八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

1月31日という日

2023-01-31 21:53:35 | イベント

 

 

俺の28歳の誕生日。

牧野つくしが道明寺つくしになる。

 

ここまで長かった。

ジェットコースターのような恋が終わったと同時に始まった遠距離恋愛。

俺がニューヨーク、あいつが東京。

ようやく帰国しても、仕事に追われる日々。

 

そんな俺たちの恋がやっと実る日。

俺は、ウェディングドレス姿のつくしを見たい気持ちを抑えチャペルの前で待つ。

 

しばらくすると、係員とF3や滋、三条、松岡までがつくしの控え室の方へ急ぎ足で向かっていくのが見えた。

つくしに何かあったのか?

気分が悪くなったのか?

 

ウェディングプランナーになった三条のイチオシの《ファーストルック》をするために、

俺とつくしは式場に入ってから完全な別行動。

それなのに、係員でも無いあいつらが全員で俺たちの控え室に行くってどうなっているんだ?

俺が近くの係員に尋ねても、ハッキリした返事はなかった。

 

つくしの体調が悪くなったのか?

それとも…。

あいつらのいつもの野次馬根性で、つくしを先に見に行っただけなのか?

 

つくしの体調が悪くなったに違いねー。

心配に思った俺は控え室に向かおうとした。

 

あいつらのただのいつもの野次馬根性だった場合、完全にバカにされる。

しばらく待った。

が、イライラが限界になった俺は、あいつらと同じ方向へ急ぎ足で向かった。

 

俺が控え室に行くと、扉の前にはいつものメンバーと、この係員が数名。

類だけが見当たらない。

 

俺の存在に気付いた係員が

「花嫁さんが直前に感極まることは、よくあることなので。」

「ご友人がお話されています。」

こんなことを言ってきた。

 

なんでこんなことになったのかっつーのと、

俺がまだ見てないウェディングドレス姿のつくしを、類が先に見たっつーのや

この期に及んで、つくしの支えはまだ類なのかっつーのに、俺の中で急激に沸いた怒り。

俺はこの怒りに任せて、控え室のドアを蹴り跳ばして中に入ろうとした。

 

その時、聞こえたつくしの涙を含んだ声。

「わかってる。あいつのことは信頼してる。」

「でも、こんな直前になって怖くなってきたの。」

「高校生の時のようなバカ道明寺じゃないだよ。立派に会社を背負っているんだよ。」

「そんなあいつのこと、私っ…。私っ。」

つくしが一方的に話しているのを、類が黙って聞いているようだ。

俺もこいつらと一緒に中の様子を見守ることにした。

 

「ねぇ、牧野。今日、なんの日か知ってる?」

俺が、ここに来て初めて聞く類の声。

俺の誕生日だ。

そして、俺とつくしの結婚式の日だ!!

俺が、舌打ちしながら心で唱えていると、

 

つくしからも、

「あいつの誕生日で、あいつと私の結婚式の日。」

同じ返事。

 

そして、その後でまたつくしは、話し出す。

「わかっているんだよ。頭でわかっていても。」

つくしは、まだ話し続けた。

「私って、いつも直前になってこんなこと考えて逃げて…。みんなに迷惑かけて。」

つくしから、こんな不吉な言葉が飛び出した。

 

おいっ!逃げ出す気か?

俺が不安になった瞬間、聞こえてきた類の声。

「ねぇ、今日って愛妻の日なんだ。知ってた?」

 

「へっ?」

っつー、つくしの間抜けな声の後、類が話し出した。

「愛妻の日。愛妻感謝の日なんだ。だから、大丈夫。牧野は、今日から司の嫁なんだろ?大丈夫。司は、誰よりもあんたを大切にする。」

 

この会話を聞いた後、俺はスゲー目力の三条に引っ張られチャペル前まで強制連行される。

「もう、大丈夫です。道明寺さんは、ここで先輩を待ってください。」

「いいですね?絶対に先輩を責めたりしないで下さい。」

「結婚前の女性には、よくあることです。」

 

「直前過ぎるってのはありますが…。でも、先輩の場合はっ!!一般庶民、いや貧民が日本最大の財閥の御曹司と結婚するんです!不安になって当然です!!」

「先輩には後ろ楯になる身内がいません。たった一人でこっち世界に飛び込んでくるんです。絶対に幸せにしてください。私の大切な人なんです。」

捲し立てるように話した三条は、俺にチャペルの建物の壁を見るように命令してきた。

 

「あ?なんで、壁を見るんだよ?つくしが来るのが見えねーじゃねーかっ!」

俺の抗議に、三条は一切怯まず返事をしてきた。

「本当に、私のプランに目を通したんですか?先輩がここまで来たら、私たちで合図します。私たち、お二人のファーストルックの立会人なんです!」

 

俺がチャペル壁を見つめること数分。

「司。」

今日から俺の妻となったつくしが、俺を呼んだ。

 

俺が振り返ると、そこにはスゲー綺麗なつくしの姿。

三条イチオシの《ファーストルック》

この為に、俺は試着の段階から一切つくしのドレス姿を見ることができなかった。

 

ヤベェ。

スゲー綺麗なつくしの姿に感動して声が出ねぇ。

あいつらが見ているのも全く目に入らねぇ。

 

「ごめんね。寒いのに待ってもらって。」

つくしの言葉に、今年の冬の寒さを思い出した。

 

そして、

「今日からも、ずっとよろしくね。」

少し照れたようなつくしの声。

 

「あぁ。ヨロシクな。」

俺は返事をしたあと、軽くつくしの唇にキスをした。

これからは、俺以外の男に頼るなよって心の中で付け足しながら。

 

二度と不安になんかさせねーよ。

つくしを世界中の誰よりも幸せにする。

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。

司くん、お誕生日おめでとう。

 


Coincidenc8

2023-01-31 08:00:00 | Coincidence(完)

 

 

この日の夜遅く─────。

俺は、西田から牧野の履歴書奪還に成功した。

 

牧野の直筆だぞ!

しかも、大学生の頃の写真付。

 

今と同じ顔だ。

いや、少しだけ今の方が大人っぽいか?

字も、綺麗な字を書くんだな。

 

俺が、牧野の履歴書を見て感動しているっつーのに…。

「それでは、総務部に返却しますので返してください。」

なんてことを、西田が言ってきたんだ。

 

あ?

牧野の履歴書を返すだと…?

 

常識的には、返却するのが当然なんだろう。

そのくらい俺にもわかっている。

でも、返したくねーんだ。

俺が持っていたい。

 

西田が席を離したすきに、俺は牧野の履歴書のカラーコピーを取った。

そして、西田が戻ってくる前に、履歴書を本来あるべき場所に戻した。

 

気にすることはねー。

数年後には、間違いなく履歴書もデジタル化されている。

 

翌朝。

西田はしれっとした顔で

「本日の午後一番で、シンガポールに出張です。」

なんてことを言ってきた。

 

なんで俺が2週間もシンガポールなんて行かねーといけねーんだよ!

しかも、西田と。

牧野に、変な虫がついたらどーしてくれんだよっ!

変な男対策に、SPでもつけるか?

 

「出張には行かねー。俺は牧野とデートするんだっ!」

なんて、抵抗したが…。

 

西田は軽く鼻で笑いながら言ってきた。

「何を言っておられるのですか?それは、妄想ですか?デートすると仰られるなら、実際に、約束をしてからにしてください。」

 

クソっ。

ジト目で西田を睨んでみたが…。

 

俺のジト目なんて、こいつには全く効かねー。

全く怯まねー西田が、

「仕事でございます。予定は2週間。ですが、仕事が早く終われば、帰国も早まります。帰国後に、牧野社長との時間を手配する予定です。よろしいですね。」

こんなことを、念押しするかのように言ってきた。

 

マジでムカつく。

飴と鞭の使い方じゃねーかっ。

 

昨日の履歴書のこともだが…。

ムカつくことに、俺の扱いはババアより西田の方が上だ。

間違いなく、俺が動くようにもってくる。

 

「わかったよ。行けばいいんだろ。ソッコーで帰国してやる!」

っつー俺の返事に、西田が笑った。

 

西田の笑顔なんて見たくねぇ。

俺は、牧野の笑顔が見たいんだ!

 

 

 

私がお昼の休憩から戻ると─────。

秘書課がバタバタしているから、履歴書を取りに来て欲しいって内線が入った。

 

また、秘書課…。

支社長の執務室がある、最上階まで行かないといけない。

 

でも、支社長に会えたら─────。

覚えてくれていないかもしれないけど…。

実は、私も道明寺ホールディングスの社員ですって伝えよう

黙っていたことと、この前、料亭でビールをかけてしまったことを謝ろう。

こう思いながら、私はエレベーターに乗り込んだ。

 

秘書課に入ると…。

見るからにベテランの秘書さんが数名、忙しそうに動いていた。

 

そして、私に気付いてくれた秘書さんが、

「ごめんなさいね。西田さんに借りていた履歴書を、総務部に届けるように言われていたんだけど…。今日は、会議が重なっている上に、午後一番で西田さんが支社長についてシンガポールに行ってしまって。」

って、ペラペラと話してきてくれた。

 

支社長は、シンガポールに出張なんだ…。

残念。

じゃ、会えないんだ…。

悲しいな。

 

あれ…?

残念ってなに?

悲しいってなに?

なんで、私、残念とか悲しいって思ったんだろ?

 

こんなことを思いながら、私は最上階のエレベーターホールへ歩き出す。

エレベーターは、1階で止まっていた。

 

エレベーターが着くまで、私は預かったばかりの履歴書をパラパラとめくり出した。

今より少しだけ幼いような気がする、同期の顔写真。

 

その中の1枚で、私の目は留まった。

あれ?

これ、私の字?

 

えっ?

これって、私の履歴書…。

 

じゃないっ!!

私の履歴書だけが、カラーコピーになっているっ!

折りしわも無い。

 

なんで?

どうして?

 

えっ?

昨日は、どうだったの。

西田さんに預けた時、私の履歴書は既にカラーコピーだったのかな?

私以外に、カラーコピーされたものは無い。

 

私は、さっき感じた支社長への想いなんて、すっかり忘れてしまっていた。

そして、ただ…。

カラーコピーになった私の履歴書を、ジッと見つめ続けた。

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。