八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

Coincidence6

2023-01-27 08:00:00 | Coincidence(完)

 

 

翌日8時過ぎに、西田と共に出社する。

俺は、まだ昨夜の牧野との楽しい一時の余韻に浸っていた。

牧野の父親と会う時は、あいつも来るように言わねーとな。

 

ロビーに入るなり─────。

「キャー!!支社長よ!」

「素敵!朝から会えるなんて最高。」

こんなバカな女社員たちの声。

 

お前ら社会人だろ!

毎朝、毎朝、ロビーで叫ぶなっ!

支社長が出社したっつーのに、挨拶もしねーって何考えているんだ。

うちの社員教育どうなってんだ?

 

辟易しながら、視線を西田に移すと、

「社員教育を、一から見直しさせます。」

っつー返事が返ってきた。

 

西田から向こうへ視線を移した、その先に─────。

あいつが…。

牧野がいた!!

 

また、会いたいって思っていたんだ。

この時間にここにいるっつーことは…。

あいつ、道明寺ホールディングスの社員だったのか?

 

バクバクと動き出す心臓。

偶然、同じ会社に勤めていたってことか?

牧野の勤務先を、調べさせようと思ってはいたが…。

 

昨夜、俺が感じた違和感はこれだったんだ。

俺は、牧野をこのロビーで見かけていたんだ。

どこかで会ったと思ったんだ!

 

 

 

私が出社して、エレベーターホールへ向かおうとしたら…。

いつものざわめきが聞こえてきた。

 

我が社の風物詩。

前を見ると─────。

支社長と西田秘書が、正面玄関からエレベーターホールへ向かいだしていた。

 

ヤバい。

昨日、会ったばかりだもん。

さすがに、私のこと覚えているよね。

やっぱり、道明寺ホールディングスの社員って言った方が良かったかな。

 

でも…。

あの時は、あんな倒産直前工場経営者のパパと、道明寺ホールディングスの支社長が今後、会うってことは無いだろうって判断してしまったんだよね。

私も、もう会うことは無いって思っていたし…。

 

とりあえず、今は逃げよう。

エレベーターホールに向かおうとしていた足を180度方向転換し、私はトイレに駆け込んだ。

 

はー、はー、はー。

思わず、洗面台に手を付き息をつく。

 

ドキドキドキ。

えっ、なに?

 

異常にドキドキしている私の心臓。

久しぶりに走ったから、まさかの運動不足?

 

でも、私の頭に浮かぶのは、運動不足のことじゃなく…。

昨夜、支社長が笑った顔。

 

キューン。

心臓がますますドキドキしてくる。

 

私にとって初めての動悸。

どうしていいのかわからない。

 

ドキドキが治まってから、私はエレベーターホールへと向かった。

 

そこには、もう支社長はいなかった。

ホッと安心しながら、どこかで残念に思ってしまっている私。

 

なんで、残念に思ったの?

また支社長のことを思い出すと、ドキドキ動き出す私の心臓。

 

それにしても─────。

今まで、社内で会ったことすら無かったのに…。

同じ会社だと、いつどこで会うかわからないよね。

 

やっぱり、最初に道明寺ホールディングスの社員ってことを伝えていた方が良かったのかも…。

こんな風に思いながらも、支社長は忙しいから、次に会ったとしても私のことなんて覚えてないよ。

こんな風に思うことにした。

 

それなのに、私は─────。

でも、少しくらい覚えていて欲しいな。

こんなことを、思ってしまっていた。

 

なんで、こんな風に思ってしまったのかな?

自分の頭で思っていることと、心で思っていることが違う。

 

支社長が私のことを、覚えてないって思った瞬間。

私の胸は、苦しいくらい締め付けられた。

 

 

 

俺の存在に気付いた途端─────。

牧野は180度回転して、トイレに駆け込んだ。

 

人生で初めて、俺は女に避けられた。

なんでなんだ?

 

今までの香水臭い女達なら、体を摺り寄せて

『昨夜は、ごちそうさまでした。』

だとか

『ご一緒させていただき、とても幸せでした。』

こんな周りに誤解を招くようなことを、言ってきたぞ。

 

なんで牧野は、俺を避けたんだ?

あいつも完全に、エレベーターホールに向かっていたはずだ。

 

なんで俺より、トイレなんだ?

普通だった俺だろっ!

 

俺は、お前にまた会いてーって思っていたし、一緒にメシも食いに行きてーって思ってんだぞ。

日本酒の練習するって約束は、どうなったんだよ。

 

こんな時は、どうしたらいいんだ?

次に、牧野に会う時はどうしたらいいんだ?

っつーか、メシを誘う場合はどうしたらいいんだ?

 

社員と俺。

っつーことは、社員と支社長になる。

 

この場合、どうなるんだ?

コンプライアンスに引っ掛かる。

かもしんねー。

 

どうしたらいいんだよ。

俺は、今まで女なんて追いかけたことなんてねーからわからねー。

 

あいつらに、相談するか…?

人妻専門のあきら。

一期一会の総二郎。

三年寝太郎の類。

 

こいつらに相談するなんて無理だろ。

笑い話にされて終わる。

 

俺は、目の前にいる西田を見た。

ダメだ。

こいつは論外だ。

女と付き合ったことなんてねーはずだ。

 

姉ちゃんもダメだ。

相談どころじゃなくなる。

興奮した姉ちゃんに、俺は絶対に蹴り飛ばされる。

 

何で俺の回りには、フツーに相談できる奴がいねーんだよっ!

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。