八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

Coincidence1

2023-01-17 08:00:00 | Coincidence(完)

 

 

俺、道明寺司。

高校三年の夏に、卒業を待たずニューヨークの大学へ進学した。

それからの4年は、ひたすら勉強とビジネスの二足わらじ。

必死で頑張った俺は、4年後、日本へ帰ってくることが出来た。

 

道明寺ホールディングス日本支社:支社長っつーのが今の俺の肩書き。

ただ、アメリカと日本では仕事っつーか文化が全く違い、この1年は戸惑いが多かった。

なんとか、日本に慣れ、仕事に手ごたえを感じだした。

 

今日は久しぶりに、幼なじみのあいつらと会う約束をしていたっつーのに…。

秘書の西田が終業間際に言ってきたんだ。

「本日は19時より、牧野ネジ工場の牧野社長といつもの料亭で会食の予定となっております。」

 

あ?

なんだ?

牧野ネジ工場?

聞いた事もねーぞ。

 

牧野社長?

誰だよ、それ。

 

知らねー奴と、なんで一緒にメシ食わねーといけねーんだ?

俺は、必死でサボる方法を考えた。

 

が、隣の西田が必死になって話し出した。

「再来年より道明寺が手掛ける未来型科学館で絶対に必要となります。

将来的には、宇宙開発や航空・深海でも需要が高まると見込んでおります。

いや、将来と言うよりは数年後と思って頂いて結構です。

まだ、どこも目を付けておりません。

今のうちに、道明寺と独占契約を進めてもらいたいと社長からの指示でございます。」

 

再来年に必要なのか?

それなのに、今からで間に合うのか?

なんて思いながらも…。

ババアお得意の独占契約の為に、なんで俺が動かねーといけねーんだっつー思いが出てくる。

 

まためんどくせーことを、俺に押し付けてきやがって!

ババアが、自分で動けつーんだよ。

 

車で移動している間は、いつものように西田からの情報タイム。

「これから会食で会われる牧野社長は、普通の町の工場の方です。」

「一般人と思ってください。」

「役職は社長となられていますが、社員はご本人のみでございます。」

 

・・・・・。

西田の言っている意味がわかんねー。

社長って役職なのに、社員は本人だけ。

社員が一人ってことだよな…。

なんだそれ?

どんな仕事しているんだ?

 

西田の訳の分からねー説明を聞いている間に、車は静かに料亭に入って行った。

 

 

 

私、牧野 つくし。

都立の高校を卒業後、国立の工業大学に入学しました。

そして、今年の春からは、憧れていた道明寺ホールディングスに入社することが出来たの。

 

本当なら、大学で学んだことを活かせられる部署に入りたかったんだけど、私の配属先は総務部だった。

最初は、大学で学んだことを活かされないなって少しショックだったんだけど…。

今となれば、同期や上司に恵まれて、しかも、コツコツした性格が良かったのか私にはピッタリの部署だと思っているの。

 

とは言っても…。

仕事は大変だし、まだまだ覚えることだらけなんだけどね。

 

私の説明はこのくらいにして、私の家族を紹介するね。

まずは、弟。

私より三つ年下の進は、自動車専門学校に通っているの。

 

次にママ。

ママはお喋りで、テレビが大好き。

あと、スーパーの広告で特売品を探すことが好き(これはママのライフワーク?)

パパの仕事の手伝いをしながら、近所のお弁当屋さんへパートに行っています。

 

そして、最後はパパ。

私のパパは、小さいけど(今にも潰れそうな)ネジ工場を経営しています。

残念ながら経営の能力は全くなくって、あるのはパパのネジへの異常な程の愛情だけ。

パパったら、ネジの回す部分が好きなんだよね。

ピッチ(隣り合うネジ山同士の距離のこと)のミリサイズにこだわったり。

太陽に当て『このネジは神々しい。』なんて真顔で言っていたり…。

 

素材に関しては、私は全く分からないんだけど、

『これは世紀の発明だー!』

なんて叫んでいたこともあったけど、注文が来ないんなら意味が無いのにね。

きっと、世紀の発明では無く、正規の発明だと私は思っているの。

 

 

で、その異常な程のネジ愛のパパにっ!

斜陽どころか、いつ倒産してもおかしくないネジ工場を辛うじて経営しているパパにっ!

大企業の道明寺ホールディングス(私の勤めている会社ね)の支社長さんが会いたいって連絡が入ったの。

 

もちろん、連絡してくださったのは、支社長では無く秘書の西田さんって人みたいなんだけど…。

みたいなんだけどって言うのは─────。

あたしは、パパから聞いただけっていうのと…。

私みたいな新入社員が、支社長やその秘書さんと話すことなんて無いからわからないんだよね。

 

しかも、料亭で会食!

パパ、そんな所へ行って大丈夫なのかなぁ…?

 

会社から帰ろうと、駅へ向かっていると─────。

ショルダーバックから、スマホの振動。

 

パパからの着信。

どうしたのかな?

今日って、道明寺支社長さんとの会食の日だったはずなのに…。

 

「はい。」

何も考えないで出た電話。

この後、私は思いもしない時間を過ごすことになる。

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。


過去の話ですが、少しでも楽しんで頂けると嬉しいです。

隔日更新の予定となっております。