日生劇場開場60周年記念公演の一環としてケルビーニの「メデア」が日本初演された。今回はその二日目を聞いた。指揮の園田隆一は極めて高いテンションで新日本フィルを駆り立て、一刻たりとも弛緩のない流れで全体を劇的にリードした。その流れに乗って出ずっぱりのコルギスの女王メデア役中村真紀は絶唱。押し出しの強い歌はとりわけ後半に力を発揮した。フォルテでも決して汚くならないのは美点なのだが、多用する軽い高音のピアニッシモにはとても違和感があった。それに対する前夫の武将ジャンゾーネ役城宏憲の歌唱はクセはないのだが、メデアとの対比ではいささか軽くバランスを欠いた。この役にはメディアに対するだけの強靭な声が欲しい。その婚約者コリント王女グラウチェ役の横前奈緒の歌唱は素直で美しく磨かれた美声が心に響いた。その父クレオンテを歌ったデニス・ビシュニャもノーブルな美声で長身な姿がとても舞台映えした。しかし当日の極め付けはメディアの侍女ネリスを歌った山下牧子だった。3幕にあるアリア(不思議と侍女のこのアリアがこのオペラの一番感動的な曲かもしれない)での切々と思いを込めた深く激しい歌唱は当日一の完成度で聴衆の感動を誘った。新国のロングラン「蝶々夫人」でお馴染みの栗山民也の演出はよく考えられた分かりやすいもので、黒を基調とした立体的で重厚な舞台ともどもドラマを十分に描いたといって良いだろう。しかしそれだけに、この母親による子供殺しのストーリは、戦争のみならず陰惨な殺人事件が多発するこの時期と重なったためもあったのか、深く心を突き刺し、終演後はとても拍手するような気分にはなれずに、どんよりとした気分で拍手に沸く劇場を後にした。
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