15年の任期をを全うして今期でびわ湖ホール芸術監督を勇退する沼尻竜典の最後の舞台である。演目はワーグナーの楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」。沼尻はこの間「プロデュース・オペラ」シリーズと「オペラ・セレクション」シリーズで、自ら指揮して31のプロダクションを舞台にかけてきたが、その中でもとりわけのハイライトは、バイロイト音楽祭で上演されているワーグナーの10作品を全て上演したということなのではなかろうか。途中新型コロナ禍により舞台芸術が全般的に危機に瀕したが、今は亡きミヒャエル・ハンペによる「指輪」の最終演目「神々の黄昏」では、無観客ストリーミング配信という画期的な手法に直前で切り替え、サイクルを辛うじて完結さるという離業を演じた。そしてその後はセミステージ演奏会形式への切替によって、今回の最終演目にたどり着いたのである。これは正に偉業と言っても良いのではないだろうか。さてその「マイスタージンガー」だが、まずは実力派の男性歌手15人を揃えた配役が圧巻であった。主役のハンス・ザックスを歌った青山貴は十分な美声で実力を発揮していたが、役柄としては少し若作り過ぎた感はあった。ベックメッサーの黒田博は悪役というより知的な役作りが珍しいかった。ポークナーの妻屋秀和は良い意味での安定の境地。コートナーの大西宇宙は若々しく存在感を発揮して輝いていた。びわ湖ホール声楽アンサンブル出身の清水徹太郎の元気一杯のダフィットにはとても好感が持てた。ただ肝心のワルター・フォン・シュトルツイングの福井敬は中低音がほぼ聞き取れず、高く張った高音だけが強く響き渡るいびつな歌唱でいささか興を削いだ。女性陣のエファ森谷真理、マグダレーナ八木寿子もまずまずの好演だった。沼尻指揮の京都市響は石田泰尚をコンマスに迎え、実に瑞々しく明朗な音楽を作り上げた。舞台上の歌手たちの後方で奏でる配置だったので、オーケストレーションの綾が明瞭に聞き取れ、晩年のワーグナーの円熟の筆致を満喫することができたのは思わぬ贈り物だった。粟国淳の雰囲気を豊かに醸し出すヴィジュアルな舞台作りも中々効果的で、ワーグナー10作品の締めに相応しい楽しい舞台だった。途中の休憩時にはびわ湖に見事な虹がかかり、それは沼尻の次へのステップへの「架け橋」のようにも感じられた。
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