歌手陣にもオーケストラにもとびきりの若手を集める「二期会ニューウェーブ・オペラ劇場」、今回は4度目となる鈴木秀美+ニューウェーブ・バロック・オーケストラ・トウキョウとの共演でヘンデルの最後のオペラ「デイダミーア」だ。演出・振付はこのプロジェクトではお馴染みの舞踏家中村蓉が担当した。彼女は2015年の「ジューリオ・チェザーレ」で演出家菅尾友の下で振り付けを担当し、2021年の「セルセ」では演出家としてデビューし、その大胆な演出が鮮烈な印象を与えて今回に至ったという訳だ。とにかく研修所を出て3年以内の歌手達が抜擢され、ピットもピリオド筋の学生達が中心なのでとても生きの良い音楽と舞台が展開された。中村の演出は舞踏家だけあって歌手陣にもお構なしにダンサー並の動きを要求するので、大御所にはとても務まらないであろう。言ってみればこれはヘンデルのミュージカル版だ。美術もポップで合唱もピットで鹿の角をかぶって歌ったりバルコニー席に出てきたりで効果は抜群。実に躍動感に満ちた舞台なので、退屈することが危惧された2時間20分がアット言う間だった。色合いや動きなどに子供染みた「カワイイ」処が頻出するので、好みの問題はあるかも知れないが、私は十分に楽しんだ。三幕仕立ての全曲は三分のニ程度にカットされて要領良く二幕構成になっていた。歌手達の歌や演技は良い意味でも悪い意味でも若かった。だから音楽とドラマに動きが生じる後半(第19曲以下)がとりわけ聴き映えがした。そこではアジリタの技巧が爆発して劇的な高まりをドンドン増していってこれぞヘンデルという感じだった。鈴木のピットは本物で、ピリオド楽器のバロックの音色を満喫した。こうしたセリアはハッピーエンドにすることが定石だと聞いたことがあるが、今回は戦場に狩り出された勇士達は皆戦場の藻屑と消え、残されてアキッレを待つデイダミーアの希望は無惨にも鉄扉で絶たれるという衝撃的な幕切れだった。これには今こうした状況が現実に起こっていることが想起され、拍手の手は止まり胸が詰まった。
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