音次郎の夏炉冬扇

思ふこと考えること感じることを、徒然なるままに綴ります。

マイホームと純金こけし

2006-09-20 23:08:56 | 時事問題
昨日は珍しく通勤ラッシュ時の電車に乗り、日中も忙しかったので新聞を読む暇がありませんでした。だから今日のランチ時に、会社の机でくるみパンを齧りながら、1日遅れの日経朝刊を読んでいたところ、全く違う記事ながら妙に相似を感じる2本がありました。

1つは、一面トップでもある「基準地価の発表」というニュースに関連した、社会面の「マイホーム また遠く?」という記事で、もう1つは特集面のニュース解説「自治体破綻 広がる懸念」というもの。

マンション購入者と地方自治体 ―その共通点は、どちらも主体性がなくニーズの追求に淡白なことです。

東京圏の住宅地が16年ぶりに上昇に転じたというのは、ちょっとしたニュースです。加えて金利や消費税の引き上げ観測が広がる中、今一次取得者である30代の団塊ジュニア世代が「バブル期のようにマイホームが手に届かなくなる」と焦りを見せている・・・というリードに続いて

「23区内が希望だったけど・・・・」東京都大田区の男性会社員(34)は六月末、武蔵小杉駅(川崎市)近くに建設中の分譲マンションを約4500万円で購入した。「マイホームは結婚してからと思っていたが、先延ばしにすると、物件だけではなく金利もどんどん上がる気がして」と踏み切った。
この会社員は当初、勤務先に近い東京23区内でマンションを探したが、「都内は高騰していて、4千万円台の予算では自分が希望する駅近の物件は手が出なかった」という。 (日本経済新聞9/19朝刊)


新聞記者がこういう社会部ネタの匿名コメントをどのように採取しているかわかりませんが、いかにもありがちな記事です。ただしみじみ思うのは、こういう「34歳会社員」みたいな人は、不動産業界(会社)にとって本当に御しやすいというか、もっとはっきりいうとカモなんだろうなあということです。短いコメントの中の少ない情報を読むに、あくまで自分の生活だけのため、または分譲マンションを所有するステイタスのために、とにかくマンションを手に入れたいんだという事情であれば、ご自由にということで別にいいのですが、「マイホームは結婚してから」と語っているところをみると、そういうわけでもなさそうです。家庭をもつことも視野に入れているわけです。それなのに、自分の勤務地に近くても配偶者にとって不便である可能性や、子育てに適しているのか否かといった様々なエレメントを吟味する様子もなく、ただ地価や金利が上昇傾向だという先行き不透明な事象にせきたてられて、4500万円のマンションを買ってしまうという短絡が、どうにも理解できないのですよ。高額ですが所詮は買い物ですから、もしも23区内の駅近で、この人が真に欲しい物件であれば、まだいいと思うのですが、「今」武蔵小杉の物件を慌てて買う目的がよくわからないのです。まあ大きなお世話ですね・・・。

バスに乗り遅れまいと焦って家を買った後に暴落し、後から自分より安い値段で、遥かに広くて至便な場所に家を構えた人たちを、目もくらむような絶望と歯軋りするような嘆きをもって眺めた無数の民の存在。私たちの前には、ほんの10数年前のバブル期に生じた悲劇のケーススタディーがあちこちに残っているにもかかわらず、こういう思慮の浅い人たちは後から後から出てくるものです。

よくよく考えれば、都心で起きているミニバブルのような現象が都内の住宅地相場に一時的に波及したとしても、少子化による人口減少で、中長期トレンドとして地価が今後も右肩上がりになることの方が考えにくいと思うのですが、何をそんなにせきたてられているのでしょうか? 勝手に強迫観念にかられて、ほいほい契約してくれるような一次取得者(初めて買う人)は供給側には有り難いでしょう。まあ、こういう煽り記事の存在自体が国と業界とメディアの共犯関係の証左なのですが。

話はそれますが、これはネットワークビジネスで、自分が使いもしない洗剤やサプリメントの在庫の山を抱えている頭の悪いディストリビューターともそっくりです。「これ買っとけば得なんだから」って、ちっとも得じゃないんだよ!洗剤なんて自分が使う分だけ買えばいいでしょうが。

バーゲンやスーパーのタイムセール同様に、すべてはセールストークなのですよ。「早くしないと売り切れちゃいますよ(値が上がりますよ)」というのは。たとえば、これが明日から20円上がってしまう煙草をまとめ買いするのは合理的な説明がつきます。煙草の値段がこの先下がることはないのは誰が見ても明白ですから、仮に3カートンくらい買った後に禁煙することになっても、私は自分の周囲に同じ銘柄を吸う人を4人は知っていますので、ほぼ投下金額をイコールで回収することができるでしょう。でもローンで買った4000万円台の凡庸なマンションなどは、等価で換金するのは極めて難しい。

「それを今買うのが本当に必要なことですか?」

将来を全て予見することなど誰もできません。地価や金利や消費税がいつどのくらい上昇するのかを正確に予測できる人など世の中に一人もいません。だからこそ、自分に何が本当に必要なのかを考え抜く― 己のニーズの検証をしなければならないでしょう。


もう一つの記事は「夕張市の倒産」によりパンドラの箱が開いてしまった感のある自治体の借金問題です。ここで取り上げられているのは、青森県の黒石市。なんでも例の竹下内閣「ふるさと創生事業」一億円で造った高さ50センチの「純金こけし」を泣く泣く売る羽目になりそうだというのです。同市は10年前、東北有数の室内体育施設「スポカルイン黒石」に約39億円、6年前には「津軽伝承工芸館」を約31億円を投じて建設したものの、これらのお陰で06年度の公債費は約27億円で市税の大半が借金返済に消えるという絵に描いたような破綻予備軍の自治体です。身の丈に合わない事業のツケが重くのしかかっているわけです。

また06年度に2億6千万円の赤字予算を組んだという人口約4200人の鳥取県日野町の助役はこうコメントしています。

「国が交付税で借金を返してくれると思い『起債で事業をしなければ損』という意識があった。今思えば借金のしすぎだった」

振り返ると90年代に国が景気浮揚策を半ば地方に委託して、地方債の発行を積極的に奨励したという事情があります。



 危機ってホンと!?豊中市の台所事情から引用

たしかに平成元年あたりから、明らかに地方債の発行額が急上昇しています。地方債の用途は建設事業に限定されますから、公共事業で景気が回復し、税収も増えれば地方交付税で国が自治体にバックし、借金はチャラになるという構図だったと思います。ただご存知のように、国の方も借金でにっちもさっちも行かなくなったため、とても地方の面倒をみられなくなったと。もともと国からの交付税に依存していた大半の自治体は、これではひとたまりもありません。

地域にとって、住民にとって、それが本当に必要な施設なのか。

事業がペイできるかどうかというのは、どんなに緻密なマーケティングをしても、民間企業とてパーフェクトに見通せるものではありません。そんなこといったら新商品なんて市場に出せません。よくメディアで叩かれている官の「需要予測の甘さ」というのも仕方のない面があります。どんな優秀なアナリストや気象予報士だって予想が外れることの方が多い。先のことなど誰もわかりはしないのです。それよりも重要なのは、「本当に必要なのか」ということではないでしょうか。

滋賀県は、JR東海がせっかくいってくれているから新幹線の駅を造るのがいいのか。

仙台市が、ケヤキ並木を伐採して閑古鳥がなくであろう新しい地下鉄を造るのがいいのか。

他にもいっぱいあるでしょうが、挙げていけばキリがありません。


結局、個人と自治体ともに建設ネタということで、似ているのは当然でしたね。


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