オペラ芸術監督の若杉弘に、この演目をやるためにこの役職を引き受けたとまで言わせた作品の日本初演である。プロダクションは新国オリジナルではなく、アムステルダム・ネザーランドオペラのもの。幕が開くと、舞台に黒い箱のようなものが宙吊りにされており、ドラマは基本的にその中で展開される。曲は4幕仕立てとは言え、短いエピソードの積み重ねで構成されており、テキパキとした場面転換で飽きる暇を与えない。音調は、現代ドイツの作曲家ロベルト・アロイス・ツィンマーマンの作品とは言え存外聴きやすいもの、更にはウイリー・デッカーの演出が、登場人物を象徴的に白色、灰緑、赤色、黄色に塗り分けて、ものの見事にストーリーの概念整理をしてくれるので、非常にスンナリと受け入れられたのには自分でも驚いた。これは今回の舞台を成功に導いた大きな要因であろう。マリーを歌い演じたのはビオレッタやルチアといったイタリアオペラのプリマとして知られているヴィクトリア・ルキアネッツだが、このアヴァンギャルドな役を熱演し、他の出演者も粒が揃っていた。また群衆や舞踏にも人を得て、舞台は大層充実したものとなった。それはオペラというよりも、効果音の勝った演劇のようでもあったが、演劇の分野ではこれだけの歌唱はあり得ない。今回の作品では、歌唱という表現手段が、唯一無二のものとして確実に説得力をもっていたのであるから、やはりこれはオペラとして成功した作品であると言えるのだと思う。オケを含め、メッセージとして伝わってくる情報量は相当なものであったが、それが飽和状態にならずに整理されて伝わってきたことは、演奏と演出の連携の良さを物語り、完成した総合芸術となっていたと評価できると思う。カーテンコールでの若杉さんは、なぜか老けこんだ印象だったが一番大きな拍手をもらっていた。この我々と同時代の作曲家による、演劇、美術、音楽、舞踏のコラボレーションの成果!劇場の人として生きて来た若杉さんのやりたかったことは、これを日本の聴衆に見せることだったのだなと理解した。若い時代から数えきれない程の「日本初演」を行ってきた”初演魔”の面目躍如の公演であった。
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