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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

ライオン・キング(V)

2021-01-09 09:16:07 | 映画(ら)
評価点:55点/2019年/アメリカ/119分

監督:ジョン・ファブロー

「仏作って魂入れず」

サバンナの王、ライオンのムファサに子どもシンバが生まれた。
サバンナは喜び宴を催したが、ムファサの弟スカー(傷の男ではない)はそれを快しとしなかった。
物心がついたシンバをそそのかし、サバンナの禁忌であるゾウの墓場に連れて行く。
シンバとその幼なじみナラ(奈良ではない)は、ゾウの墓場を縄張りにしていたハイエナたちに襲われたところを、ムファサに救われる。
そして、ハイエナたちと結託したスカーは、再び計略を立て、見事ムファサを死に追いやることに成功する。
失意のシンバはサバンナを去り、オアシスに辿り着く……。

1994年に公開された「ライオン・キング」のリメイク。
今回はほとんど実写ではないか、と思えるほどのクオリティの映像が用いられている。
子どもと年末年始に見る映画を探していたところ、思い立ったのがこれだった。
リメイク前の1994年版のそれは、私は親戚の人に連れて行ってもらった記憶がある。
ディズニーはほとんど食わず嫌いだったが、見ることにした。
(そうでなければずっと見ないだろうから)

ディズニー好きではない私がこの映画を見たので、そのあたりは勘弁していただきたい。
見ながら、下の子がちょっかいをかけてきたりおねだりしてきたりしたので、集中してみたわけでもない。
けれども、十分鑑賞した環境と言える状況だったので、批評にした。
的外れだったら、ごめんなさい。

▼以下はネタバレあり▼

こういう大作のリメイクは非常に安全な商業主義的な手法だと言えるのだが、逆になぜこのタイミングでリメイクしたのかというコンセプトが見えなければオオコケする(批判の嵐になる)可能性もある。
だから、難しい。
映像技術が高まったから、今このタイミングでリメイクしました、というのでは到底観客は納得しない。
名作で、みんなが大好きであればなおさらだ。
あのとき見た感動を、同じ筋で描かれても今は感動できない。
それは、「あのとき」ではなく、あらゆる感動を経験した後の「いま」だからだ。
だからとてもリスキーといえるのが、大作のリメイクなのだ。

そして、その不安は的中するわけだ。

この映画で言えるのは、どんなに映像技術が高くても、いま、ここで描きたいものがそこになければ、名作にはならないということだ。
名作、といわなくても良い。
感動を与えることはできないのだ、ということを示した好例と言える。

筋は余り覚えていないのだが、基本的にはリメイク前と同じだ。
カット割りや尺の長さまで同じなのかは知らないし、そんな分析をするつもりもない。
おおよその流れは同じだろう。

だが、それならなぜ今同じストーリーを見せるのか、という点が必要不可欠な部分であると思うのだ。
それが感じられない、読み取れない、という点がこの映画の非常に厳しい評価にならざるを得ない点だ。
たしかに、トランプとか世界のリーダーのナショナリズム化への警鐘、といえば「ライオン・キング」に見出すことができるのかもしれない。

しかし、それにしてもキャラクターに厚みがない。
サバンナの王であればこういうキャラクターがありがちだろう、というようなステレオタイプから抜け出せていない。
それをアニメでは気にならなかったが、ほとんど実写のような映像になった時に、違和感が大きくなる。

リアルなライオンのような動物が喋るのはまだ大丈夫だ。
しかし、リアルな世界にあるピラミッド型の弱肉強食、循環型の自然淘汰。
そういう知識と無邪気な物語との親和性が悪いということを、リアルな映像は問いかけてしまう。
図鑑でさまざまな様子を見ている6歳児にもそれは感じられることだろう。
リアルであればあるほど、こんな世界は作り物だ、こんな物語は恣意的だと感じられてしまうのだ。
素晴らしいライオンが王であればサバンナに自然は戻るのか。
ハイエナはそこまで卑俗な動物か。
シンバの心変わり、成長のきっかけが強引すぎる…。

それは映画が企画された段階で気づきべきだった、予想されうる違和感だった。
アニメ「ライオン・キング」の世界観は、アニメであるからこそ通用する世界なのだ。
ちょうど、アニメを実写化した時に感じられる不自然さと似ているかもしれない。

だからこそ、問われることがある。
なぜリメイクしたのか。

その点に対して答えられない作品を作っても、それは空虚な焼き直しでしかない。
人物達を掘り起こし、物語の本質を捉え直し、大幅に物語の構成を再構築する。
そういう解釈や変更をすることが擬実写アニメ化には最低限必要だったように思われる。

映像だけで人を感動させる時代は20年も前に終わっている。
私にはこの映画は、大好きだった物語だけに、残念に思われる。
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