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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

レッド・スパロー(V)

2024-01-05 17:06:48 | 映画(ら)
評価点:37点/2018年/アメリカ/140分

監督:フランシス・ローレンス

もう何もかもむちゃくちゃ。

ロシアのバレエ団で主役を務めていたドミニカ(ジェニファー・ローレンス)は、ある日アクシデントで右足に重傷を負ってしまう。
失意にくれるドミニカは、体の悪い母親の面倒をバレエ団に依存していた。
その弱みを知った叔父のワーニャは情報局の高官だった。
彼はドミニカを陥れたバレエの同僚のやりとりを伝え、彼女にスパイとしての才覚を見いだす。
何もかもを失ったドミニカは、ロシアでも最も厳しいスパイ養成機関に入れられる。
そして、ロシアのエージェントとしての一歩を踏み出すことになる。

ジェニファー・ローレンス主演のスパイアクション。
ジャンルとしては、いわゆる女エージェントが鍛えられてミッションをクリアしていく、という例のアレである。
AVA エヴァ」、「ANA アナ」など。
やはりアマゾンプライムで、そして何の予備知識もなしに見てみた。

同種の作品の中でもかなりひどい部類に入るので、まったく見る必要はない。
主演の俳優にひかれるか、よほどおもしろくない映画を見たいくらい時間に余裕があるかなど、特殊な事情の場合意外はおすすめできない。
これを見るくらいなら、「ニキータ」を見直す方がよほど人生において有用である。
それでも見てしまったという人は、下の批評でも読んで慰め合おう。

▼以下はネタバレあり▼

もはや何を見所として説明すれば良いのかわからないほどひどい作品である。
スパイとしても、アクションとしても、ストーリーとしてもどれ一つ面白みはない。
ジェニファー・ローレンスの裸を拝みたいという人以外は、まったく無用な作品である。
しかもその裸も、べつにそれで二時間も耐えられるほどのものでもない。
さらに言えば、その裸の見せ方もひどいものである。

というこの四行でほぼ説明は終了してしまうほど中身がない。
だが、それでは2024年一発目の映画批評の記事としてふがいないので、つらつらとひどい部分を書き連ねよう。

まず、ロシアを舞台にした映画であるのに、英語が主言語となっている。
アメリカ映画なので仕方がないと言えばそうだが、これはまったくもって説得力がない。
いわば、日本人がオール日本語で中国人を演じるようなものだ。
しかも題材はスパイ映画であり、アメリカCIAを相手にとって攻防を繰り広げる展開である。
言語の壁はどこにいった?
これは誰にとっても不自然極まりない設定になってしまった。
だからまったく話が入ってこない。

さらに、ジェニファー・ローレンスの設定に無理がある。
ロシアの一流バレリーナにはとうてい見えないほど豊満である。
最新の国際世論を意識する私は、断じてルッキズムなるものを許しがたいが、それでもこの点は不自然すぎる。
あえて、その設定である必要は、この後の展開を考えても不要であった。
すくなくとも駆け出しの女優、舞台俳優くらいでもよかったのではないか。

その彼女の内面がその後もほとんど描かれていかない。
彼女はどんな人間で、何を目的として生き、どうなりたいのかがわからない。
ラストで、叔父を裏切る姿を見せられても、カタルシスが極端に欠如してしまうのは、そのためだ。
叔父に恨みを抱いているのか、感謝しているのか、どちらにでもとれるように描かれている。

この後彼女にはどんな運命が待ち受けているのか。
結局搾取されるという点では何も変わらない。
誰も救えていないし、何も状況は変わらない。
復讐したように見えて奴隷であることに変わらない。
それなのに、叔父を陥れるための用意周到な計画は、彼女にとって「切り札」と言えたのか。

なにより、叔父に対する恨みがそれほど強いとはどこからも読めないだろう。
彼女を都合のよいように作り上げたと言っても、母親を世話したことには変わりない。
むしろ、どこにも怒りのやり場がなかったから、無理に叔父に対する恨みを募らせていったような、ゆがんだ思いさえ見えてくる。
そうなると彼女がもつ倫理観・人生観が、非常にヒステリックで特殊なものにさえ見えてくるのだ。

もちろんナッシュに感情移入することも難しい。
ひたすらに仕事に徹する姿を見せる彼の行動は、人間味がない。
アメリカには自由がある、というよりも、アメリカもロシアも同じである、という描き方になってしまっている。
ドミニカが、今の生活とどう変わるのか、とナッシュに詰め寄るシーンがあるが、まさにその通りなのだ。

出てくる登場人物全体に、人間味がなさ過ぎて、ただコマのように動く登場人物にすぎない。
その不自然さに加えて、必要以上にエロティックで、残酷描写が多い。
過剰な緊張感を観客に強いるわりには、「抜きどころ」がない。
しかも、物語の筋やテーマがいまいち見えてこない。

これでおもしろくなるはずがない。
同工異曲の女スパイものが量産されているが、キャストよりも重要なことがあるようだ。

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