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東京シティ・フィル第375回定期(2025年1月17日)

2025年01月16日 | 東京シティフィル

今年創立50周年を迎えた東京シティ・フィルの2025年最初の定期は、メインにグスタフ・マーラーの交響曲第7番ホ短調「夜の歌」を据えたプログラムだ。指揮はもちろん常任指揮者の高関健である。高関は2022年8月に開催された自身の「第50回サントリー音楽賞受賞記念コンサート」でも同団とこの曲を披露している。その時は1987年のサントリーホール開館時に国際作曲委嘱シリーズの一貫として委嘱されたルイジ・ノーノの曲を初演指揮者が再演するという意味を込めたスターターの選曲だったのだが、今回は新進気鋭の奥井紫麻をソリストに迎えたサン=サーンスのピアノ協奏曲第2番ト短調作品22が1曲目というなんとも不思議な幕開きだった。プレトークで高関が語るところによると、この二曲の関連性を紐解くキーワードは「バロック」で、これは全くの彼の思いつきだそう。確かにサン=サーンスの始まりはバッハのクラフィーア曲のようにも聞こえるしマーラーの開始のリズムも組曲のリズムを思わせるものが有りはするが。まあそれはともかくとして演奏の方は最初のサン=サーンスから実に見事だった。奥井は私は初めて聞くピアニストだったが力感と繊細さを併せ持った素晴らしい才能だ。淀みなく流れる伸縮自在な音楽が昨今は余り演奏されなくなった佳作の魅力を存分に引き出していた。アンコールのラフマニノフの前奏曲も洗練の極致だった。この協奏曲の名演は誰しもメインに期待する大曲プログラムのスターターにはいささか勿体無い感じで、贅沢を言えば意味を感じさせるプログラムの中にきちんと位置付けてほしかった。そして期待のマーラーは、これはもう「高関色」一色に染め抜かれた一点一角も疎かにしない大地に根をはやしたような綿密で堂々たる音楽だった。高関はテンポやバランスを刻一刻と目まぐるしく変化させるが、その微細な指示にピタリと追従するシティ・フィルは見事の一語に尽きた。その時系列的な変化は多角的で緻密な楽曲分析の末に考え抜かれたもので、それでこそ獲得された音楽の自然な流れ、謂わば「不自然な自然さ」こそがこの演奏全体を貫く堂々だる偉容の根源であるように聞いた。まさに多少冒険的な表現が特徴だった2022年の演奏の進化系だ。そんな中で最も印象に残ったのは第4楽章の「夜曲」だった。その精緻な美しさは官能の極みを尽くし、オブリガードのように纏わりつく谷あかねのホルンの音色と音量コントロールの見事さは当夜の白眉だった。バランス的に意表をつくようなロンド・フィナーレの大団円の、しかし美観を貫いた音の洪水を聞きながら、首都圏7つ目のプロ・オケとしての発足以来の当団の険しい道程と、昨今の、とりわけ高関が常任指揮者に就任して以来10年の目覚ましい躍進振りに思いを馳せつつひとしおの感動とともに会場を後にした。