咲く星に熱き祈りの夢の華
白くひらけば伝わりて夜
流れ堕ちれば実かわりて恋
《恋慕夜曲》
いはれなき少年の時の悲哀のごとく
黄昏は街をつゝめり
路傍のプラタナスは葉をたれて
とほくはるかなる子守唄をきく
悔恨と倦怠との闇のうちより
そこはかとなくさきいづる花のかず/\
七夕の夜にみつる灯の色
宵宮の日にみつる灯の色
揚幕のかげよりみつる灯の色
地獄極楽の観世物小屋の灯の色
仁丹の広告燈
銀座の雨の夜の舗石にこぼれし灯の色
かぎりなくほのかなる夢の華
涙ぐみし睫毛のひまに
光りてはきえゆきけむ
わすれたる不可思議の夢
やさしくも甦がへる
東京の夜こそかなし
街をながるゝ堀割の水は
三味線の音色と
いまはわすれられたる昔の唄とをのせ
よきひとの濡髪の香のごとく
ほのかにやさしく忍びよるなれ
少年の日の門辺をすぎし巡礼の娘は
鉦たゝきはる/゛\と
ゆきやゆきけむ
「黒髪」の唄のふしわれに教へし
眉青き人のたづきやいかならむ
あはれ性の懐郷病
やるせなくさしぐむ
若くおろかに
あとなき夢をおひてさまよひし
東京の夜こそかなし
詩と絵:竹久夢ニ
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