ筋肉である。
にもかかわらず、本作のアクションはCGによる小手先のアクション。
これではディーゼルの良さもかすんでしまう。
むしろ筋肉がありすぎて、逆にワイヤーなどのアクションは違和感がある。
しかも、その質・量ともに、下の下。
殆んどアクションらしいの見せ場がない。
だから、観客はどこをみればいいのか、もうお手上げになってしまう。

そして、ストーリー。
ストーリーも、盛り上がりに欠ける設定に輪をかけている。
一人の悪人 対 大軍団の兵士たちという戦いを、思い描いているはずなのに、その激突は全くない。
物語の大半が刑務所の中というストーリーに、正に閉口である。
しかも、そこでもアクションが見せ場にならずに、日の出との戦いという、「アルマゲドン」の掘削作戦のときに見たような「楽しい」見せ場が用意されている。
それも、雪が降って寒いところを走っている(夜)と思ったら、いきなり太陽が襲ってくる(日の出)という指針のないものだから、今、どういう状況にあって、どれくらいで着かなければならないのか、という点が曖昧になっている。
そんな不透明な状況で興奮しろ、というのは、無理難題である。
(しかも、その後リディックが目覚めた後、敵の側近がフューリア人であることを告げ自殺する。
全然「改宗」出来ていないじゃん! と思わずつっこんだ後、さらに「何で死ぬんですか?」と連続でつっこまないといけない。)

いよいよ帰ってこれたと思ったら、今度は、兵士に化けてロード・マーシャルの目前まで入り込んでしまう。
何のための大量の兵士なのだろうか。
変装一つ見破れないのでは、防御として破綻している。
そして、あれよ、あれよという間にクライマックス。

オチまでの伏線はかなりあった。
「生き残った者が受け継ぐ」という掟をことさらに強調していた、というのはある。
しかしそれが、「観客が一番楽しみにしていたクライマックスまで奪う」という伏線であるとは、誰も気づかなかったに違いない。

それまで、散々、ヴァーコとその妻のやりとりを見せることで、
ロード・マーシャルとの戦いの後は、このヴァーコと闘り合うのだと誰もが確信する。
肉付きのいい体格をしているヴァーコとのラストボス戦、楽しみだ。
と期待するのが普通だろう。
いわば、それが〈ご馳走〉である。

ロード・マーシャルとの戦いも、意外とあっさり決着。
これでいよいよ……と思っていると、終了。
「生き残った者が受け継ぐ」
確かにそうなのだが、では、ヴァーコはそれに納得したのですか?
あれだけ引っ張っておきながら、クライマックスをなくしてしまうというのは、憤りさえ感じる。

勿論、そういう終り方をしてもいい。
完全に映画のセオリーから逸脱しているが、撮り方によっては良くなるだろう。
例えば、「ターミネーター3」のように、やたらと前半に見せ場を作っておけば、衝撃的なオチにも、ある程度の満足感がある。
少なくとも、冒険をした、という評価を与えることができる。

しかし、それまで殆んど、見せ場らしい見せ場もないのに、衝撃的なオチを用意すると、拍子抜けしてしまう。
ディザスター映画で、ディザスターが来ないのと同じだ。
あるいは、ジェット・リー主演の映画で、ボスが闘わずに心不全になって死んでしまうくらい、拍子抜けである。

世界観、人物設定、アクション、オチ(ストーリー)、CG、どこをほめればいいのか、本当に分からない。
苦痛との二時間。
睡魔との二時間。
僕には、この映画を良いと言えるような言語を持ってはいない。

(2004/8/27執筆)

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