あたしたちの一日が終わろうとした時に…。
突然、道明寺が言い出した。
「俺、今日からここに住むから。」
へっ?
なんて言ったの?
ここに住むって言ったよね…。
黙っているあたしに、道明寺の信じられない言葉。
「このマンション、お前と住む為に建てたからな。」
えっ?
マンションって、住む為に建てるの?
いや、住む為のマンションなんだけど…。
今、道明寺って『あたしと住む為に建てた』って言わなかった?
「このマンションからだと、会社もメープルも近くて便利だろ。」
なーんでご機嫌で話している道明寺。
ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「ここって、あたし以外にも誰か住んでいるの?」
実は、このマンションに住みだしてから、
コンシェルジュのおじさん以外、誰にも会ったことないんだよね。
「1フロア下に、お前専用のSPが住んでるぞ。」
こんな簡単な返事が返ってきた。
あたしにSP?って思ったりもしたんだけど…。
道明寺ってそんな奴だよね。
「引っ越しの挨拶周りに行った時、誰もいなかったのがやっとわかったわ。」
「挨拶周り?新年の仕事か?」
あぁ…。
道明寺は、引っ越したらご近所に挨拶するってことを知らないんだ…。
そうだよね、道明寺だもん。
あたしは、引越ししてからずっと気になっていたことを聞いてみた。
「このフロアって、他に玄関がないの。ここだけってのも変なんだよね。これって、あんたの設計?」
あたしの疑問に、道明寺は信じられないことを言ってきた。
「あぁ。こっち側の壁、張りぼてなんだよ。」
嘘でしょ?
張りぼてってコントじゃないんだよ。
唖然としているあたしに
「お前が住むには広すぎるって、西田が言うからよ。俺が住むまで、コンパクトにした。」
こんなことを、道明寺は言ってきた。
ぜんぜんコンパクトなんかじゃないでしょ。
ビックリしているのか、呆れているのか?
あたし自身、自分の感情がわからない時に─────。
「明日の昼から、こっちの壁を取りに業者が来るから。明日から牧野は、寝室移動な。」
当然のように、道明寺が言ってきた。
このマンションに住みだして…。
変だとか、おかしいって思っていたことが、やっとわかったんだけど…。
まさか、こんなことになっていたなんて!
あまりのことに、言葉も出てこない。
そして、道明寺は、
あたしの腰に腕を回して、耳元で囁いてきたの。
「俺、明日はゆっくりの出社でいーんだ。一緒にシャワー?それとも、このまま寝室?」
この道明寺の言葉に、ハッとした。
道明寺は、あたしの寝室へ向かっている。
あたしのクリアブックは?
リビングにもキッチンにも無かったから、絶対に寝室にある。
「ど、道明寺。先にシャワーに行く?あたし、後で良いから。」
その間に、クリアブックを隠すって思っているのに…。
「後で牧野と一緒に入る。」
って、完全にスイッチの入っている返事。
ぎゃー!
どうしよう。
寝室のドアが開いた瞬間!
あたしは、ベッドの上にあるクリアブックへ向かってダイブした。
バレてないけど…。
明らかに不審な顔の道明寺。
ベッドにダイブしたのがマズかった。
余計にバレてしまったかも…?
ヤバイ!
このクリアブックってA4サイズ。
どこにも隠せられない!
ギュッと胸に抱きしめたクリアブックは、問答無用で道明寺に取り上げられた。
道明寺の顔を覗き込むと…。
見るのが恥ずかしいくらいの笑顔で、
「俺と会えねー時、こんな可愛いことをしていたのか?」
って言いながら、あたしをベッドに押し倒してきた。
やっぱり見つかってしまった…。
朝にした溜息が悪かったのかな?
でも…。
滋さんの名前では、何年も悩まされたんだよ。
しかも、滋さんとあたしは親友だから、羨ましく思ったり、妬ましく思ったり…。
この部屋の壁は、張りぼてだったし…。
道明寺のお母さんの話は、早く聞きたかったし…。
マスコミ対策のことだって、もっと早くに教えてくれたら良かったのに!
道明寺の色っぽい顔が、近づいてきた。
でも…。
あたしだって、少しくらい反撃しないとね。
「春から原田くんも、あたしと一緒に道明寺に入社なの。よろしくね、道明寺専務。」
あたしの言葉と同時に、道明寺の動きが止まった。
青筋だらけの道明寺に、説教された後で…。
原田くんにはきちんと断るって約束をさせられた。
「俺も、一緒に行く。」
なんて言い出したんだけど…。
入社後のことも考えて、あたし一人で必ず断ってくることになった。
しかも、あたしの近くにはSPさんが待機って約束までさせられた。
こんな風に、道明寺とあたしの長い1日は終わろうとしていました。
勿論、このままで終わることは無くって…。
この後は、道明寺とあたしだけの時間。
お読みいただきありがとうございます。