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「ボールをよく見て」は間違い? 秋山翔吾、浅村栄斗が唱える新常識

2021年03月11日 18時55分40秒 | ネタ
5年ほど前にメジャーリーグで流行し始めた"フライボール革命"は、日本球界にも大きな影響を及ぼした。
学童野球から高校野球、プロまで「ボールは上から叩け」と長らく言われてきたが、長打を打つには一定の打球角度と打球速度が必要だ。フライボール革命以降、そうした条件があらためて知れ渡った。柳田悠岐(ソフトバンク)が口にする「かち上げる」という表現は、この新常識をよく表している。

 ほかにも、100年以上の歴史を誇る日本の野球界には、"定説"のように受け継がれる指導が多くある。そのひとつが、「ボールをよく見て打て」というものだ。

「物理的に目をつぶって打てるわけがないから、『ボールをよく見なさい』という話になるわけですよね」

 以前、西武時代の秋山翔吾(現シンシナティ・レッズ)とそんな話になったことがある。彼の言葉どおり、そもそもボールを見なければ打てない。だから、学童野球の指導者はそうした指示を大声で送るのだろう。

 だが、「ボールをよく見て打て」という指導は、打席で結果を残すという意味で本当に正しいのだろうか。

 先日、中学硬式野球の約200選手にオンラインで講演をする機会があった。冒頭でこの質問を投げかけると、指名した3人のうち、ふたりは「正しい」と答えている。「ボールを見ないと打てないから」という、物理的な根拠だった。

 対して、もうひとりは「正しくない」と回答した。「ボールをずっと見ていると、打てない」というのだ。

 では、プロ野球で"一流"と言われる打者は、どのような感覚で打席に入っているのか。3年前、ふと疑問に思って聞いたことがある。

「ボールをよく見たら、打てないですよ」

 球界を代表する右打者、浅村栄斗(楽天)は即答した。

「プロの選手はみんな、ボールはよく見てないですよ。 打つ時は、感覚で打っているので。僕の場合、『ボールをよく見る』ではなく、『長く見る』というか、『タイミングをゆっくりとる』という意識。ボール自体はよく見ないです」
プロ野球では平均球速が約145キロまで到達し、投手がリリースしてから約0.4秒で捕手のミットに収まる。ボールをよく見ていると、タイミング的にバットで弾き返すことはできない。だから、プロの打者は投球の軌道を思い描き、ボールと当たるポイントにバットを出していく。

 それを浅村の表現にすると「感覚で打つ」となり、「ボールをよく見たら打てない」となるのだ。

 それでは、小中学生に打撃についてアドバイスする場合、どんなことを言えばいいのだろうか。

「ひとつは、自分のタイミングで打つこと。相手どうこうより、まずは自分の形をつくらないと打てないと思います。だから、僕なら『ボールを見る』ということは教えないですね。ピッチャーがリリースした瞬間、自分の動作として打てる体勢に入っていけていれば、ボールも自然に呼び込んで打てます」

 ボールをよく見ていると、投球に対して受け身になりやすい。大事なのは、打者自身が主導権を握って打ちにいくことだ。「ボールをよく見る」以前に、「自分の形をつくる」ことの重要性を説く浅村の姿勢は、彼の対応力の高さを表しているように感じる。

 もうひとり、日本で稀代のヒットメイカーになった秋山にも「ボールをよく見て打て」の真偽について聞いてみた。

「実際には(ボールを最後まで)目で追えてないですからね。ピッチャーの持ち球の軌道をイメージすることが一番、重要なんじゃないかな」

 プロの打席では、ボールをよく見て打つことは事実上「不可能」だ。そのうえで「ボールをよく見る」という感覚を、秋山はこう定義した。

「僕は軌道をいろいろイメージして打ちにいくけど、打った瞬間を見ているわけではない。打ったあとに(ボールに視線を向けたまま)顔が残るかどうかが、"見ている"ということだと思います。ボールがこういう軌道で来るから、自分がバットをこう振れば前に飛ぶだろうと(前方に)顔を振っているということは、実際には"見ていない"わけです。

 ただし(投球の軌道について)イメージはしている。一瞬、ボールを捕まえたあと、追いかけるような感覚が僕の中であるんです」

感覚の言語化に優れる秋山だが、同時に、プロの感性は常人には理解しがたいものがある。ボールをバットで捕まえたあと、追いかけるような感覚とはどういうものだろうか。

「調子が悪い時は、喜ぶのが0.1秒早い、という感覚があるんです。(調子がいい時とは)0.1秒、ボールを見ている時間が違う。ファウルや凡打になっている時は、喜ぶタイミングがひとつ早いんです」

 投手がリリースしてから0.4秒でボールがやってくる世界では、0.1秒は大きな差になる。秋山は、調子が悪い時には打つタイミングが0.1秒早く、ボールを"追いかけられていない"という感覚になる。逆に調子がいい時は、0.1秒の感覚を調整でき、バットでコンタクトしたあとにボールを"追いかける"ように感じる。それだけ精緻に自身の感覚を働かせ、なおかつ動作を一致させられるから、ヒットを量産できるのだろう。

◆イチローの出現がセ・パの格差を生んだ...。レジェンド3人が語る証言>>

 では、そうした領域に到達するには、何が重要になるのか。小中学生向けのアドバイスを求めると、秋山はこう答えた。

「いろんなパターンのボールを打っていくことで、いろんな軌道のイメージをつくることが重要だと思います。たとえば、トスバッティングをするにしても、ただ単調に投げてもらうのではなく、トスのタイミングを変えてもらったり、高めや低めに投げてもらったりして、自分の引き出しを増やす。歩きながら打ってみたり、早いタイミングで投げてもらったりして、『こうやって打てば、こういう当たりになる』という引き出しを増やすことが重要だと思います」

 秋山は具体的な練習法を挙げたうえで、打撃のポイントについて口にした。

「自分が打つだけではなく、人の打席を見て『自分だったらどう打つかな』と考える。そういうイメージを数多く持つことが、"ボールを捕らえる"ということにつながってくる。大事なのは"ボールを見る"ことではなく、自分だったらこう打っていくという"イメージをつくる"ことだと思います」

 打席で結果を残すために重要なのは、ボールをバットの芯で捕らえることだ。そのためにはさまざまなパターンの球に対し、自分の形をつくっていくことが必要になる。興味深いことに、浅村と同じく秋山も「ボールを見る」より大切なことがあると指摘した。そこにこそ、打席で結果を残すためのポイントが詰まっている。

あくまで、人の感覚は千差万別だ。同じ野球でも、プロと中学生では次元がはるかに異なる。

 同時に、競技としての原理は同じであり、一流が実践していることには真理がある。大事なのは、これまで"常識"とされてきたことにとらわれず、自分の形をつくり上げていくことだ。

 日米で開幕まで1カ月を切った新シーズン。新たに生まれるトレンドと、変わりゆく常識、普遍の真理に目を凝らせば、野球の奥深さをよく感じられるはずだ。

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