まさおレポート

豊饒の海「春の雪」三島由紀夫 の謎の言葉

2007-04-06 初稿

2018/2/19 加筆

バリに向かう機内映画で邦画「春の海」をなにげなく観た。小さな画面だし、まずまずといった感じで楽しんでいた。最後に月修院門蹟の聡子が謎の言葉をはく。彼女はかつてある皇室との婚約中に主人公清顕の子供を宿し、その為に出家した。
親友の本多が60年をけみして彼女に清顕の思い出を語ると、そんなお方の名前をしらないという。そんなお方はもともといらっしゃらなかったんと違いますか とはんなりとした京都言葉で返される。

でたでた、謎の言葉がでた と急に画面にみいることになる。この言葉、以前三島の原作「豊穣の海」全4巻を読んだときにも残っていた謎の言葉だ。そして、このシーンは、最終巻の「豊穣の海」のフィナーレででてくる。行定勲監督は「春の海」の最終にこれをもってきている。

三島はこの遺作を浜松中納言物語からとった転生の物語だと巻末に述べている。そして本文中盛んに唯識論が登場する。転生と解脱、そして阿頼耶識がこの物語のテーマだ。いずれも現代のサイエンスでは解説不能のテーマだ。

原作「豊穣の海」4巻を読んだのは30年以上も前だ。芦屋の古書店で初版本を8500円もだして買った。定価は3000円もしない。何を思って買ったのだろうか。いずれにしても、読んだというのは形ばかりで、謎の言葉だけが記憶に残った。

3年前にタイに旅したときも、4部作のうちの一巻「暁の寺」の舞台であることを思い出して、読み返してみた。再び、謎の言葉 そんなお方はもともといらっしゃらなかったんと違いますか が消化不良のまま残った。

今現在、長旅から帰り、このテーマが頭に浮かぶ。ネットで調べるとこのテーマについて、いろんな人が考えているようだ。輪廻転生する本体(霊とか魂とかいってるものに一応近いものと考えていいだろう。但し 生きている我々にも存在する)が阿頼耶識で、しかも解脱すると転生の輪から離れる。転生の輪から離れると阿頼耶識も消えてなくなる。そうすると そのお方=もともといらっしゃらなかった ということになる。

再び、映画の助けを借りなければならない。マイクル・クライトンの「タイムライン」だ。原作は全米で170万部売れたベストセラーだ。この本のアイデアは最先端の宇宙論らしい。私の理解の範囲で示せば、「歴史にイフはない」とは全く反対に「歴史はイフの連続」で、その無限大の枝分かれしたイフのひとつを私は生きているらしい。(エヴェレットの多世界解釈と呼び、理論ではない。他に幾つかの解釈がある)他に枝分かれした宇宙が無限大に存在するという。

解脱した瞬間、転生の本体である清顕の阿頼耶識も存在しなくなり、そして過去にさかのぼって清顕の存在も なかったことになる。すくなくとも阿頼耶識に親しんで、日常的に出入りしている聡子には、そう映る。いずれも現代のサイエンスでは解説不能のテーマだと記したことを訂正しなければいけない。

村上春樹 「1Q84」 読書メモ その1 

では青豆に「狂いを生じているのは私ではなく、世界なのだ。」
「パラレル・ワールド」

と言わせる奇妙な世界を描く。月も2つあるし。運転手にも「でも見かけにだまされないように。現実というのは常にひとつきりです。」と念を押されるし。パラレル・ワールドなのだが、「現実というのは常にひとつきり」という世界でもある。聡子は既にそのひとつきりの現実に移ってしまったのだ。

 

浜松中納言物語の超あらすじ
式部卿宮に息子が一人いた。元服して、源姓を賜ったが、思いもかけず式部卿宮が死去してしまい、母は左大将を迎え再婚したことによって息子は亡き父を慕う。左大将は二人の姫を連れてきており、上の娘である大君と息子とを結ばせようとした。息子は中納言となった。中納言は父式部卿宮が唐の国の太子に転生したことを知り、遣唐使として三年の間唐の国へ行く。中納言は帝の皇子式部卿宮と結納した大君と関係を結んでしまう。大君の懐妊が明らかになり、大君と式部卿宮との結納が解消され大君は剃髪し、中納言の娘児姫君を出産した。

唐の国に到着した中納言は唐の太子と出会い、太子の母である唐后と契りを結び、若君を出産してしまう。中納言は唐后との間に生まれた子を日本に連れ帰る。唐后の母は日本にいるらしい。

中納言は大君(尼大君)が産んだ自身の子児姫君と対面する。

中納言は吉野に唐后の母を訪ね、唐后の手紙を届ける。唐后の母は唐后を産んだ後別の男(帥宮)の妻になり娘(吉野の姫)を産んでいた。中納言は太宰大弐の娘と結ばれ、大弐の娘は夫衛門督の子として中納言の子を産む。

僧(吉野の聖)から姫君の所在を聞いて会いに行くと姫君は唐后にそっくりであった。式部卿宮が吉野の姫を奪い去ってしまう。

唐后が中納言の夢に現れて吉野の姫の子(自身の姪)に生まれ変わると告げる。吉野の姫君は式部卿宮の子(唐后の転生)を懐妊する。唐の国より唐后が死去したこと、父式部卿宮の転生である第三皇子が立太子したことの知らせが来る。


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