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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

アウトロー

2013-02-25 18:45:13 | 映画(あ)
評価点:59点/2012年/アメリカ/130分

監督:クリストファー・マッカリー

強い主体、彼と対峙するのは。

川のほとりにあるスタジアムに集まるのどかな平日、いきなり6発の銃弾で5人の男女が殺された。
犯人は、退役軍人の狙撃手ジェイムズ・バー(ジョセフ・シコラ)。
彼の手作りの弾丸と、指紋が残されたコインが駐車場の機械から押収されたからだ。
逮捕されたバーは事情聴取のサインの代わりに、大きく「ジャック・リーチャー」と書いた。
黙秘する男に閉口する捜査官たちの目の前に現れたのは、ジャック・リーチャーと名乗る、元陸軍の憲兵(トム・クルーズ)だった。

アメリカでベストセラー小説の「ジャック・リーチャー」の映画化作品である。
タイトルが「アウトロー」なので、どうしても印象はアクションばりばりで人を殺しまくって解決するような話に聞こえてしまう。
そうではなく、実際には様々な証拠から犯人を割り出していくという頭脳派のキャラクターである。

よって、どちらかというとお気楽映画というよりは、本格派サスペンスという趣に近い。
ちょっと目を離すと演出のうまさに気づかなかったりする。
目の肥えた映画ファンにお似合いの映画かもしれない。

▼以下はネタバレあり▼

この「ジャック・リーチャー」は新たなヒーロー像として売り出したいというのが本音らしい。
だったら、「アウトロー」なんていうわけの分からない日本語タイトルは止めておいたほうがよかったのに。
予告編をもう少しうまく編集すれば、監督が作ろうとした雰囲気を正しく伝えられただろうにと、ちょっと心残りの作品だ。

新たなヒーロー映画。
ヒーローとはどのような者をいうのだろう。
大金持ち? 身体能力に長けたもの? 宇宙から来た兄ちゃん? 胸にリアクターをつけた男? それとも……。
言うまでもなく、ヒーローはその時代によって変わっていくものだ。
ある時代はお金持ち、ある時代は超人的な肉体を持ったもの、ある時代は優れた知将という具合に。
共通点は、その時代に欠如しているものを有している者、といえるだろうか。
ないものねだりをするのが民衆は好きだ。
お金持ちが慈善事業のようにヒーロー活動をするのはその典型だと言える。
アメリカには、金持ちはマフィアのように腹黒い連中ばかりだと思っている節があるからだ。

このヒーロー、ジャック・リーチャー(どうしてもチャーリーと打ちたくなる)は、得たいが知れない。
退役軍人で、元憲兵。
犯罪歴がなく、どこに住んでいるか、どうやって連絡すればいいかもわからない。
記録のない、人物である。
彼の特殊な能力は、鋭い洞察力と、身体能力である。
それも超人的というよりは、「並外れている」程度である。
では、彼のヒーロー性はどこにあるのか。
それは、人びとが急速に失いつつある、「主体の強さ」である。
彼は一度決めたことはやりきる強さを持っている。
意志の強さ、覚悟の強さ、自分が信じる正義を貫く強さである。

メディアの発達やサービスの発達によって、人びとは多くのことに対して「楽ができる」ようになった。
自分で考えなくてよくなったことが増えたたことで、人間としての「主体」「個人」の力が弱くなってしまった。
電話番号を10も20も覚えていられたのに、今では自分の携帯電話番号も危うい。
それは、主体が弱くなってきていることの好例だ。

そんな時代にあって、ジャック・リーチャーは強い主体性を発揮する。
男にすがってしか生きられない少女は、リーチャーに咎められて答える。
「私にはこれしかないもの」
リーチャーは「街を出ろ」と告げる。
何もできない少女は、私たちそのものだ。
一度はまり込んでしまった生き方を、自分の意志の力だけで動かすことは難しい。
事務処理能力なのか、美貌なのか、パーマをかける技術なのか、服を売るトークなのか、それは別にして、あの少女と私たちは何も変わらない。

だから、かっこいい。
これだけ自由になった世界で、自分の家に縛り付けられて生きるしかない現代人にとって、自由に記録の残らない生き方ができるリーチャーに魅力を感じずにはいられない。

しかし、だからこそこの映画はあまり乗れなかった。
なぜなのか。
敵となるゼック(ヴェルナー・ヘルツォーク)が全然見えてこないからだ。
強い主体性をもつヒーローに敵対するのは、やはり主体性のないものでなければならない。
その典型がコンピューターなどだろう。
べつにコンピューターでなければならないとか、暴走した組織でなければならないとか、そういうことが問題なのではない。
ヒーローに対する対比があまりにも弱いということだ。
自分たちの利益のために、銃乱射殺人事件をでっち上げたということに怒りを感じることはできる。
けれども、それがリーチャーが扱うべき事件だったのかといわれると、ちょっとすっきりしない。
もっとありていに言えば、抽象的なキャラクター像しかないリーチャーに感情移入しにくいのに、敵がはっきりしないので余計に物語に没入しにくいのだ。

視点人物として用意されている弁護士のヘレンにも感情移入しにくい。
リーチャーがなぞを解いていくシークエンスが多く、彼女がスクリーンを占領する時間的な量が圧倒的に少ないからだ。

演出はやはり見事だ。
ユージュアル・サスペクツ」の監督・脚本のクリストファー・マッカリー監督である。
ミスディレクションというほどの劇的な演出はないものの、しっかりと観客たちも謎解きに参加することができる。
意味深に何度も繰り返されるコインパーキングの支払い機や、駐車場にある逆光の様子など、映像にある伏線を読む楽しさがある。
この映画の本当の面白さは、こういった映像の仕掛けだろう。
知的で、非常にスマートだと感じさせる。
私は見ながら、これはどちらかというとイーサン・ハントではなく、江戸川コナンだな、と感じた。
あ、ごめん、もちろん、コナンよりも数段大人向けですけど。
(あ、コナンを馬鹿にするつもりもないんですけど)

物語中盤までは、わくわくさせられながら、物語を体験することができた。
そう、ちょうど物語の中核に潜む悪が、ゼックであることが見えてくるまでは。
そこから急に雑になっていく。
顕著なのは、射撃場を営むキャッシュ(ロバート・デュヴァル)が出てきたあたりからだ。
捕らえられたヘレンを救うために、いきなり登場し、バンバン敵をやっつけてしまう。
彼の動機がイマイチよくわからないし、それにしては重要な役どころだし、きわめて雑い。
それまでが丁寧に真相を暴いていただけに、「結局はそういう終わらせ方をするのね」というがっくり感は大きい。

決して面白くないわけではない。
けれども、特別おもしろいかといわれると、あまり他人に勧める気にはなれない。
それでなくても、「トム」の映画は捨てるほどある。
その中でも代表作品になれるほどのインパクトはないだろう。

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2 コメント

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キャッチコピー (iina)
2013-03-07 09:14:32
アメリカでベストセラー小説「ジャック・リーチャー」の映画化作品なのに、イマイチであったのは、どうしたことでしょうか。

>は、得たいが知れない。
>退役軍人で、元憲兵。
>犯罪歴がなく、どこに住んでいるか、どうやって連絡すればいいかもわからない。記録のない、人物である。
このキャッチコピーに違和感をもちます。知れ渡っているアウトローではありませんか。しかも、誤認逮捕された者がジャック・リーチャーを名指しして、どのように当人に伝わったか?、こつ然と現れる。此処に無理があります。

しかし、それなりにたのしめました。
返信する
ヒーローなんでしょうね。 (menfith)
2013-03-09 22:17:39
管理人のmenfithです。
まだアップしていない記事があります。
しばしお待ちを。

>iinaさん
返信遅れました。
書き込みありがとうございます。

なぜ知ったのか、なぜ現れたのか。
その「わけのわからなさ」がヒーロー映画の醍醐味なのでしょう。

トムさんはたくさんシリーズを抱えているので、このシリーズはおそらく他の作品に埋もれてしまうのではないかと危惧しています。

次回作があるなら、監督と脚本次第でしょうね。
単なるアクション映画にならないことを期待しています。
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