八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

Coincidence3

2023-01-21 08:00:00 | Coincidence(完)

 

 

全く想像していなかった女の言葉に、俺は唖然としてしまった。

しかも、この女は他の女と違って、俺に色目を使わねー上に全く興味がなさそうだ。

 

何度も頭を下げながら、          

『すみません。』だとか、

『申し訳ございません。』なんて言っている。

 

このタイミングで、女将と料理長がいつものように挨拶をしに部屋へ入ってきた。

直ぐに女将と料理長の元に駆け寄った女は、また

「すみません。」

って、言いながら頭を下げた。

 

そして、二人に向かって、

「折角、作って頂いたお料理なのですが…。父の体調が悪くなってしまって…。」

こんな風に謝りだしたんだ。

 

さっき、俺に謝った時と同じように、何度も謝罪の言葉を入れ、その都度頭を下げている女。

こいつが頭を下げる度に、こいつの黒髪が室内の照明に反射して綺麗に光る。

 

思わず俺が、その髪に見惚れてしまった時─────。

仲居が料理を運んできた。

 

「お料理のお代は、私が…。うっわー、おいしそう。綺麗!食べるのが勿体ないっ!

って、すみません…。えっとー、お料理のお代は、こちらで負担させてもらいます。」

なんて言い出したんだ。

 

いつの間にか、俺はこいつの綺麗な髪から、コロコロと変わる表情に目が移っていた。

俺や女将、料理長に謝るこいつの顔。

料理を見た途端、目をキラキラさせるこいつ顔。

 

こいつと目が合った途端─────。

「お前、時間あるのか?」

俺は、こんなことを口走っていたんだ…。

 

 

 

思いもしない支社長の言葉に─────。

私は思わず「はい。」って頷いた。

 

確かに、私が『はい。』って言ったんだけど…。

なんで『はい。』なんて言ってしまったんだろう…。

 

なぜか、私は支社長と、運ばれてきたお料理を一緒に食べているの。

ビックリでしょ。

 

だから、私は極度の緊張状態!

会社の上司とご飯を食べるってだけでも緊張するのに、支社長だよっ!

お茶も溢せないし、もちろん、おかずも落とせない。

お箸を休ませる時なんて、少しだけ下を向いて深呼吸したくらい。

 

それなのに、そんな私の大緊張に全く気が付かない支社長は…。

私の目の前で、綺麗にお料理を食べているの。

 

本当に、綺麗に食べているんだよ。

思わず、見惚れてしまうくらい。

私なんて、マナーもなんにも無いから正直恥ずかしい。

遅いくらいだけど、私も社会人なんだから、食事のマナーとか身に付けていきたいな。

 

支社長って、怖いって思っていたけど…。

普通に優しい人なのかもしれないな。

さっさと帰ったっていいはずなのに、私と一緒にご飯を食べてくれているんだよ。

 

私が、思わず「美味しー。」なんて言ってしまっても、

「そうか?美味いか?」なんて、聞いてきてくれるんだよ。

 

あまりの美味しいお料理に「うーん!」なんて唸ってしまっても、

そんな私を見て、笑ってくれているんだよ。

 

 

 

俺の目の前では、牧野ってオヤジの娘が、『美味しー』だとか『綺麗』っつー言葉を言いながら食い出した。

マナーなんて全くねーが…。

こいつが美味そうに食っているのを見ると、無意識に笑ってしまっている。

スゲー美味そうに食っていて、いつもはあまり食わねー俺ですら食いたくなるくらいだ。

 

幼なじみのあいつらにはバカにされっけど…。

正直、女と仕事抜きで飯食うなんて初めてだ。

女と飯を食うって、こんなに楽しいんだな。

 

こいつは、今までに俺に群がってきた女たちとは違う。

誰に対しても同じように謝る、こいつに興味を持った。

 

しかも、料理を見たときの顔が可愛いんじゃねって思った。

女に対して、こんな気持ちになったことなんてねーけど…。

こいつと一緒にいてーだとか

こいつのことを知りてーって思ったんだ。

 

「食べるのが勿体ない。芸術品みたいですね。」

なんて言いながら、その芸術品ってやつをキラキラした瞳で楽しんだ後、キッチリ食う。

 

そんなこいつを見ていると俺まで楽しくなって、気付けは俺のグラスのビールは空だった。

 

「女将、ビールを瓶で。」

女将に頼むときに、俺は左手を上げた。

 

この料亭を使う時のサイン。

俺が右手を上げたら、最短で解散出来るように料理は次々と運ばれる。

反対に左手を上げると、料理はゆっくり運ぶようにという指示。

 

俺からの初めてのサインに、女将は一瞬目を見開いた。

確かに、俺が左手を上げたのは初めてだ。

しかも、酌なんてされたくねー理由で、グラスビールしか頼んだことがねー俺が、瓶ビールを頼んだんだ。

 

俺の意図することを直ぐに判断した女将は、

ビールを持って来ても、酌などは一切せず直ぐに退室した。

俺は、目の前の女がどう動くのかを観察しだした。

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。