コロナ禍で中止になったり、規模を縮小したりしていたこの音楽祭が久方ぶりに賑々しく本格開催された。今年のテーマは「〜夢と憧れ〜」だ。東京の「ラ・フォル・ジュルネ」とほぼ同形式の音楽祭だが、こちらは会期も二日、会場も「びわ湖ホール」一箇所(3つのホールとメイン・ロビー)とぐっと小規模ではあるが、内容はなかなか濃い。そして何よりびわ湖に面したホールの立地が素晴らしく、とりわけ天気に恵まれた時の爽快感は有楽町の比ではない。今年は一日目こそ曇天だったが二日目は晴天に恵まれて心地良い音楽祭になった。今回は大ホールと小ホールで開催された7つの公演に参加した。27日のオープニングコンサートは、このホールの音楽監督阪哲朗とカウンターテナー藤木大地そしてソプラノ小林沙羅+京都市交響楽団が集う華やかな舞台。ウイーンのフォルクスオパー仕込みの阪がレハール作曲「メリーウイドー」オーケストラ版メドレーで本場さながらの雰囲気を醸し出した他、藤木がオケ伴で歌ったR.シュトラウスの歌曲「万霊節」・「明日こそ」・「献呈」が心に響いた。続いてはダリボル・ガルヴァイのヴァイオリンのリサイタル。ベートーヴェンの「春」は腕鳴らし的であったが、続くサン=サーンスの「序奏とロンド・カプリチオーソ」とラヴェルの「チガーヌ」では美音と超絶技巧を駆使した切れ味と、心を抉るようなの強靭な音を聞かせてくれた。ウイーン響のコンマスを務めるバイオリニストだがこれは隠れた逸材で鮮烈な印象を残した。ここで忘れてはならないのは山中惇史のピアノ伴奏である。澄ました顔で弾くのだが、ピタリとソリストに寄り添って互いに音楽を高め合っていたのがとても印象的だった。続いて園田隆一郎の指揮でびわ湖ホール声楽アンサンブルによるのプッチーニ、オッフェンバック、グノー、ヴェルディ、そしてロッシーニのオペラ合唱曲を集めたステージ。ソロの部分も取り混ぜて、単なる座付き合唱団ではないこのアンサンブルの強みを示したステージだった。そしてこの日の最後はバリトン黒田祐貴のブラームス、ヴォルフ、R・シュトラウス、シューマンというドイツ・リートを中心としたリサイタル。最後にはワーグナーとコルンゴルトのアリアもとり混ぜ、ドイツ留学帰りの若々しい美声を聞かせた。山中惇史はここでもピタリとソリストに寄り添った素晴らしい共演を果たした。最後にアンコールで歌われたのは作曲家でもある山中の自作リート「音楽」で、ここでは作曲家としても非凡な才能も聞かせてくれた。翌28日の最初はレオンコロ弦楽四重奏団によるハイドンの弦楽四重奏曲第39番ハ長調「鳥」とヤナーチェクの弦楽四重奏曲第1番「クロイツエル・ソナタ」である。チェロ以外全員立奏という珍しいスタイルからとてつもなく鮮烈な音楽が飛び出して来た。ハイドンの四重奏をこんなに面白く聞いたことはこれまで無かったし、ヤナーチェクはまるで心を抉る魂の叫びを聴くようで、これも1日目のガルヴァイ共々驚愕的な強烈な印象を残した。次に聞いたのは全く趣を変えて京都橘高等学校吹奏楽部のマーチングである。これは「お見事!」という言葉に尽きる最高に楽しいパーフォーマンスの45分だった。これほどの身体能力と楽器を操る技をどうやって若い彼らが両立させているのだろう。そして最後に聞いたのは、「石田組」で知られる石田泰尚のバイオリンと伴奏岡本知也のステージ。最初に珍しいテレマンの無伴奏ソナタが三曲弾かれたのが珍しかったが、その後のドビュッシー等も含めた全体からは、その硬派な出立たちや演奏後の外連味たっぷりの独特な見栄からは想像も出来ないような、ぬくもりを感じさせる温かく、そして純粋無垢な心地よい音楽が溢れ出てきたことがとても意外であった。このように二日に渡る音楽祭はとても楽しく充実した時間で、東京からはるばる馳せ参じた甲斐があったと思わせた。それは才能に溢れた若き逸材を見つけて招聘した企画者の酔眼に負うところが大きいと思う。そんなびわ湖ホールに心から敬意を表したい。
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