我が国におけるイタリアオペラを牽引する藤原歌劇団にして、なんと26年振りとなる本作の上演である。それと言うのも、主役4役に名歌手が揃わないと盛り上がりに欠けるというこの作品の難しさによるところが大きいかもしれない。前回の1996年は、グレギーナ、クピート、ジョーヴィネ、ペンチェーヴァという豪華な顔ぶれだった。今回初日の配役は、レオノーラに小林厚子、マンリーコに笛田博昭、ルーナ伯に須藤慎吾、アズチェーナに松原広美という、藤原お抱えの絶頂期の歌手達を適材適所配置したものだったが、前回に決して引けをとらない、聞き応えある歌唱、そして見応えある演技だったと言えよう。小林は当初少し不安定だったが幕を追うごとに調子を上げた。その美しい声の伸びと気品に満ちた歌い振り、スタイリッシュな演技はいつまでも記憶に残るだろう。笛田は丁寧な歌い振りだったが、ここぞと思う時の力感が聞き応え十分だった。須藤の豊かな美声と細やかな演技による役作りは全体を引き締めた。松原は師のコソットを思わせる豊かで輝かしい美声を披露したが、いささか声に頼りすぎるところがあり、一面的な歌唱になってしまったように聞いた。合唱は少人数でマスク付きなので迫力に欠けてしまったが、まあこの時期なので致し方ないだろう。折角これだけ絶好調の歌手を集めたのだから、これでオケが全体をもっと盛り上げてドラマティックに仕上げてくれれば言うことはなかったが、山下一史の指揮は、言うならば安全運転の域を出ない平凡なものだったことが本当に残念だった。ヴェルディのオーケストレーションを効果的に採択したり、畳みかけを生かしたり、微妙に間合いを工夫したりすることで、今回の舞台から圧倒的な感動を導ける余地はいくらもあったと思う。
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